結果ストーリー

 「ちょっと沙羅、いまどっか行くのはまずいんじゃない?」
 獣戦機隊・ランドライガーのパイロット式部雅人は、沙羅が戦闘服姿でランドクーガーに乗り込むのをみて、そう声をかけた。
 目前にニューエドワーズ基地襲撃をひかえ、パイロットたちには待機が命じられている。
 沙羅はクーガーの起動とチェックを終えてから、ようやく雅人の方を向いた。
「すぐ戻るよ。作戦の前にちょっと行かなきゃならない所があるんだ」
 そう言って、キャノピーを閉じる。ランドクーガーが、がりがりと音をたてて、動き出した。
「ちょ、ちょっと沙羅ってば! ブライト中佐にばれたら、なんて言えばいいのさ!」
「放っておけ、雅人。何しに行くかは、お前もわかっているだろう」

 クーガーに向かってわめく雅人の肩に、亮が手をかける。
「そりゃそうだけどさ。あーもういいや、どうとでもしてよ」

 にぎやかで、比較的まともに残っている部類に入る街の片隅に、その建物はあった。所々くずれかけたその建物の中は、電灯が壊れたままで薄暗い。難民よりはマシ、という程度でしかない連中が住んでいる所だ。
 沙羅はパリパリと乾いた音を立てるコンクリートの破片を踏み付けながら、目的の部屋を探した。埃くさい匂いに顔をしかめながらも、ようやくのことで聞いていた部屋を見つける。わずかに躊躇してから、かつては自動だったはずのドアを力いっぱいスライドさせた。
「誰だ」
 誰何する、するどいが力のない声が、部屋の奥から聞こえた。
 沙羅はそのまま、声の主のいる所まで歩いていく。部屋の中もまた、薄暗く、汚れていた。
「……やっぱりこんな所にいたんだね、忍。薄汚くて、あんたにぴったりな所じゃない」
「……沙羅……か」

 その忍の反応は、沙羅が予想していたのとはずいぶん違っていた。
「……召集命令は聞いてるんでしょ、忍。亮も雅人も、もう解放戦線に合流して戦ってるよ。なのに、あんたは何だってこんな所でうだうだやってんのさ」
「…………」
「黙ってないで、なんとか言いなよ!」
「…………うるせぇな……帰れよ」
「何だって!? 忍、あんた一体どうしたっていうのさ! ふぬけになっちまったっていうのかい!?」

 沙羅はあまりにも昔と違う忍の様子に、思わず声を荒げる。
「俺は……もうじゅうぶん戦った」
「忍……あんた……」

 さらに言いつのろうとしていた沙羅は、その忍の口ぶりに言葉をつまらせた。
「……そうだね……長い戦いだったさ。とっても長いね。失うものばっかりで、気がついてみればアタシたちは裸同然にされてたよ。いったい何のために戦ってきたのか……って、そう思いもしたよ」
「…………」
「だけどさ……アタシたちは、信じられるものだって、手に入れたはずじゃないか。違うかい、忍?」
「沙羅……」
「アタシは……亮も雅人も、あんたを信じてる」
「…………」
「……邪魔したね、忍。久しぶりに会えて、良かったよ」

 沙羅は一枚の紙切れを忍の方へ放って、そのまま部屋を出ていった。
 その紙切れを拾い上げた忍は、目を通してからくしゃっと丸めて握り込む。
「……くそ……」
 そう口の中でつぶやいた。

『海と大地の狭間より』
解放戦線作戦2 VS ドレイク軍

 ペガサス級強襲揚陸艦グレイファントムの艦内に警報が鳴り響いた。
 ヘンケン・ベッケナー中佐は、仮眠していた自室から慌てて飛び出ると、艦橋へと駆け込んだ。
「出たか」
「はい。それらしい機体が確認されました」

 艦橋にいたシロー・アマダ少尉が、ヘンケンに答える。
「何機だ?」
「今のところ、3機です」
「……少ないですね」

 そう言ったのは、ルーク・ヴィンスヘル准尉だ。これまでに入ってきている情報では、目撃されている機数はもっと多いのだ。
「正体を確認するなら、その方が都合がいいさ。仮に敵の新兵器でも、数が少なければなんとかなる」
「アマダ少尉の言う通りだな。未確認機と接触するぞ。いつでも出られる準備をしておけ!」

 砂漠地帯の上空。数機の人型をした機械のようなものが浮かんでいた。そのシルエットは機械というよりも、生物、甲虫や甲殻類のような外骨格の生き物のようにも見える。しかし腹部にあたる部分には人が乗っており、やはりそれが生物ではなく、人の道具であるとわかる。
 赤い1機が、青い機体に急接近した。
「やめろ、ガラリア! こんなところでやりあっている暇はないんだ!」
 青い機体ダンバインの操縦者、ショウ・ザマは、そう叫んだ。
「バイストン・ウェルに帰れぬとあれば、せめてお前を倒さずして、なんの戦士か!」
 赤い機体バストールのガラリア・ニャムヒーはそう返しながらも、剣を取り出してダンバインに切りかかる。
「あの軍勢をみたはずだ! あれは俺が知っている地上のものでも、バイストン・ウェルのものでもなかった。地上は何かおかしなことになっているんだ!」
「私に、何の関係がある!」

 ショウは必死になってガラリアの攻撃をかわす。時折もう1機……マーベル・フローズンのボチューンがガラリア機をけん制するが、近寄りすぎれば自分がやられる。
「ショウ、もうもたないよぉ!!」
 ショウの頭の横で、“妖精”というイメージそのものの羽の生えた小さな人がバタバタと暴れた。ショウは視界をさえぎるように動いたチャム・ファウの体を、手でどけようとする。
「チャム、邪魔だ!」
「変なトコ触らないでよ!」
「そんな場合じゃないだろ! ガラリア、俺たち以外にだって、地上に出ている者はいるはずだ。戻れる方法だって、見つけられるかもしれないだろ!?」
「ならば、お前を倒してからそれを探すまで!」
「ショウ!」

 マーベルが叫ぶ。ガラリアは一向に耳をかそうとしない。撃破するほかはないのか……? ショウがその覚悟を決めようとしたとき、チャムが何かを見つけた。
「ショウ! 何か近づいてくる!」
「なんだ……? ガラリア!」
「なに!? ……地上人の船だというのか……!?」

「あの機体……見たことないわ。まるで虫か何かみたいね」

 そのキョウカ・アオツキ少尉の感想は、おそらくほとんどの者が思っていたことだった。MSとはまるで異質なそれは、やはりレジスタンスではありえない。
「そこの3機、聞こえるか? こちら地球解放戦線機構のヘンケン・ベッケナー中佐だ。こちらには交戦の意思はない。君たちの所属を確認したい」
「どうやら、あの敵ではないようね、ショウ」
「ああ。だが連邦軍でもない。……俺はショウ、ショウ・ザマだ。あんたたちと同じ地上人だ。こっちも交戦する気はない。攻撃はしないでくれ」
「地上人? 地球人ということか……?」

 バルドゥイン・シュタインホフ准尉は、その不思議な語感の言葉に疑問をもったが、ヘンケンはとりあえず気にしないことにしたようだった。
「状況を確認したいのだ。攻撃はしない。君たちは帝国軍ではないのだな?」
「俺たちはバイストン・ウェルから来たんだ。こっちこそ何かどうなっているのか、わからないんだよ! 解放戦線だの帝国軍だのいわれたって、さっぱりなんだ」
「バイストン・ウェル……? どこのことだ」
とアマダ少尉。
「……海と大地の狭間にあるといわれている。ファンタジーの異世界みたいなものだ」
「ショウ、この人たち大丈夫なの?」

 操縦席のハッチを開いて話をしていたショウのまわりを、きらきらと光を撒き散らしながらチャムが飛び回る。
「……な……なんだ!?」
 ヘンケンは一瞬何が見えたのか、理解できなかった。
「妖精……? 中佐、羽が生えてましたよ!?」
 フレイ・イシュヴァーン准尉があっけにとられたような顔で言った。
「こっちこそ聞かせてもらいたい。いったい、地上はどうなってしまったんだ?」
「……君は異星人ではないのだな?」
とヘンケン。
「俺は、地球人だよ。JAP地区出身だ。もう一人はマーベル・フローズン。北米出身」
「……地球は異星人の支配下にある。我々はそれに抵抗する組織だ」
「異星人!? じゃ、ショウ、あのときの軍勢は……」
「ああ……マーベルの言うとおり、逃げて正解だった」
「ショウ・ザマといったな。地球人というのなら、我々に協力しないか。君の事情も詳しく聞きたいし、どうやらあちこちに君たちの乗っているのと同様のものが、出現しているらしいのだ。情報がほしい」
「私たちだけではない……どういうこと……?」
「やはり、ジャコバ・アオンだ。フェラリオがしかけんだ。了解した、ヘンケン中佐。先のことはわからないが、とりあえず協力する。収容してほしい」

 ショウがそういうと、それまで黙って状況の推移を見ていたガラリアは、再びダンバインへ攻撃をかける姿勢を見せた。
「ショウ! 貴様、その連中に己を売るのか! やはり地上人同士のなれあいか!!」
「落ち着けガラリア! おそらくすべてのオーラマシンが地上へ飛ばされたんだ。バイストン・ウェルに戻れずに、こんなところで死ぬつもりか!? 俺はお前との戦いを避けて見せた。いいかげんに少しくらいは、状況を考えてくれ!」
「そおよ! 少しくらい、いいじゃない!」

 チャムもショウにつられてガラリアに叫ぶ。
「……地上で死ぬのは犬死だというのか……いいだろう、ショウ・ザマ。かつての同胞として、お前の言葉を聞こう。それで、私にとうしろというのだ」
「とりあえ戦いはやめろ。この人たちの船で話を聞くんだ。ほかの連中のことだってわかるかもしれない」
「……話がついたのなら、着艦してくれ。誘導灯を出す」

 ショウ、マーベル、ガラリアとチャムは、船の中へと入った。オーラバトラーと呼ばれるそのマシンの周囲には、ものめずらしさでパイロットや整備士たちが集まる。
「オーラバトラー……いったいどういうマシン……?」
 キョウカは筋組織らしきものが見える関節に、ますます疑問をつのらせる。
 しかしもっとも注目を集めているのは、オーラバトラーではなく、チャムだった。ヘンケンに言われてショウたちを向かえにきたナーディルは、その姿を努力して意識しないようにした。
「ナーディル・アブドゥフ中尉です。ご案内します」
「すまないがオーラバトラーには誰にも手を触れさせないでもらいたい」
「わかりました、注意させます。こちらへ」

 ナーディルについて彼らが歩き出そうとしたとき、艦内に警報が響いた。
『未確認機、多数接近中! パイロット各位は発進準備!』
 何事かが起きたことを悟ったガラリアは、すばやい動きでバストールへと戻る。それから、ショウに向かってさけんだ。
「ショウ、オーラバトラーが来る!」
「なんだって!? どこの部隊だ……?」
「アブドゥル中尉、我々は発進準備ができています。いつでも出られます」
「カイン少尉、まだ状況がわからない。そのまま待機して」
「了解」

 ザッフェ・カイン少尉はモニタにうつるオーラマシンの群れを見た。まるでカナブンの群れみたいだな……と考えたが、カナブンは襲ってくることはないだろう。

 アの国の騎士バーン・バニングスは、その地上の船のデッキから飛び立ったオーラバトラーを見て、震えた。見間違うはずがない。ダンバインとボチューン、そしてバストールだ。
「ダンバイン……ショウ・ザマか!!」
「バーン・バニングス!」
「なに、バーンだと!?」
「ふん、ガラリアか。貴様が裏切るてとは予想外だったが、まぁよい。地上の船もろとも、まとめて叩き落すのみ!」
「まてバーン! 私は……」
「問答は無用だ! 覚悟!」
「バーン、状況を考えろ! ここは地上なんだぞ!? 戦いをやめろ!」
「そうはいかん。地上で最初に会う者が貴様だというのは、私にとっては僥倖なのだ。地上で死ねること、幸せと思え!」
「俺に会ったのがそんなに幸運か!」
「そうだ! 地上に来てまで、私はチャンスを与えられたのだ!」
「そういうことだ。悪いな、ショウ。ウィル・ウィプスも地上に出てるって話だ。やるしかないんだよ」
「トッド! 貴様、地上人のくせに……!」
「他人に説教するほど歳をとったのかよ、ショウ! 貴様のおかげで、俺は地獄を見たんだよ!」
「どうした、ショウ・ザマ! その連中は何なんだ!?」
「ドレイク軍です! 応戦してください、中佐。彼らは攻撃してきます!」
「敵ということか、了解した。全機、発進しろ!」

「信じないわけにもいきませんね。しかし、そっちも戦争中でその敵まで地上に出ているというのが問題だな」
「確かにな」
 アマダ少尉の言葉に、ヘンケンもうなづく。
「さっき戦ったうちの何人かも、地上の人間です。他にも地上の人間がいましたが、どう行動するのかわかりません。それと、仲間がいれば合流したいのですが」
「いいだろう、可能な限り情報を集めさせる。しかし、いま地上を支配しているのは異星人の帝国だ。我々もあまり動き回れる立場ではない」
「それは、わかりました。バイストン・ウェルでの敵であるドレイクやビショットたちも気になりますが、僕も地球人です。異星人の帝国との
戦いには参加します」
 それは、マーベルも同意見だった。
「そうね……私もそうさせてもらいます」
「わかった。そうしてくれるとありがたい。それで、君はどうする、ガラリア・ニャムヒー君。ショウ君たちとは敵対する組織……さっき戦った連中の仲間だと聞くが」
「……わからない。地上のこともだが、状況もまだよく理解できないのだ。その整理がつくまでは、しばらく世話になるつもりだ。私も武人だ、いきなり敵に回ったりはしない。その証に、バーンたちとも戦ってみせただろう」
「了解した。君が敵になることのないよう、祈りたいものだな」

『破滅を導くガンダム』
カラバ作戦2 VS デビルガンダム

 リュウ・イシュマイルは、“化け物”の正体について知りたくて、うずうずしていた。
「いったい何がいるんですかねぇ。百鬼やミケーネじゃないって言ってたけど、化け物っていうくらいですから、よっぽどの奴なんでしょうね」
「ま、どんな奴でも俺たちはそれを倒すだけだろ。化け物退治は昔っから正義の味方の役割って決まってるんだ。たまには帝国やらスペシャルズから地底人やらとやりあうんじゃなくて、化け物退治をするってのも、乙なもんだぜ」
 そういったのは、ジュウロウ・ヒメサキである。
「何が相手かわからないっていうのに、気楽なもんだわ」
 ジュウロウたちの会話を聞きながら、シモーヌ・ルフランは肩をすくめた。
「まぁ、それがカラバのいいところでもあるのよ。ローレンス、その後何か情報は?」
 マナミ・ハミルはなにやら端末を操作していたローレンス・ジェファーソンに、そう声をかける。
「はい、ゲッターチームの流竜馬様からのご連絡で、目標の居場所を確認したとのことでございます」
「本当? じゃ、さっそく向かいましょう」
「それと、もうひとつ。調査中に、やはり同じ相手を追っていると思われる方々と接触したとのことです」
「あら、どこの人たちかしら。カラバではないわよね」
「なんでもガンダムタイプのMSに乗っているとのことでした。詳しいことはわかりませんが、おそらくゲッターチームとともに合流することでしょう」

「くっ……街が……」
 ブット・オリバーは声をつまらせた。そこかしこから煙のあがる街は、まだ破壊されてからたいして時間がたっていないと思えた。
「なんてこと……許せないわ」
「お嬢様、目標を発見いたしました。北東2Kmあたりをインダス河にそって北上中です」
「ティアたちは街の人たちの救助をお願いできる?」

 街の様子を苦しそうに見ていたティア・ブルフィナの様子を見て、マナミが声をかける。
「は、はい! まかせてください、マナミさん」
「お願いね。終わったら戻ってくるから。みんな、いよいよご対面よ。急ぎましょう!」


「あれは……一体なんだ……?」
「なに……あれは!?」

 シャラディ・マハルとマナミはその“化け物”の異様さに、思わず同じような声をあげた。
 頭部にあたると思われる部分は、“ガンダム”と呼称されるMSのそれに似ている。しかし、それ以外の部分はMSとは似ても似つかない。人の作ったものであるのは間違いないようだが、確かに“化け物”としかいいようのない姿だった。
「……どこの変人だ、あんなばかげたゲテモノにガンダムの頭をつけた奴は!」
 シズマ・ミドウが叫ぶ。レイリル・ハーヴェルもまた、出撃準備を忘れて、スクリーンに見入ってしまっていた。ガンダムの頭をしている以上、誰かがどこかで作ったものには違いない。だけど、いったい何のために……?
「とにかく、放っておいては被害が広がる一方だわ。幸い帝国軍もスペシャルズも来ていないみたいだし、予定どおりやるわよ。みんな、出撃しましょう。あれを止めるのよ! ローレンス、発進準備は!?」
「終了しております、お嬢様」
「“化け物”め、絶対ここで止めてやるぞ!」

 ブットは格納庫へ向かって走り出す。アリサ・セキニシも続いた。
「せやな。ウチらも急ごうで、マナミはん。いよいよ化け物退治の始まりや!」

 カラバの一行が“化け物”を発見して出撃を開始したのと同じくして、ゲッターチームもまた、その場に到着していた。
「よぉし、追いついたぜ。ドモン・カッシュ、あいつで間違いないんだな?」
「ああ、間違いない。ようやくつかまえたぞ兄さん……キョウジ!! レイン、お前はここで待っていろ!」

 竜馬の言葉に、ドモンと呼ばれた男が答える。彼が乗っているのは、確かにガンダムタイプのMSのようだった。
 発進してきたカラバ隊も、彼らに気づいた。
「ゲッター? あれが戦闘タイプ……早乙女博士の所のゲッターチームか」
 そう言ったのは、プロト・ゲッターに乗るクルト・ヴァイスだ。
「マナミさん、ゲッターロボが来ました!」とナシュア・アバーナント。
「あれが……形はクルトたちのとあまり変わらないみたいね」
「リョウ、どうやら連中も追いついたようだぜ」

 カラバの部隊に気づいた神隼人が、竜馬に言う。
「ああ。カラバの部隊へ。こちらはゲッターロボ、流竜馬だ。わかっていると思うが、あれが例の化け物だ。さっそくだが、全力で奴を叩き潰すぞ!」
「こちらスイームルグ、マナミ・ハミルです。こちらも最初からそのつもりよ。戦闘用のゲッターロボの力、あてにしているわ」
「そいつがスイームルグか。うわさは聞いている。万丈のところでつくったんだってな」
「ええ。ところで、そちらのガンダムは……」
「ドモン・カッシュとレイン・ミカムラさんだ。あれを追っている。あのデビル……」
「うわっ、おいドモン・カッシュ!!」

 隼人の言葉を遮るように、竜馬が慌てた声をあげた。
「くだらんおしゃべりをしているヒマはない!!」
 ドモンの乗るガンダムはものすごい勢いで、単機“化け物”へ向かって突進して行ってしまった。
「くそっ、オレたちもいくぞ!!」
 とゲッター1もドモンのガンダムの後を追った。
「マナミ、挨拶は後回し。あれを何とかした後で話を聞くことにしましょう」
 シモーヌがあきれた顔で言う。
「そうね。みんな、行くわよ!」

「やったか!?」
「いや……まだだ!」

 竜馬の言葉に、ドモンはそう返す。デビルガンダムはそう簡単に倒れはしない。
 案の定、デビルガンダムはボロボロになりつつも逃走を開始する。そのスピードは信じがたい速さだった。
「くっ、待てキョウジ!! 追うぞレイン!」
「待てドモン・カッシュ!! 帝国軍かスペシャルズが接近中だ。深追いは禁物だぞ!」
「そうね……あれだけダメージを与えておけば、もうそうそう暴れることはないはずよ。行方はカラバで調査するわ。ここは、これでよしとしましょう」
「だが、奴を逃がすわけには!!」

 そう言ってドモンはデビルガンダムを追おうとする。それをとめたのは、レインだった。
「だめよドモン。あなた一人で帝国軍を相手にするつもり!?」
「帝国軍だろうがなんだろうが、まとめて相手をしてやる!!」
「なんて血の気の多い奴だ」

 エンカイ・ナンジョウジがあきれた声をあげる。さすがに血気にはやりやすいカラバの面々といえども、ここまで無謀なのは滅多にいない。
「待ちなさいドモン! シャイニングもダメージを受けているのよ!? そんな状態では、帝国軍どころか弱ったデビルガンダムだって倒せはしないわ!」
「クッ……くそぉ! キョウジィィィィィッッ!!」

「さっきは挨拶できなかったわね。私は、カラバのマナミ・ハミルです」
「シモーヌ・ルフランよ、よろしく」
「私は、レイン・ミカムラです。ドモンと一緒にデビルガンダムを追っているとき、流さんたちと出会ったの。彼はドモン・カッシュです。シャイニングガンダムに乗っています」
「レイン、余計なことは言うな」
「だって、お世話になるからには、ちゃんと話はしておかないと……」
「俺はそんなつもりはない」
「じゃあ、どうするというの!? また一人でデビルガンダムを探してまわわるというの!? 帝国軍と戦いながら!? もうシャイニングだってボロボロなのよ!! 放っておけば勝手に直るわけじゃないの!」
「し、しかし……」
「しかしも何もありません!」
「ちょっと待ってよ。ぜんぜん話が見えないのだけど……竜馬さん?」
「いや、オレたちもあのバケモノを追っているときに会っただけなんだ。彼らの事情はよくしらないんだよ」
「あんたたち、コロニーから降りてきたんじゃない? 違う?」
「シモーヌ、この人たちを知ってるの!?」
「知らないわよ。ただ、ハンスが言ってたこと、思い出しただけ。シャイニングガンダムっていう名前と、連邦のMF計画が中止になった後、それが開発元のコロニーに戻されたって話。あれ、MSじゃなくて、MFなんでしょ?」
「……ええ」
「レイン!」
「もうドモン、いいかげんにして! お願いだから、ここでお世話になるしかないんだって、わかって。どうしても行くっていうなら、絶交よ! 1人で行けばいいんだわ」
「いくらコロニーから来たからって、もういいかげん地上がふらふらうろつける所じゃないってことは、あんたにもわかったでしょ」

 とシモーヌはレインとドモンの間に割ってはいる。
「よっぽと腕に自信があるみたいだけど、デビルガンダムじゃなくてスペシャルズあたりにやられたちゃったら、さぞかしみっともないでしょうね」
「なんだと、貴様!」
「ほーら、そうやってすぐ頭に血をのぼらせて、ここまで来たんでしょうけど、自分の機体の状態も把握できないんじゃ、あんたの腕もしれたものだわね」
「くっ、言わせておけば。女といえど、そこまで挑発するからには、覚悟はできているんだろうな」
「あら、あんたとやりあいたい奴なら、ウチにはいくらでもいるわよ。でも、壊れかけたガンダムじゃ、誰も相手にしないでしょうけどね」
「く……いいだろう。その言葉、忘れるな。レイン、さっさと修理にとりかかれ」
「もう、ドモン、ここの人たちに挨拶するのが先でしょう!? すみません、ご好意に甘えてしまいますけど、しばらくお世話になります。よろしくお願いします」


「で、あれが6つ目だったってことかしらね?」
 ドモンたちが退室した後、シモーヌが言った。
「6つ目? 何の話だ?」と竜馬
「M作戦のことです。6つ落下して、まだ5つしか確認されていなかったの。レインさんの話を聞いた限りでは、やっぱりその可能性が高そうだわ」
「そうですな。目撃情報も落下推測地点からここまでの間に点在しておるようですし、まず間違いはないかと」

 ローレンスが端末を操作しながら応える。
「M作戦ね。コロニーの連中はなんだってあんなもんを地球に落としやがったんだか、さっぱりわからんな」
「聞いてみたらどうだ、隼人。あのドモンという男なら、けっこうな事情を知ってそうじゃないか」
「いまの所、彼は何も教えてはくれないわよ、きっと。何か事情がありそうだしね」

『その名はジャイアント・ロボ』
カラバ作戦3 VS スペシャルズ作戦2

 北京は、廃墟だった。3年前、帝国の衛星軌道上からの攻撃によって焼き払われた都市は、いまもなお無残な姿をさらしたままだ。ごく少数の難民たちが比較的(あくまでも比較的だが)被害の少なかった外縁部に住み着いている以外は、ほかに住む者とてない。荒涼とした光景が続いているのみだ。
「ペキンもこんなひどいことになってたのか……」
 ボレロ・バッジオは、その光景を目にして絶句した。あの攻撃で直接焼かれた都市を見るのは、初めてだった。
「で、弓教授たちは、ホントにこんな所に来るのか?」
「そうだ、バックスタッバー。村雨という、もと国際警察機構のエキスパートが連絡してきた。教授はジャイアント・ロボとともに、こちらへ向かっている」
「了解。んじゃ俺たちはちょっとあたりを見て来るぜ。百鬼やミケーネが先に来ても困るからな」

 イン・バックスダッパーはそう言って自分の機体に戻っていく。
「ジャイアント・ロボね……聞いたことないな。どこの奴なんだ」
 ガーゼット・シルバーがアランに聞く。
「それも、国際警察機構のものらしい。私も詳しくは知らないが、音声で操作するようだ。操縦者は少年ということだが、開発した博士の息子ということだ」

「くっ、だめ……追いつかれる!?」
 もと国際警察機構のエキスパート・銀鈴は、後方にせまる異形のロボットから逃げ切れないことを悟った。自分1人ならなんとかなるかもしれないが、銀鈴は弓教授を連れているのだ。
「フフフ、いまさらどこへ逃げようというのかな? おとなしく教授とそのケースを渡してもらおうか」
 ロボットの操縦者の声が響く。
「ぎ、銀鈴くん、これを持って、君だけでも逃げてくれ」
「いけません、教授! もうすぐ、合流地点ですから!」
「ほう、まだ逃げようというのですか。私はそのケースだけでも手に入れば、それで構わないのですがねぇ」

 ロボットが一気に加速して、銀鈴たちのもとへ威嚇攻撃をかけながら、前方へとまわりこもうとする。
「こ、こんなところで!!」
 弓教授を抱えたまま跳躍した銀鈴は、かろうじて崩れた路面に巻き込まれるのを避ける。しかし、このまま避け続けることは不可能に近い。どうするべきか……。銀鈴がなんとか次の行動を考えようとしたとき、また別の声が響いた。
「走って、もっと早く! そのまままっすぐ!!」
「えっ!? ええっ!!」

 銀鈴ははじかれたように体制を立て直し、教授を抱え込むようにして走り出す。
「いいかげんに観念してもらおう!!」
 ロボットが一気に距離をつめるが、銀鈴たちが攻撃されることはなかった。ロボットが攻撃体制をとる寸前、その眼前にもう一体、別のロボが現れたからだ。
「大作くん! それに、ジャイアント・ロボ!!」
「な、なんだ!?」

「銀鈴さんたちは、そのまま逃げてください! やれ、ジャイアント・ロボ!!」
 ガオオオォォン。ロボットの咆哮が響く。命令はロボットの頭部にとりついた少年、草間大作が出したものだった。
「こ、これはジャイアント・ロボ!? えぇーい!!」
 異形のロボットは、標的をジャイアント・ロボへと切り替え、襲いかかる。
「叩け、ジャイアント・ロボ!」
 大作の命令にロボは忠実に応える。巨大な拳が、異形のロボットへとたたき込まれた。
「2人とも、大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとう大作くん。助かったわ」
「いえ、すみません、敵が近くにいたなんて気付かなかったんです。弓教授、銀鈴さん、ロボの手に乗ってください。あれ、味方の人たちですよね? 向かえに来てくれたみたいです」

 大作の視線をおって、銀鈴と弓もそちらを見た。それは、彼らの姿を発見したカラバの部隊だった。

「教授、ご無事でなによりです」
「おお、アランくんか。いやよく来てくれた。ありがとう。なんとか脱出できたのは、彼女たちのおかげだ」

 弓が言うと、銀鈴はアラン以下カラバの面々に頭を下げた。
「もと国際警察機構所属の銀鈴です。中条長官の紹介で、ジャイアント・ロボの調整のため立ち寄っていたため、教授をお助けすることが出来ました」
「感謝する。ここへくる途中、中条氏からの伝言を受け取った。君と草間大作、ジャイアント・ロボは、このまま我々に合流してもらいたいとのことだ」
「長官が? わかりました。よろしくお願いいたします」
「あれが、ジャイアント・ロボ……では、あの子が?」

 敷島麗美は、ジャイアント・ロボの顔にとりついたまま、どうやら見張りをしているらしい少年を見上げた。
「ええ、ジャイアント・ロボの操縦を担当しています。大作くん、降りてらっしゃい」
「はい! ロボ、降ろしてくれ」

 大作の命令で、ロボは大作をのせた手をゆっくりと地上へと下げた。大作はロボの手から飛び降りる。
「音声認識か……」
「そう、ロボは音声のみで操作を行うんだよ。基本行動はA.I.によって制御されているようだね。なかなか興味深い技術だ」

 と弓は興味深そうにロボを見ながら、アランに解説する。
「草間大作です! よろしくお願いします!」
「ああ……カラバのアランだ。よろしく頼む、草間大作」

 その少年の明らかに異質なはつらつさに、多少アランも動じたようだった。
(この少年は、本当の戦いがいかに凄惨なものであるのか、まだ知らないのだ)
 大作より二回りは年長のガーゼットは、そう感じた。これまでの戦いの中でどうやって生き延びてきたのかは知らない。しかし、ロボはともかく、この少年をあてにすることは出来ないと思う。
君、ちょっと聞きたいんだが、弓さやかはどこにいるか知っているかね?」
「ええ、教授。さやかさんは万丈さんたちとニューエドワーズ攻撃に参加する予定で、北米に移動しています」

 教授を案内しにきたアキラ・ランバートがそう応える。
「そうか……」

「ヤザン、やはりさっきの連中はカラバのようだ。偵察隊が報告してきた巨大ロボも確認した。幸いミケーネや百鬼は姿が見えん。一気にしとめるぞ」
「わかった、ガイア特尉。ネズミ狩りを始めるとしよう。ベルヴィル、貴様の隊が先鋒だ。ネズミどもを分断しろ」
「了解。ブランホード、カイゼル、アオイ、ミハエル、行くぞ」

 ジャンヌ・ベルヴィル1級特尉は指揮下のパイロット、ブランホード・ミデュラス1級特尉、カイゼル・ルーラ2級特尉、アオイ・スチュアート2級特尉、ミハエル・ジェラード上級特士らに号令する。百鬼やミケーネといった連中と共同で戦わねばならない状況も想定されていたが、どうやらそうはならないようだ、とわかってジャンヌは安堵した。あの連中は何を考えているのかわからない。帝国に与しているというが、基本的に人類と敵対するものであり、何時なんどきこちらに矛先が向くか、わかったものではないのだ。
「オルテガ、マッシュ、俺たちは敵の後方にまわるぞ。ヤザン、後は頼む」
「俺に面倒を押しつける気か」

「単独行動をさせるな、とレディ・アン特佐から厳命されているのでな。悪く思わんでくれ。また後方に送られたくなければ、あきらめて本隊の指揮をするんだな」
「ハッ、わかったよ」


「アラン隊長、スペシャルズです!」
 黒騎士隊の副長フランシスが慌てた声で報告する。ミノフスキー粒子濃度が濃くなっていたために、接近に気がつくのが遅れたのだ。
「撤収は間に合わなかったか。やむを得ん。交戦しつつ撤退する。銀鈴、弓教授をミデアへ頼む。アキラ、ラディカル、シンサクはミデアを護衛してくれ」
「了解、まかせてくれ」
とアキラ。
「調子に乗りすぎて獣戦機を壊すなよ。葉月博士に何を言われるかわからん」
 真っ先に動き出したのは、ジャイアント・ロボだった。
「いくぞ、ロボ! みんなにお前のすごさを見てもらうんだ!」

『英雄の帰還』
解放戦線作戦3VSスペシャルズ作戦4

「まだ捕捉できないのか?」
「は、この辺りは先日ゲリラとの交戦があった関係でミノフスキー粒子濃度が濃く……」

 ライラ・ミラ・ライラ上級特尉はそのオペレーターの返答に、軽く舌打ちする。
「まったく、なっちゃいないね。急がないと敵が出てくるかもしれないってのに」
「ライラ特尉、私たちが追っている人物とは、一体何者なのですか」

 フィリア・シェフィールド特士のその問いに、ライラは不機嫌そうな顔をみせた。
「それは言えないといったろう。そんなことを考えているヒマがあったら、監視所へでも昇ってな」
「ハッ、申しわけありません!」

 フィリアは慌てて退出する。
 重度危険人物指定を受けて軟禁されていたその人物の名は知らせてはならない、とバスク・オム特佐から厳命を受けていた。もちろんライラはそれを知っている。知っているから、命令がなくとも口にしたかどうかはわからない。名前だけで士気に影響を与える人物、という存在はあるのだ。
 特に、1年戦争を戦った者にとって、無視できない名前が二つある。ジオン将兵から連邦の白い悪魔と恐れられたニュータイプ、アムロ・レイ。連邦将兵から赤い彗星と恐れられた、シャア・アズナブル。シャアはア・バオア・クー会戦で行方不明だが、いま1人は……。
 戦意を喪失するくらいならばまだいい。しかしその名を聞けば、一般兵士の中にはその者……アムロ・レイとともに戦おうという者が現れるに違いない。
 もちろん、一部の士官の中には、自分たちが追っている者が、かつて英雄と言われたアムロ・レイであることに、うすうす気付いている者もいる。そこまでしなければならない人物など、そう多くはないからだ。
 だからこそなおさら、彼をレジスタンスに合流させるわけにはいかなかった。
「特尉!!」
 オペレーターの1人が唐突に叫んだ。
「なんだ、一体!」
「監視所から報告がありました。当該機を発見。ただし、解放戦線と思われる大型輸送艇の機影も複数発見とのことです!!」
「間に合わなかったか……総員、戦闘配置。レジスタンスとの交戦は避けられない。もはや目標を捕捉することは不可能となった。作戦目的を目標の撃破のみに切り替える。パイロット各員は用意が出来次第発進しろ!」

「大尉、スペシャルズです」
 アポリー中尉がモニタから顔を上げて、クワトロ・バジーナ大尉に告げた。
「見つけたか。パイロット各位につぐ。空戦になる。ベースジャバーから落ちたら拾ってやる余裕はないものと思ってもらいたい。注意しろ」

 解放戦線と接敵するよりも早く、先行したスペシャルズ隊は小型輸送機を捉えた。ヒカル・コウガ上級特士がまず威嚇射撃を行うが、輸送機に変化は見られない。
「コウガ、威嚇ではなく撃墜しろ!」
 ショウ・フラック1級特尉は、ヒカルがとった行動を叱責する。
「逃げ切れると思っているの、そんなもので?」
「貴方に恨みはないけれど……トレーズ様のため、1撃で仕留めてみせる」

 続いたリオン・シャウカイドウ上級特士とベル・ゼ2級特尉は、ヒカルのようなことはしなかった。一気に撃墜するための攻撃をしかけたのだ。ベルもリオンも、輸送機など確実に撃破できると確信していた。しかし……。
「バカな、かわされた!?」
 ベルは驚愕した。はずしたわけでは絶対にない。機動性のない輸送機などにかわしきれる攻撃でもなかった。なのに、なぜ!?
「威嚇はもういい! 撃墜するんだ!」と再びショウ。
「特尉、今のは威嚇ではありません!」
 言いながらも、リオンはそれが言い訳にしか聞こえないだろう、と思った。自分が攻撃したのでなければ、自分もそう思ったはずだ。
 アマガワラ・ジン特士は、作戦前に噂されていた名前を思い出していた。アムロ・レイ……連邦のニュータイプ。7年前の大戦の英雄……。
「あれが……ニュータイプ……?」

「何だ……輸送機を攻撃した!?」

 ヒカルの威嚇射撃を見たリドル・フェイテッド少尉は、そのスペシャルズの奇異な行動に困惑した。だが次の瞬間、スペシャルズが追っていたものがそれなのではないか、と思い当たる。
「大尉、民間の小型輸送機にスペシャルズが攻撃をかけています。敵のターゲットではないでしょうか」
「民間機だと? ……あれか」

 クワトロがそれを見つけたとき、スペシャルズの第2撃が輸送機に加えられる。誰もが、被弾した、と思った。しかし、まるで攻撃を予想していたかのように、小型機はそれを擦り抜ける。
「ええぃ、輸送機などで何をやっている、アムロ!」
 思わずそう口走り、クワトロは自分の口から出たその名前に、驚愕した。
(アムロ……アムロだと!?)
 一瞬とまどったクワトロだが、すぐに冷静さを取り戻す。
「全機、スペシャルズに攻撃を開始しろ! あの輸送機を落とさせるな!」

「アムロさん、あれは解放戦線です!」
 ハヤト・コバヤシの養子であり、かつてホワイトベースの小さなクルーでもあったカツ・コバヤシは、急激な動きにシートごと揺さぶられながら、叫んだ。
「父のいるカラバではありませんが、解放戦線にはブライトさんもいるって聞いてます。味方と考えていいはずです!」
「そうか……よし、カツはホモアビスで脱出しろ。後方の大型輸送艇に拾ってもらえ」
「アムロさんはどうするんです!?」
「俺も後で脱出する。急げ!」

 カツがハッチへ向かっていった直後、目の前を解放戦線の赤いMSが通りすぎる。通りすぎざま、MSは“行け”、という意思を示したかに見えた。
「シャア、何のつもりだ!」
 そう口にしてから、アムロは今自分が人の名を呼んだことに気付く。
 ……やはり、シャアだ。とアムロは自分の感覚を再度確認してみる。
 しかし、いまは輸送機でMSの攻撃から逃れなくてはならない。

 輸送機の前を通過した一瞬で、クワトロは操縦席に座る人物の顔を確認していた。その印象と、感覚は、先ほどの自らの言葉が正しい、と告げる。
「間違いない……アムロ・レイだ……」

「アムロ・レイ大尉、ご無事ですか」
「ああ……ありがとう、助かった」

 輸送機を捨てて脱出したアムロを拾い上げたシンディは、マニュピレーターの上のその人物を見ても、まだ半信半疑だった。まさか自分があのアムロ・レイに、戦場で出会うことになるとは。
「ヤマザキ少尉、大尉の収容を急いでくれ」
「は、クワトロ大尉。レイ大尉、自分は地球解放戦線機構のシンディ・ヤマザキ少尉です。母船に収容いたしますが、よろしいでしょうか」
「よろしく頼む、ヤマザキ少尉」

「スペシャルズか探していたのって……人だったのか」
 ヤクモ・ハシバ准尉は、輸送機に乗っていた人物がアムロ・レイだと聞かされそう言った。
「……あれがアムロ・レイ……連中がやっきになって追っかけとったわけやな」
 リュウキ・オカノ少尉も、ヤクモの言葉にうなづきながら言う。
「……誰なんです、その人」
 どうやらほとんどの者が知っているらしいその人物を、アークライト・ブルーは知らなかった。リヴァル・ミラー准尉は、驚いた顔でアークライトを見た。
「君は知らないのか? 7年前のジオン独立戦争で活躍した連邦のエースパイロットだよ。ニュータイプと言われていて、たった1機ですごい戦果をあげたんだ」
「最初のガンダムに乗ってたお人や」
とリュウキ。
「そうなんですか? そんなにすごい人には、見えなかったけどな……」

「レイ大尉をお連れしました」
 シンディは解放戦線の大型輸送艇のブリッジにアムロを案内してきた。
「ご苦労、少尉。地球解放戦線機構のクワトロ・バジーナ大尉です。一年戦争の英雄にお会い出来て光栄だ。よろしく」
「……よろしく、大佐」
「私は、大尉だよ」
「アムロさん!」
「カツ、大丈夫か?」
「はい、クワトロ大尉に拾ってもらいました。聞きましたか? クワトロ大尉はブライトさんと一緒に戦っているんだそうです」
「そうか……」
「今は作戦行動中だが、じきに会えるだろう。あのホワイトベース隊の戦いぶりがまた見られると思うと、うれしい」

 その言葉を聞いて、アムロはシャア(クワトロと名乗ってはいるが、間違いなくシャアだということが、アムロにはわかっていた)の表情をうかがう。あれからもう7年が過ぎたのだ。
「いや……カラバのハヤト・コバヤシに連絡はつけられるだろうか? カツが同行していることを知らせておきたい」
「連絡をつけさせよう」
「すまない……クワトロ大尉」
(……シャア……)

 あの時から、死んだとは思っていなかった。だが……なぜ地球圏に戻ってきたのか。それだけは近いうちに聞かねばならない。部下たちに指示を出すクワトロ=シャアを見ながら、アムロはそう考えていた。

『苦しみの刃』
解放戦線作戦1+カラバ作戦1VSスペシャルズ作戦1

 帝国軍のニューエドワーズ基地。まもなく開始される作戦のため、続々と戦力が集まりつつある。ゼクス・マーキス上級特尉は、格納庫で彼が搭乗することになる新型MSトールギスを見ていた。開発されたのはだいぶ前なので、実際には旧型なのだが、あまりにパイロットの存在を無視した機動性能ゆえに、言葉通りお蔵入りとなっていたMSなのだ。リーオーやエアリーズは、このトールギスの性能を低下させたものと言われている。常人では扱い得ないこのMSを、トレーズはゼクスのせめにレストアし、くみ上げさせたのだ。
「ゼクス特尉」
「ワーカー特士、貴様の発見したMSがようやく使えるようになった」
「聞いております。これで“ライトニング・バロン”の一層のご活躍が拝見できます。帝国やレジスタンスも、その存在を無視できなくなるでしょう」
「噂の先行は好きではないのだがな。しかし、この作戦に間に合ったのはなによりだ。ここは相当に厳しい戦場になる」
「やはりそう思われますか。正規軍のギウラ少佐などは、この警備で攻めてくるバカはいない、と言っているそうですが」
「バカは、来る。今我々が相手にしているのは、そういう連中だ」
「ゼクス特尉、メイリーン・エヴァンス上級特士です。この作戦ではともに行動させていただきます。よろしくお願いいたします」
「了解した、特士。だが、貴様の機体では、おそらく私のトールギスに追従はできまい。オットー、ワーカーとともにフォローをしてもらう」

 ニューエドワーズ基地に警報が響き渡った。もっとも慌てたのは、防衛隊指揮官のギウラだっただろう。
「な、な、なんだ!? どうしたのだ!?」
「どうしたもこうしたもねぇ。敵が来たんじゃねぇか。ひゃははははは!」

 ギウラの様子がさも可笑しいとでもいうように、ゴステロが嘲笑する。
ひへへへへへ」
「ひぃやぁ!! オレの計算通りだぁっ!!」

 死鬼隊のボーンとマンジェロも興奮しはじめる。
「き、貴様ら! 敵が来たのなら、さっさと出撃しないか!!」
 威厳を取り繕うかのように命令するが、死鬼隊の面々ははなかたギウラなど相手にしていなかった。
「慌てるんじゃねぇ。まず地球人どもにやらせりゃいいんだ。ふひ、ふひひひひ」
 ゲティのその態度に、ギウラは二の句が告げない。
(くっ……なぜル・カイン閣下はこんな連中を親衛隊などに……)

「いいか、目標は基地中央からやや南側にある、エリアだ。情報では、ここに帝国やスペシャルズの高官たちが集結しているはずだ」
 ブライト・ノア中佐は、スクリーンに映る基地の様子をさしながら言った。
「時間をかけると完全に包囲され脱出が不可能になる。すみやかに作戦を実行しろ」
「カラバの方は?」
とセレイン・メネス。
「時間はあわせてある。万丈くんがやってくれるはずだ」
「了解」
「よし、各機出撃しろ!!」
「アマミ、ガンダム、発進します!」

 アマミ・ユウイチ少尉が真っ先に飛び出し、続いて解放戦線のMS隊が続々と発進していった。

「はぁ……こりゃ盛大なお迎えだ……」
 シュン・オルドバルは、敵の様子を見てため息をもらした。
「少なくとも、予測の範疇を越えるほどじゃないさ」
 と万丈は気楽に言ってのける。
「時間だ。攻撃を開始しよう。敵の守備隊はかなりの数だ。手ごわいのもいる。みんな十分気をつけてくれ」
「ハハッ、こんな所に突っ込もうってんだから、俺たちらしいよな、まったく」

 いくら敵の高官が集まるとはいえあきらかに無謀と言える作戦だ。ター・ラグナロクは苦笑いする。
「前回は失敗だったけど、今回こそはやりましょう!」とクロス・ステンバーグ。
「上等だぜ。まず俺とカーツで突っ込む。あんたらは後ろをカバーしてくれ」
 ブラッド・スカイウィンドはそう言って、アースゲインの親指を立ててみせた。
「いくぞ、カーツ!!」
「わかっている……」

 カーツ・フォルネウスがぼそりとつぶやく。アースゲインとヴァイローズを中心に、カラバ戦隊もニューエドワーズ基地へ向けて発進していった。

「チッ、突っ込んだはいいが、こいつはキツイぜ……」
 ウィーグラフ・スフィールド曹長は、思わず愚痴めいた言葉をもらす。どうやらニューヤークにいたル・カインの親衛隊(エイジと因縁のあるゴステロという男がいる隊だ)や、スペシャルズの新型までいるようだ。一息つくヒマもなく、次から次へと敵機が出てくる。
「うわっ!?」
 ウィーグラフが危うく直撃をくらいそうになった所を、巨大な獣型のメカが引き倒してかわさせた。
「間一髪ってとこかな! 無事だろ、曹長?」
 ランドライガーの雅人の声が聞こえた。
「もうちょっと下がったほうがいいんじゃない? 中央突破は無理みたいだ」
「りょ、了解……」

 ウィーグラフは機体をたてなおし、友軍機の集団へと合流する。
「雅人、こっちだ!」
「はいはい、わかってますって!」

 ビッグモスの亮は、リーオーを蹴散らしながら移動する。
「こういう状況には、ダンクーガのパワーが欲しいんだがな……」
「結局、沙羅は何の説明もなしだったしねぇ。どうなってるんだかさっぱりわからないよ」

 レジスタンス部隊と守備隊の交戦は激化し、戦闘は基地エリア内におよび始めていた。大会議室にも爆発の影響で激しい地響きがおこる。出席者たちは、みな一様に動揺の声をあげた。
「ど、どうしたことだ、これは?」
 もと地球連邦軍元帥であり、3年前の防衛戦の指揮をとったノベンタもまた、会合に出席していたうちの一人だった。
 トレーズ・クシュリーダやレディ・アンが意図的に流したように、確かにニューエドワーズには、帝国の高官の一部や、地球側のもと連邦高官、スペシャルズ指導層などが集まっていた。だがその目的は、レジスタンスたちに知られることはなかった。
「反帝国レジスタンスの襲撃です。会談は中断せざるを得ません」
 ノベンタの近くにいたトレーズが、そう答える。
「バカな。ようやくグレスコ総督が地球人の権利を認め、このような会談の場も用意できたというのに……。不幸な偶然なのだ。私はこれを自治権獲得の、平和への障害とは思わん」
「お気持ちはよくわかります。レジスタンスは早急に排除せねばなりません」
「バカをいうな!」

 トレーズの言葉を聞き、ノベンタは首をふる。いかにもスペシャルズ総帥の言いそうなことだが、あらためてこの場に彼らがいる理由を、ノベンタは考えざるを得なかった。
「自分たちのみの安泰を得ているロームフェラ財団の幹部に、何がわかるというのだ。彼らは真剣に地球の未来を考える若者たちだ。それを排除して、この地球に何が残る。グレスコ総督も、レジスタンスたちの説得に意義を見いだして下さっているのだぞ!?」
「おっしゃることは、私にも大変よくわかります。しかし、ここはともかく脱出するのが先決ではありませんか。ガルダが待機しております。ここは戦場となりますゆえ、ほかの方々とともに、それで脱出されるのがよろしいでしょう。死んでしまっては何ごとも成せません。ノベンタもと元帥がなくなられては、これまでの努力が無駄になりましょう」
「しかし……」
「帝国側にも打診ずみです。お急ぎください」
「…………わかった、まかせる」

 ニューエドワーズに、未確認のMS数体があらわれたのは、すでにかなりの乱戦へと移行していたころだった。
「やれやれ、先客がはでにおもてなしを受けてるぜ。ありゃ、レジスタンスの連中だな」
 黒い翼をもったガンダム、ガンダムデスサイズのパイロット、デュオ・マックスウェルが陽気に笑う。
「……地球解放戦線機構とカラバ……か」
 ヒイロ・ユイがモニタを確認してつぶやいた。その機体は、確かに前回スペシャルズとの交戦で海中に沈んだはずの、M作戦のMSだった。
 ガンダムMKIIのカミーユ・ビダンは、その2体のガンダムを見た。うち1体は、データが登録されている。
「ブライト艦長、あれは……」
「わかっている! ヘンケン中佐が確認したMSだ。どうやら無事だったようだな」

 ブライトはそう答えると、その2機がスペシャルズや帝国機と交戦を開始したのを確認する。
「どうやら目的は同じようだな。ほかの機体もM作戦のものかもしれん。とりあえずやらせておけ!」

「見てよトロワ。レジスタンスやあの2機のガンダムも、きっと目的は同じだよ」
 ガンダムサンドロックのカトル・ラバーバ・ウィナーは、同行しているガンダムタイプのパイロットにそう声をかけた。
「……なんであろうと、邪魔になるなら排除するまでだ」
 そのガンダムのパイロット、トロワ・バートンは、感情の一切こもっていない声で返答してくる。
 カトルをバックアップするマグアナック隊は、退路の確保にまわっているため、ここにはいなかった。
「あ、あれは……」
 カトルは乱戦の中、見覚えのある赤い機体を見て、思わず手を止めた。
「カラバの方、またお会いしましたね」
「……M作戦のガンダムか……」

 セレイン・メネスはその見覚えのある機体に乗っている少年の名と、去り際の言葉を思い出した。次に会うときも敵ではないことを祈ると、言っていた。
「カトル……と言ったな。それで、今回は敵か、味方か。敵だというのなら、撃破する」
「待ってください。今あなたがたと戦う意味はありません。目的はおそらく同じでしょうから、味方と言っていいと思います。トロワ、彼らと一緒に戦おう」
「……俺には味方などいない。任務遂行の邪魔になれば、排除する」

 トロワが淡々と言う。
「やれるものならな」
 セレインも静かにかえす。一瞬緊張が走ったが、エアリーズ数機が攻撃を加えてきたため、会話はそこで中断となった。
「まぁいい、好きにしろ。ひとつだけ言っておくが、私は解放戦線に所属している。カラバではない。カラバの指揮官なら、あのでかいのだ。余裕があるならそっちに挨拶するんだな」

「あれは……」
 アウドムラの直掩についていたシンシア・アルマーグ曹長は、突然戦域に飛び込んできたその戦闘機に注意を向ける。機体のコンピュータが示したデータは、イーグルファイターだった。
「獣戦機……オリジナルだわ! ブライト中佐、イーグルファイターです!」
「なんだと!? 藤原中尉か!? 奴め、やはり生きていたのか……」


「亮、あれ忍だよ!」
 雅人はその忘れるはずの無いシルエットが上空を旋回するのを見て叫んだ。
「ふん……ミヤモトムサシの真似でもしたつもりか」
「またせたな、亮、雅人、沙羅!」
「忍……あんた……」

 沙羅はふっと口元に笑みを浮かべる。しかし次の瞬間には、表情をキッと引き締めた。
「忍、遅いんだよ! 来るならもっと早く来な!」
「チッ、せっかく来てやったのに、うるせぇ女だな」
「藤原、貴様は実戦から遠ざかっていたはずだ。やれるのか!?」
「心配すんなよ、ブライト中佐。俺は思い出したからな」
「思い出した?」
「ああ……獣戦機隊に、野生をしばる理性はいらねぇってな! わかったら黙って見物しててくれよ!」

 ブライトはその言葉に絶句する。
「ふん、短絡的なのは相変わらずだな。威勢だけでは、戦いには勝てんぞ」と亮。
「いいじゃないか、亮。それでこそ忍ってもんだろ」
「あんたたち、いつまでぐたぐたやってんのさ! 忍、ぼけっとしてんじゃないよ!」
「へっ、言われるまでもねぇ! 沙羅、亮、雅人、アグレッシブ・モードじゃ話にならねぇ。ダンクーガに合体するぞ!」
「へへっ、そうこなくっちゃ!」
「久しぶりだ。失敗するんじゃないぜ、忍」
「ふん、すっかり待ちくたびれてたトコさ」
「いくぜ! キーワード、D・A・N・C・O・U・G・A……ダンクーガ、ロックオフ!!」

 忍がコード入力を終えると、4機の獣戦機は合体フォーメーションを組む。ビーストモードから通常モードへ、、さらに合体モードへと変形した。ビッグモスを母体に、両足にランドライガーとクーガー、頭部にイーグルファイターがドッキングし、ダンクーガとなる。
「やぁぁぁぁぁってやるぜ!!」

「ガルダが出る……?」
 アフィーネ・アーマライト2級特尉は、ガルダ級の巨大輸送機が滑走路に出たのを見た。
「特佐、あのガルダは……」
 ルクス・フィスト2級特尉は、レディ・アン特佐に確認をとる。護衛をしなければならない、と考えたためだった。しかし、戻ってきた命令は、予想外だった。
「そのままいかせてよい、特尉。貴様たちは接近する敵のみに気を配っていればいい」

「万丈さま、スペシャルズのガルダです。進撃に時間がかかりすぎたようですな。目標エリアへ到達したものはカラバ、解放戦線ともにおりません」
「しまった、脱出する気か!?」


「やっべぇ、ターゲットが逃げちまうぜ!」
 離陸したガルダを見てデュオが叫ぶ。
「なんですって!? くっ……ここからじゃ追いつけないじゃない!」
 ガーネット・マリオンは悔しげにコンソールを叩いた。
「スペシャルズと帝国の高官が脱出する……? 逃がしはしない」
 ヒイロはウイングガンダムを変形させると、一気にガルダへと迫っていった。
「なに……?」
 ノベンタは、その機影が、あきらかに自分たちの乗る機を標的としていることに気づいた。
 ヒイロは上空で再度MS形態になる。ピピピピッ。スクリーンの中のターゲットサイトが、目標をロックしたことを知らせてきた。
「ターゲット捕捉……破壊する」
 そのMSの巨大なビームライフルがガルダを指向していることに、ノベンタは無念の想いを抱いた。なぜ、よりによって平和会談の最中、こんな基地にレジスタンスたちが攻撃をしかけてきたのか。なぜ……。そのMSの姿を見ながら、ノベンタは祈るようにつぶやいていた。
「早まるな……若者よ……」

「ガルダが!」
 アフィーネはその光景にショックを受けた。むざむざやらせてしまうとは。
 ヴァネッサ・ギャラウェイ1級特尉も、ことの成り行きに驚いていた。万が一にもヤバクなったら、逃げてしまおうとまで思っていたのだが……。
「なんてことを!」
 エマ・シーン1級特尉もまた、そう口にする。
「シーン特尉、どういたしますか!?」
 そう聞いたのは、エスナ・ラシエル特士だ。
「特士、あの機は誰の命令で出たのか、確認! 急いで!」
「了解!」

 レジスタンスたちは作戦の成功を確信し、士気があがっていた。後は残敵を叩きつつ、撤退すればいいのだ。しかし……。
「貴様ら、まだ無意味な戦いにあきたらないのか!?」
 新たに現れたガンダムタイプのMSから、そんな通信が飛び込んできた。
「貴様らはまんまとはめられたのだぞ!」
「……なんだって? いったいどういうことだ!?」

 万丈は突然あらわれてとんでもいことを言い出すその声に、聞き逃せない響きを感じて、思わず聞き返していた。
 シェンロンガンダムの五飛は、その声がカラバの指導者・波嵐万丈であることに気づいた。
「カラバか。どういうことか、自分で連中が流している放送を傍受して聞いてみろ! 貴様たちは、ようやく帝国の譲歩をとりつけた地球の平和論者や帝国の親地球派の高官たちを、一掃してしまったのだぞ!!」
「そんな……バカな!」

 それを聞いていたブライトも、ブリッジで呆然と立ち尽くす。
 しかしブリッジに流れ始めたそのトレーズ・クシュリナーダの演説は、ガンダムのパイロットの言葉をそのまま肯定していた。
「踊らされたのだ。ル・カインとトレーズの手の中で!」

「そ、そんな……」
 カトルたちもまた、その衝撃的な事実に、戦意を喪失しつつあった。直接手をかけたヒイロは、おもわずガルダの残骸を見た。
「俺は……」

「なんということだ……。く……全機撤退だ! トーレス、発行信号出せ! 急げ!」
 ブライトはシートに沈み込みながら命令を出す。
 カラバの方でも、どうやらそれが事実であることが確認されていた。
「残念ですが……どうやらあのパイロットの言うとおりのようです、万丈さま」
「僕としたことが……してやられたか。スペシャルズ……トレーズめ! みんな、急いで撤退するんだ!」
「俺の……俺のミスだ……!」

 ヒイロは戦闘を放棄し、再び飛行形態へと変形すると、一気に戦域を離脱していった。

「処理は完璧です、トレーズ様」
 レディ・アンは、何事もなかったかのように戦闘が終結するさまを見ていたトレーズに、そう報告した。
「そのようだね。ル・カイン閣下にもご報告申し上げてくれ。……これで人々は、迷うことなく歴史の流れに身を任せられる」
「はい、トレーズ様」

「……なんてことだ、まったく」
 がっくりとうなだれて、クロスがつぶやく。まさか敵の罠が、あの大部隊ではなく、自分たちに襲撃をさせることそのものにあったとは。
「……いまさら言ってもしかたがない。それよりも、追撃隊が出てくる。この状態で再度の交戦は避けたい。急ごう」
 珍しく深刻な顔つきで万丈が言う。
「おい、それでいいのかよ!?」
 ブラッドはその万丈の態度に苛立ちをぶつける。
「落ち着きなさいよ。今はそうするしかないでしょう?」
 弓さやかに言われて、ブラッドは納得がいかないという顔のまま黙り込む。
「……で、あの子たちはどうするの?」
 ガーネットも疲れ果てた顔だ。可能なら高官たちの抹殺という汚れ役を引き受ける気でいたガーネットである。直接手を下したヒイロやカトルたちの衝撃がどれほどか、考えるまでも無く理解できた。
 ヒイロとトロワ、五飛はそれぞれ離脱していったが、デュオとカトルの2人は、カラバの部隊とともに撤退してきたのだった。すでにマグアナック隊も合流している。
「そうだった。君たち……これからどうするつもりだ? よかったらこのまま一緒にこないかい? コロニーのM作戦のことについても、聞かせてもらいたいしね。つらいのは一緒だ。来てくれるなら、歓迎する」
「頼む……今は同情が気持ちいいぜ……」
「……僕も、同行させてください。今は、そのほうがいいと思います」

 カトルが言うと、マグアナック隊の隊長ラシード・クラマは、慌ててカトルの前に出た。
「カトル様! 我々はそんなに頼りないですか?」
「違うよラシード。マグアナック隊にだって、やるべきことはたくさんあるでしょう。まだまだ、戦いは続くのだから……」
「……カトル様がそうおっしゃるのなら、仕方ありませんな。わかりました。我々は基地に戻ります。でも、何かあったら必ず呼んでください」
「もちろん。では万丈さん、よろしくお願いします。改めて名乗ります、僕はカトル、カトル・ラバーバ・ウィナーです。ガンダムサンドックに乗っています」
「俺はデュオだ。デュオ・マックスウェル。逃げも隠れもするが、うそはいわねぇ。デスサイズと一緒に、やっかいになるぜ」

そして……

 ニューエドワーズの出来事を境に、解放戦線やカラバの士気は低下し、状況は一気に悪化していく。それもまた、ル・カインやトレーズの思惑とおりであった。
 この後ル・カインは一気に反帝国勢力の制圧に乗り出し、そして多くの反帝国組織が壊滅させられていった。カラバや解放戦線もまた、帝国軍・スペシャルズの執拗な探索と攻撃の前に、中核の戦力のみがかろうじて残っているような状態となっていくのである。
 もはや、地球の命運は定まったかに見えた……。

……To be continue.
Please wait NextGame.

あとがき
・あ〜最後だというのに、やっぱりというかなんというか、いろんな意味で手抜きにならざるを得ませんでした。そのくせ最後ということで、ちょっと無理してPCを多く出したため、なんだか変な感じです。
・イベントなどに関してはできるかぎり書きましたが、甲児やエイジたちの部分も書ききれませんでした。すみません。何が哀・戦士たちなのかよくわからないお話になってしまいましたね……。
・これを書いていて、ニューエドワーズにノベンタたちの乗ったガルダと、マグアナック隊を出し忘れたことに気づきました。実はほかにもいくつかうっかりミスがあって……どうも集中力を欠いていたようです。
・ちなみに解放戦線作戦3アムロの救助ですが、中東ではなく中米の間違いです。まぁこのゲームではあんまり違いはしないんですけど。

・ということで、まったくの途中ですであれなんですが、WIEはとりあえずこれで一旦休止、という形になります。HP自体はしばらく残しますので、なにしろ最後ですから、感想などでも掲示板に書き込んでくれるとうれしいです。

・この後の展開ですが……新規スタートがどういう状況からになるのかまだつめていませんので、シナリオ的にこのまま続くのか、それともある程度の時間が経過した後からになるのか、まだ未定です。世界観やストーリーラインは引き継がれる予定なので、PCは造り直したりしなくてすむようお願いしています。システムが変わればデータのコンバートは必要になりますが。

今回 登場PC
地球解放戦線機構
ナーディル・アブドゥフ中尉
ルーク・ヴィンスヘル准尉
キョウカ・アオツキ少尉
リュウキ・オカノ少尉
リドル・フェイテッド少尉
ザッフェ・カイン少尉
シンディ・ヤマザキ少尉
アマミ・ユウイチ少尉
バルドゥイン・シュタインホフ准尉
フレイ・イシュヴァーン准尉
ヤクモ・ハシバ准尉
リヴァル・ミラー准尉
ウィーグラフ・スフィールド曹長
シンシア・アルマーグ曹長

カラバ
リュウ・イシュマイル
ジュウロウ・ヒメサキ
ブット・オリバー
ティア・ブルフィナ
シャラディ・マハル
シズマ・ミドウ
レイリル・ハーヴェル
アリサ・セキニシ
クルト・ヴァイス
ナシュア・アバーナント
エンカイ・ナンジョウジ
ボレロ・バッジオ
イン・バックスダッパー
ガーゼット・シルバー
アキラ・ランバート
ラディカル・グッドスピード
シンサク・タケミカズチ
シュン・オルドバル
ター・ラグナロク
クロス・ステンバーグ
ガーネット・マリオン

スペシャルズ

ジャンヌ・ベルヴィル1級特尉
ブランホード・ミデュラス1級特尉
ショウ・フラック1級特尉
ヴァネッサ・ギャラウェイ1級特尉
カイゼル・ルーラ2級特尉
アオイ・スチュアート2級特尉
アフィーネ・アーマライト2級特尉
ルクス・フィスト2級特尉
ベル・ゼ2級特尉
ミハエル・ジェラード上級特士
リオン・シャウカイドウ上級特士
ヒカル・コウガ上級特士
メイリーン・エヴァンス上級特士
アマガワラ・ジン特士
エスナ・ラシエル特士
フィリア・シェフィールド特士
[back to the TOP]     [back to the MISSIONS]