時代は動き出していた。 物資面で困窮し、ル・カインの苛烈な政策によって追いつめられて行く解放勢力は、遂に起死回生の一手として進めていた作戦を実行に移す。 一方、その動きを見切った帝国軍は、その作戦を作戦ごと噛み砕くべく、大部隊を移動させていた。 ・ ・ ・ |
『ヒイロ閃光に散る』 |
全勢力・作戦1 |
それは、グラドスタワーへの攻撃が始まる数日前のことだった。 「君たちを呼んだのは他でもない、君たちが出してくれた作戦提案書についてのことについてだが」 解放戦線拠点の一室に集められた数人の兵士。そして彼らを出迎えたのは、ブレックス・フォーラ准将と、カラバ側の指揮官アラン・イゴールだった。 「それでは私の、タワー地下からの奇襲作戦を採用してくださるのですか?」 「あわてるな、シンシア。戦いに勝つには情報が必要だ。現在君の作戦が実行可能かどうか調査を進めている」 シンシア・アルマーグ少尉の言葉をアランが遮る。 「それでは……?」 「さっきもいったとおり調査が必要なのだよ。そしてモニカ・プティング君、君の提案もアラン君から聞いている」 ブレックスに名前を出された、モニカ・プティングは怪訝そうな表情を浮かべた。 「あたしの案は、ハッキングによるタワー防衛システムの沈黙ですけ、ど」 「ああ、確かに君の提案はそうだった。だが、外部から帝国の本拠地にハッキングをしかけて失敗した同志を、私は数多く知っている」 「それじゃあ……」 否定的なアランの答えに首をかしげる。 「それはもう少し先の話なのだ。まずは布石を打たねばならないのでね……レナ・ウォーカー曹長、君はそこにいるイン・バックスタッバー君やモニカ君と共に、グラドスタワーに潜入、ある人物とコンタクトをとってほしい」 驚くレナ。確かにある人物と接触でききるようサポートしたいとは考えていたが、自身がその使者になるとは想像もつかなかった。 「君の考えはエイジ君から聞いている。その気概を買っての起用だと思ってほしいな。そしてこの作戦の成否は君の働き如何にかかっているといっていい。やってくれるな?」 ブレックスの柔和な笑みとそれとは裏腹の強い意志を感じる口調に、レナは頷く以外の行動を忘れていた。 「この一戦……負けられへんな……」 数日後、部隊の展開も終わ、後は攻撃開始の命令を待つのみとなった現在、リュウキ・オカノ少尉にできることは、ただ呟くことのみだった。 いや、もうひとつできることはある。だがそれは規律を守る軍人としては、絶対に許されない事だった。 呟きの直後、カラバの一部隊が勝手に交戦を開始してしまったとの通信が入る。カラバのトウキ・カゲヤマが抜駆けをした格好であった。 「練度の低さが出たか……」 前線でそれを見ていたザッフェ・カイン中尉が顔をしかめる。もはや後戻りはできない。 ###### 「……私は運がいい」 ゼクス・マーキス特佐は、作戦前のやりとりを思い出すと仮面の下で僅かに笑みを浮かべた。 レディ・アン特佐から、M作戦のガンダムをたった1機で迎え撃つ特別任務をゼクスは受けていた。 そして、トールギス操縦席の前方ディスプレイには、1機の戦闘機の姿が映し出されていた。M作戦調査時に戦った、そしてゼクス自身が心から戦うことを望んでいたガンダムの、もうひとつの姿がそれである。現在戦っていた敵機の相当をエイミ・ヤマト上級特士に押しつけると、トールギスはビームサーベルを抜いてガンダムに突進した。 「最強の戦士として認め合い戦う。この申し出をうけいれざるを得まい。ガンダム!」 『ロアン・デミトリッヒ……そこでは作戦の指揮はできんぞ』 本来ル・カインが上座している指揮官の席に、座っている者は誰もいない。 ロアン・デミトリッヒ副司令は、起立したまま、グラドスタワー中枢の司令本部で指揮を取っていたからだ。 『私は言ったはずだ、支配とは力だ。そして力があるものならば、もはや地球人もグラドス人も関係がない。お前はその力がある』 タワーより遥か離れた戦場。そこからの通信でル・カインはそう言うと、誰にも見せたことのないような柔かな笑みをモニターごしにロアンへと向ける。 『指揮官の席はあそこだ。そう、選ばれた者に戸惑いは不要なのだ。ただ私の期待に答えればよい』 「……閣下」 『てこずりはしたが、こちらの戦も、もう先が見えている。タワーはお前に任せ、私は果報を待つことにしよう』 通信はそこで終わりを迎えた。ロアンは、意を決したかのようにゆっくり、そして堂々と指揮官の席に座る。 「ロアン……」 司令部内の殆どのグラドス人がロアンに厳しい目を向けるなかで、3年前から彼と行動を共にしていたアーサー・カミングス・Jrは困惑するしかなかった。 「スクランダークロース!」 兜甲児は空を飛んでいた。いや、空を飛んでいるのは彼の乗るマジンガーZのほうだった。甲児はあくまで操縦しているに過ぎない。 しかし彼とマジンガーZは何時も1つだった。だから彼は空を飛んでいることになる。少なくとも彼自身はそう思っていた。 ガル・シュテンドウのダミー作戦もあって輸送作戦は成功し、紅の翼を得た空飛ぶスーパーロボットは、巨大なピラミッド状のグラドスタワー、その登頂部へと真っ直ぐに突き進んでいった。 「タワーに接近する飛行物体を確認!」 「敵機判明! マジンガーZです、飛行ユニットらしき装備をとりつけ、タワーへの接近を続けています!」 「司令! タワー守備隊の迎撃許可を! スペシャルズだけでは抑えきれません!」 「マジンガーZの速度上昇! 迎撃許可をお願いします!」「司令本部! 司令本部! 迎撃許可をおねがいします!」「司令!」 許可を与えることの出来る人間は、ロアンのみ。だが、彼は指揮席に座ったまま、沈黙を守りつづける。まるで報告を無視しているかのように。 「司令! 迎撃命令を! 司令!」 「……全軍に撤退命令を出したまえ」 唐突に沈黙を破ったロアンの一言。 「寝返ったか、貴様ぁぁーっ!」 真実に気づいた者が、銃を抜こうとし、銃声が轟く。だが、それはロアンの銃から放たれたものだった。騒然とする司令本部内。司令部のオペレータに偽装して潜入していたイン・バックスタッバーとレナ・ウォーカーたち数人が立ち上がり、ロアンを守るように銃を構えた。 静寂が支配する司令室の中でロアンはさも当たり前のように宣言した。 「今より当タワーは、地球解放戦線機構の管理下にあると思いたまえ」 その言葉と同時に、タワー内部から信号弾が中空に放たれ、閃光が煌いた。そしてそれは最終局面への合図だったのだ。 タワーへと殺到する地球解放戦線・カラバ連合軍。ある者は機動兵器で、またある者は重火器を構えて走っている。 シンシア・アルマーグは地下道から別のレジスタンスと共に突入し、モニカ・プティングは、内部電子システムから、連絡網をずたずたに引き裂いた。 戦況は一変した。あちこちで戦線が崩れ始めた帝国軍は混乱を極め、軍としての機能すら失いつつあった。 それを見たスペシャルズ艦隊の反応は素早かった。即座に撤退を開始する。元々スペシャルズは、司令部をアレキサンドリア内に置いていたため、退却行動は比較的速やかに行われた。 更にグラドスタワーの制圧に精一杯で、レジスタンス本隊に、部隊としての追撃ができなかったのが、スペシャルズには幸いした。しかしそれでも、彼らを追いつづける者はいたのだ。 スペシャルズを倒す為に、宇宙から降りてきた4機のガンダムである。 ウィーグラフ・スフィールド准尉は愛機ネモを駆って、ガンダムたちを追跡していた。ガンダムと力を合わせて、グラドスタワーを制圧しようと考えていたのだが、彼らはタワーよりもスペシャルズを選んだのだ。追跡を進めるウィーグラフは、同じくコロニーのガンダムを探していた、シンサク・タケミカヅチのランドライガーMと合流する。 スペシャルズ、そしてガンダムの動きは速く、2人は彼らを見失ってしまった。だが、そんな2人の通信回路に、通信が入る。彼ら宛てへのものではない。おそらく、この一帯で通信機器を持つものならば、誰でも傍受できるものだろう。 『我々スペシャルズの宇宙艦隊は、コロニーを核ミサイルによって攻撃する用意がある。パイロットは今すぐ降伏し、ガンダムを引き渡すのだ!』 「核攻撃だと!?」 レディ・アンの声に絶句するシンサク。今度は別の回線から老人の声が聞こえてくる。 『スペシャルズに告ぐ、君たちがここまで愚か者の集まりだったとは思いも寄らなかった。宇宙コロニーは帝国との戦いなど望んでおらん。私個人が君たちに戦いを挑んでいるのだ。コロニーを攻撃するなどと人道をはずれた戦術も、なりふりかまわぬ勝利のためには致しかたないのだろう。よってここに降伏を宣言する』 『降服を認めよう。ではガンダムを渡してもらおうか』 『降伏はする、しかしガンダムは渡せん。繰り返す、降伏はする、しかしガンダムは渡せん!!』 『任務……了解……!』 最後に少年の声が聞こえ、それから数秒後、激しい爆発音と閃光が、ウィーグラフたちを襲った。 10数分後、2人は3機のガンダム、そして4人の少年と行動を共にしていた。 「コロニーを盾にとられたら……」 「僕たちは……もう、戦えない……」 デュオが、カトルが、呆然としたまま呟く。 「覚悟がなければもう戦えない、こいつは全てを受け入れた」 重火器に身をつつんだガンダムのパイロットが、コクピットの中で呟く。そのガンダムの手には、今しがた自爆したガンダムのパイロットが握られている。 「すまないが、俺たちは戦えない。だが降服するつもりもない」 ガンダムヘビーアームズのパイロット、トロワ・バートンの口調は冷静なままだった。 「わかった、もし敵に遭遇したら俺がそいつらの相手をしてやる。だが逃げるときゃにげるぜ? 俺は」 冗談混じりのウィーグラフの返答。それ聞きながら、シンサクは心の中で呟く。 (コロニーのガンダムたち……彼らに……未来はあるのだろうか……) グラドスタワーは陥落した。 各施設は制圧され、スペシャルズの撤退によって、孤立した帝国軍は、恐慌状態のままちりぢりに逃げ出すしかなかった。 ロアン・デミトリッヒは、1人司令室で正面の大モニターを見つめている。 モニターに映っていたのはル・カイン。悲しげな瞳で彼は、ロアンを見つめかえしていた。 『父を殺してまで守らんとした、私の理想が……このような形で潰えようとはな……』 「閣下……おわかりください。私は地球人なのです」 『……ロアン・デミトリッヒ、騙されていたとはいえ、貴様らに儚き理想を託したのも事実。私が帰るまで、その命預けるぞ』 「……」 『ロアン・デミトリッヒ……私はかえってくるぞ、必ず!』 ロアンの瞳に浮ぶ感情、それは恐怖などではなく……ただ、悲しみのみであった。 ▼作戦後通達 1:グラドスタワーが陥落しました。以後、解放勢力の支配下に入ります。 2:ウイングガンダムの残骸は、スペシャルズに回収されました。自爆したヒイロ・ユイと彼を連れ去った、トロワ・バートンは行方不明です。 |
『理想、潰えて』 |
全勢力・作戦2 |
トレーズ・クシュリナーダは、車窓からアーカンソ平原を眺めていた。 このあたりは、3年前の衛星攻撃によって、平原と言っても起伏の多い地形が続く。もっとも、生物の姿は少なかったが。 LiFE拠点に向けて進軍する帝国大部隊に同行するトレーズは、前総督グレスコがなぜ拠点を攻めなかったのかをぼんやりと考えていた。 「霧が出てきたね……」 この辺りは湿地でもあり、また夜半から明け方にかけて、ミシシッピ河やアーカンザス河から流れ出す濃い霧に包まれる。視界にあるのは、鼻をつままれても解らないほどの、真っ白い靄だけだ。 「……」 トレーズは目を閉じてゆったりとオーク材の椅子にもたれると、ベルをならして隣室に控えるメイファ・タチバナウォン特士を呼んだ。 「特士。わたしのリーオーを暖めておいてくれ。それから、ローズティーを一杯もらおうかな」 「はっ!」 トレーズは、時代が新たな局面を迎えようとしていることを感じていた。 ほどなくして優雅に湯気を立てる紅茶が運ばれ、それに口を寄せて、トレーズはつぶやいた。 「レディ。戦いはあくまでエレガントにな。……それから」 一口すする。 「君を置いてくるのではなかった」 「閣下!」 側近の帝国士官が、ル・カインの後ろにやってきて注進した。 「この白い靄に、兵士が怯えています。一旦休息をとられてはいかがでしょう」 「怯えているだと?」 ル・カインは振り向きもせずに問い返した。「バカを言うな。進軍が遅れれば、賊どもは姿をくらましてしまう」 「しかし……」 「くどいぞ。ここで賊どもを殲滅するのだ。一兵たりとも逃がすな。そのことごとくを殺しせしめろ」 苛烈な命令を出しながらも、ル・カインはその小さな誤算に端正な顔をしかめた。 今回の遠征に使ったのは、グラドス本星からつれてきた精鋭ばかりだ。百戦錬磨の強者ではあったが、その強力な戦闘力故に温存し続けていたため、地球環境下での実戦経験は乏しかった。 またル・カイン自身も、彼らと同様に地球の気象や自然現象に疎かった。原因は、焚書である。地球の本や書類、データを破壊しすぎたために、こうした学術書や実用書までも破壊してしまったのだ。 もし、彼の腹心である地球人ロアン・デミトリッヒが傍らにいれば、彼の意見を聞くことができたのだが。しかし生憎、彼は留守を守るためにグラドスタワーに置いてきてしまっている。 「……ふん……」 彼はいつしか地球人ロアンを頼りにするようになっていたことに気付き、自分に対して鼻を鳴らした。 二人の指揮官が副官の不在を嘆いていたころ。地球解放戦線機構とカラバで編成された防衛軍は、突貫工事で準備を進めつつあった。 彼らは霧の中に無数の罠を仕掛けていたのだ。衛星攻撃とミノフスキー粒子の影響で、通信やレーダーが封鎖されるので、彼らは機体をそれぞれ有線ケーブルで結び、通信を行っていた。戦闘が始まれば、随伴兵が通信機のかわりに駆け回ることになる。 「やれやれ。ワックス掛けが大変だ。ギャリソンに怒られてしまうね」 巨大なダイターンの半身を窪地に埋め隠す作業をしていた破嵐万丈が苦笑する。 「でも、ここを持ちこたえれば…そうですよね! 万丈さん!!」 同じように機体を埋めたノーブルグレイスのエミィ・ユイセリアの言葉に、万丈はあらためて表情を引き締めた。 「その通りだ。グラドスタワーに向かった部隊はアランたちを信じるしかないが、ここで持ちこたえなければそれもできない。ギャリソンには我慢してもらおう」 『万丈くん。そちらの準備はどうだ?』 クワトロ・バジーナの声に万丈が答える。 「すべてOKだ。ゲッターは水中用のゲッター3になってアーカンザス河でグランガランと共に待機している。いつでも行けるぞ」 『こちらグラン・ガランのシーラ・ラパーナです。準備完了しております』 巨大なグラン・ガランは、オザーク台地の西を流れるアーカンザス河にその身を沈めていた。 凛として各護衛機に状況を確認する。 「シルヴィア・ランカスター中尉殿、状況は?」 『変化ありません。……今の所は、ですが』 「解っております。どうかよろしくおねがいします。ミ…ミナフス…ミノフスキー粒子の中では、我々がある程度囮にならざるをえませんから」 グラン・ガランを始め、バイストンウィル製の通信機はミノフスキー粒子の影響を受けづらい。また、ゲッター3やマーマンガンダムなどの局地戦闘用の兵器の存在も、帝国に勝る要素の一つだった。 ミキ・オニガワラは、そのマーマンガンダムのコクピットにあってモビルトレースシステムの伝える浮力を感じながらも、ゲッター3と共に待機していた。 「よし、時間だ。作戦開始。アークくん。アポリー、ロベルト。私を見失うな!」 クワトロ・バジーナはそう言うと、愛機を発進させた。 「クワトロ・バジーナ。百式、出るぞ!」 ###### 「……筒抜け、か。それもいい。仕事をするだけだ」 アルカード・レイディファルト1級特尉は、隣でエイラ・ツィーベン上級特士のジムII が地雷に誘い込まれて破壊されるのを見て呟いた。霧に眼をこらすと、歩兵が民間車両を改装したジープで、帝国機に命知らずの肉弾攻撃をしかけている。反撃しようとして脚を踏み出した帝国兵のガンステイドは、足下に掘られた落とし穴にその脚を突っ込んでしまい、自重を支えきれずに転倒する。そこに、コクピットめがけて歩兵のロケットランチャーが次々と放たれた。ガンステイドは二度と起きあがることはなかった。 アルカードは、眉の間に皺を作った。彼のアッシマーは変形して飛行することもできる。が、この霧と乱戦の中を飛べば、味方機と接触しかねない。 「これでは、戦力差は互角以下、か……」 リュクエア・ステイフォワード2級特尉は、霧の中を単機で疾走していた。 「なんてこと! この霧では……」 哨戒のつもりではあったが、彼女にはもはや、発見した敵を誰に伝えればいいのかわからなかった。それほどに、戦場は混乱していたのだ。 そしてそれは、解放戦線の狙い通りであった。 「……なんという無様な戦場だ……」 ル・カインは、補給のために着艦したザカールのコクピットから母艦に降りて呟いた。 彼は、父グレスコがなぜここを攻めなかったのかを思い知っていた。臍をかむような思いでブリッジに上がる。 「状況はどうか?!」 「は、そ、それが……」 「どうした?」 「グラドスタワーが……陥落したとの情報が入りました……」 「何だと?!」 ル・カインは愕然とした。「グラドスタワーと通信を開け!」 ミノフスキー粒子下特有のひどい歪みの中、モニターに現れたのは、彼の腹心、ロアン・デミトリッヒであった。 その瞬間、ル・カインは全てを理解した。深く息を吐く。 モニターの向こうのロアンは、真っ直ぐに、だが哀しげにル・カインを見返していた。 「父を殺してまで守らんとした、私の理想が……このような形で潰えようとはな……」 『閣下……おわかりください。私は地球人なのです』 ロアン・デミトリッヒの表情は動かない。 「ロアン、騙されていたとはいえ、貴様らに儚き理想を託したのも事実。私が帰るまで、その命預けるぞ」 『……』 「ロアン・デミトリッヒ……私は還ってくるぞ、必ず!」 ル・カインは拳を握り、ロアンを見つめてから身を翻した。 全軍に撤退命令を出すために。 ひとつの理想が、今、潰えようとしていた。 かくして、帝国軍は撤退した。 夜が完全に明け霧が晴れた後、アーカンソの平原には無数の残骸と死体が横たわっていた。 なお、両軍の帰還率はどちらも50%に満たなかった。だが、それでも解放戦線は勝利を掴み取った。この大量の死体の上に成り立った勝利であっても。 反撃が、始まろうとしていた。 ▼作戦後通達 1:解放戦線拠点は、物資こそ不足していますが健在です。 2:撤退する帝国軍を追撃していたクワトロ・バジーナ大尉の百式が、行方不明となる事態が発生しました。数日後、無事の帰還が確認されています |
『空飛ぶマジンガー』 |
スペシャルズ、カラバ・作戦3 |
兜甲児にジェットスクランダーを届けるため、マナミ・ハミルらが護衛すミデア部隊は、一路グラドスタワーへと向かっていた。
だが、帝国の勢力圏を突破するその行為は、当然スペシャルズの情報網にひっかかり、ライラ率いる遊撃部隊に襲撃されてしまう。
ライラ隊に加わった、アイシャ・リッジモンドの猛攻に苦しむカラバ部隊。 だがマナミさえ財団に戻れば、輸送部隊を通しても良いと言い出し始めるアイシャと、輸送部隊の壊滅が目的のライラ隊の間でいさかいがおき、 その隙を突いてカラバ部隊は強行突破。ジェットスクランダーを強制射出することで、無事輸送に成功した。 ▼作戦功労者 [ スペシャルズ ] ロジャー・ウィルダネス:ガル・シュテンドウのダミー計画を見破り、ダミースクランダー輸送部隊の指揮を取っていたガル機を撃破した。 バルディ・カルクラフト:愛機ガンダムMKIIの大破と引き換えに、単機突入による敵陣撹乱の大役を果した。 [ カラバ ] ナシュア・アバーナント:アイシャの脅迫で戦意を喪失しかけたマナミを命がけで救い出し、自らはスイームルグの盾となって撃墜された。 ティア・ブルフィナ:最後まで弓教授の乗るミデアを護衛し。ジェットスクランダー射出時の安全を確保した。 ▼作戦後通達 1:ジェットスクランダーは、無事に兜甲児の元へと届きました。またマジンガー軍団の建造も予定通り進んでいます。 2:カラバの作戦参加者が、弓教授の名簿に載りました(フラグチェック:マジンガー軍団計画)。 |
『再会』 |
地球解放戦線機構・作戦3 、カラバ・作戦4 |
カラバのハヤト・コバヤシは困惑していた。 「マスターアジア。これは一体……」 「……ふむ。どうやら巨大機動兵器とは……デビルガンダムではなく、これだったようだな」 彼らの目の前にあったのは、巨大なオーラシップ”ミィゼナー”だった。 それを聞いて、ログレス・ファングバードは合点がいったようにハヤトに向かって頷く。 『追われているようです! ……ん? あれは……』ボチューンで先行するクロス・ステンバーグが報告を入れる。 「どうした?」 『あれは……解放戦線のゼラーナです。どうも正体不明のオーラシップを援護するようですが……』 「どういうことだ?」 ハヤト・コバヤシは戸惑いながらも、進軍命令を下す。 「各機、解放戦線を支援! 通信士! なんとかあの未確認オーラシップと交信を試みてくれ!」 「全機発進! スプリガンからミィゼナーを防衛しろ!」 ニー・ギブンが鋭く叫ぶ。すでに先行していたヒロキ・コウサカ准尉のボゾンが先陣を切って、オーラクルーザー・スプリガンを中心としたショット軍に飛びかかっていった。 ミィゼナーの艦長を務めるのは、ドレイク・ルフトの娘でありながらそのドレイク軍を裏切ったアリサ・ルフトその人である。 「地球解放戦線?! それにあのオーラバトラーは……ガラリア・ニャムヒーか!?」 カットグラIIを駆る聖戦士ジョクが、バストールに機体を寄せた。 『ジョク! お前を助けるのもこれで2度目だな。アリサ様はご無事か?』 「ああ、また助けられた。それにアリサも大丈夫だ。今の所はだが」 『敵はショット・ウェポンか……奴らはこちらで引き受ける。ミィゼナーは後方のカラバ部隊と合流しろ』 「気をつけろ、さっきバーンと戦った」 煙を上げるミィゼナーは、ジョクのカットグラIIを従えてゼラーナの横をすり抜けた。それをオーラバトラーとは毛色の違う機動兵器が追う。 「ドモンさん! あれはBF団です!」 ジャイアント・ロボを操る草間大作が叫ぶ。 「ほう。では、ワシもひと暴れさせてもらおうか」 BF団襲来を聞いたマスターアジアが腰の布を取って立ち上がった。 「しかし、あなたの機体は……」 驚くハヤトに、マスター・アジアは笑ってみせた。 「フハハハハハ。流派・東方不敗。あの程度の敵を相手取るのに、ガンダムなど不要!」 ###### ショット軍・BF団の連合部隊を撃退した後、彼らはミィゼナーの応急修理にかかっていた。 「まさか、ワシの聞いたデビルガンダムが、こんな代物だったとはな」 笑うマスターアジア。 だが、ユウ・フジョン准尉にはその笑いが不自然なものに思えた。それがなぜかは、はっきりとは言えなかったが。 結局、ミィゼナーはカラバ部隊を護衛として、一時カラバの保護下に加わることとなった。カラバの母艦であるガウが撃沈され、拠点までの足がなかったこともあったが、アリサ王女を父親と戦わせたくないという、ニーの心遣いでもあった。 ▼作戦後通達 1:アリサ・ルフトの座乗するミィゼナーが、カラバの保護下に入りました。 2:東方不敗マスターアジアがカラバに加わりました。 |
『河を渡って木立を抜けて』 |
スペシャルズ・作戦4 |
サイド3。円筒状のコロニーは、意外なほどたやすく陥落した。抵抗らしい抵抗もなく、スペシャルズはわずかな戦力を殲滅し、サイド3を手中に収めた。 ジオン系スペースノイドの多いこのコロニーに威力制圧をかけた彼らに民間人の視線は冷たかったが、ヴァネッサ・ギャラウェイ1級特尉にとっては、初めての宇宙という体験の方が興味があった。 青い地球をうっとりと眺める彼女の視界に一瞬だけバーナー炎の光がちらついた。 「……敵? まさかね」 彼女はその考えを頭から締めだし、再び宇宙の眺めに意識を預けた。 「♪ンーフフッフ、ンーフフッフ、ンーフフッフッフー」 「その歌はなんですか?」 スペシャルズの占領軍の足下。コロニーの外壁にそって作られた宇宙港に続く地下整備トンネルを進むガブリエル・ラミレス・ガルシアに、その後ろを少年と一緒に続くバーナード・ワイズマンが聞いた。 「俺の親友のテーマ・ソングさ。お前の前にサイクロプスにいた男のな」 彼らサイクロプス隊の任務は、このサイド3を占領したスペシャルズの運び込んだ”あるもの”を奪取・あるいは破壊することだ。危険な任務である。生きて帰る可能性が低いことを、ガルシアは知っていた。 「……バーニィ。隊の中で俺より階級が低いのはお前だけだ。威張れる相手がいなくなると困る。…死ぬんじゃねぇぞ」 「はぁ」バーニィは緊張を隠せない。 「さて」と、隊長であるシュタイナー・ハーディが時計を見て言った。「一八二〇。ミーシャや彼らが動き出すころだ。アルくん」 「はっ!」 シュタイナーに呼ばれて、バーニィと一緒に歩いていた少年が敬礼のポーズを取ってしゃちほこばる。 「アルフレッド・イズルハ伍長。君のおかげで、我々はここまで来られた。アル。君は本当に勇敢な少年だ。だからこそ、私はこうしなければならない」 シュタイナーは優しく言うと、突然少年の鳩尾に拳を叩き込んだ。少年がたまらず意識を失うと、彼をバーニィに押しつける。 「隊長?! なにを!」 「バーニィ。アルくんをつれて、すぐに脱出しろ。こんな年端もいかない子供を、戦場には連れていけん」 「で、では自分は、脱出の後どうすれば……」 慌てるバーニィに、シュタイナーは一言一言区切りながら言った。 「いいか、バーニィ。お前は、キリングと彼が例の作戦を実行に移す前にコロニーを脱出するんだ。彼らは……”人形”もろともであれば、このコロニーを破壊する事も辞さない」 「ここはサイド3ですよ?! 民間コロニーで……故郷だ!」 「そうだ。だからこそ、俺達はここにいる。戦争はゲームではないが、ルールのない殺し合いではない。俺達は誇り高いジオン軍人なんだぞ! いいな、バーニィ。解ったら行け!」 「しかし……無理です! いくらケンプファーがあっても……」 「その無理をやるのが、サイクロプス隊さ」 ガルシアがニヤリと笑って口に入っていたガムを吐き捨てた。 「行きましょう。隊長。ミーシャや連中が待ってます。ひょっとしたら、アンディも」 「所属不明のモビルスーツに告ぐ! ただちに前進をやめて停止せよ! 繰り返す!」 ブランホード・ミデュラス上級特尉は、アッシマーの外部スピーカーを使って目の前のケンプファーに呼びかけを続けた。 その隣では、逃げまどう民間人を誘導しようと、ヒカル・コウガ2級特尉のトーラスが市民に何事か叫び続けている。市民たちは完全に混乱していた。怒号と悲鳴が通りを支配する。 突如現れたケンプファーは、街中を通って真っ直ぐに宇宙港へ向かっている。スペシャルズの母艦が目的であることは明かだった。 「どけどけい! こっちは酔っぱらい運転なんだ!」 ケンプファーを操縦するミハイル・カミンスキーは、傍らのスキットルに口をつけるとブランホードのアッシマーに向かってショットガンを発砲した。 「さぁ来い! 戦い方を教えてやる!」 時を同じくして、コロニーの隔壁を破って所属不明のモビルスーツ部隊が侵入したとの報告が入った。 「……帰ってきたのか。彼らが」 戦況のモニタを眺めるガイアのつぶやきを、エドウィン・ファン2級特尉は聞き逃さなかった。 ###### 敵は、手練れだった。 ショウ・フラック1級特尉は、前線に奇襲をかけようとしたものの、あっさりと赤いゲルググに発見され、そのまま砲火を浴びて、ほとんど何もできずに破壊されてしまった。 その様子を見たレオン・ブラッド特士が慌てて本部に連絡を取る。 劣勢の連絡を受けたジャマイカンは、あくまで平然としていた。彼には、切り札があったからだ。 「モビルドールを出せ」 ジャマイカンは、すでに乗機を失って帰還していたレオン・ブラッド特士に言った。 「は?」 レオンは思わず聞き返す。 「聞こえなかったのか? モビルドールを出せ。テストくらいはせんと、ツバロフ殿にも悪い」 「イ、イエッサー!」 「隊長! ”人形”が動き出します!」 すでにケンプファーを駆っているガルシアが叫んだ。 「どこかに”人形”を操作する有人機があるはずだ! そいつを破壊しろ!」 やはりケンプファーを駆るシュタイナーが怒鳴り返す。 宇宙港を制圧しようとしていた彼らの目の前で、次々とモビルスーツが起動していた。”パイロットの乗っていない”モビルスーツが。 起動したモビルドール・トーラスは、人間では不可能な動作でシュタイナーとガルシアを囲み、そして撃墜した。 物言わぬ人形たちが所属不明のモビルスーツ部隊を撤退せしめるのに、それほどの時間を必要としなかった。 ロバート・ラプター1級特尉は、ブレイバーのコクピットの中でその戦いぶりを見ていた。 彼は、背筋を冷たいものが流れるのを感じた。 「これからの戦争の形、ですか……ぞっとしませんね」 呟いて、彼は満身創痍の愛機を旋回させた。 ▼作戦後通達 1:サイド3はスペシャルズの支配下に入りました。 2:スペシャルズでは、謎の部隊に関する情報を集めています。 3:今作戦の結果からモビルドールの有効性が完全に証明され、宇宙におけるモビルドール開発プラントの建造計画がスタートしました。 4:帰還したロバート・ラプター、ヴァネッサ・ギャラウェイの両1級特尉には、トレーズ・クシュリナーダ総帥より勲章が授与されます。 |
『死の包囲網』 |
地球解放戦線機構・作戦4 |
「アステロイドからこのオレを呼びつけておいて、なにをやらせるかと思えば、たかが一部隊の殲滅か」 ヘルマット将軍は不機嫌さを隠さなかった。ムゲ=ゾルバドス帝国を代表する三人の将軍のうち最も残虐な男と呼ばれていた彼は、 他の将軍たちと違い、未だにアステロイドベルト基地に駐在している。 いや、していたと言った方がいい。彼は自身の軍と共に今地球にいた。シャピロが呼び寄せたのだ。 表向きの招聘理由はグレスコ前総督の不審な死を調査する為である。だが今彼がしようとしているのは調査ではなく戦闘だ。 「予定が変わったのだ。ブレックスたちを追い詰めすぎた。こちらよりも危険な、別のエサに主力を投入するとはな」 「別のエサだと?」 「そんなこともわからないのですか? 将軍。今回シャピロ様自らが準備を進めてこられた、一連の解放戦線攻撃作戦の事です」 ムゲ帝王が直々にシャピロにつけた副官であるルーナが、薄く笑った。彼女はシャピロがバイストンウェルに召還された際も運命を共にしている。 「ふん。ならば、我々もすぐにグラドスタワーへ赴き、解放戦線などと名乗る地球人どもを皆殺しにすれば良いではないか」 「貴様ほどの将軍が、その地球人どもの指揮に従うのであれば、すぐにでも進路を変更してもよいが?」 「……貴様とて地球人だろうに……まあいい。ただの一度で奴らの心臓に杭を打ち込んでみせるわ!」 「グレイファントムは進路そのまま。各員監視を怠るなよ」 グレイファントムのブリッジ内で指示を出すヘンケン・ベッケナー中佐に、ブリッジに来たばかりのエマ・シーン中尉が声をかけた。 「ヘンケン艦長、本当に今回の交渉相手を信用してもよいものなのでしょうか?」 「司馬中尉も同じことを言っていたがな……だが、エマ中尉、俺たちに選べる選択肢はそんなに多くはない」 ヘンケンの言葉に、フレイ・イシュヴァーン少尉も頷く。「腹が減っては戦はできんとも言う」 確かに、帝国本隊はグラドスタワーに釘付けになっているはずで、交渉の機会は今しかない。 最も自軍の拠点に帝国の大軍も迫っているのだが、流石にこのタイミングでそれを言うのははばかられた。 「俺たちは任務を果すだけだ。目的地までの行程は、まだ半分もいってない。パイロットは、今の内に交代で休んでおけ」 この直後、リックディアスで哨戒中の、ローラ・ハミルトン少尉から敵戦艦発見の通信が送られてくることになる。 戦闘態勢に入るグレイファントム。真っ先に獣戦機隊が飛び出していく。 「交渉以前に苦しい状況になりましたか。しかし、おかしいですね」 プロトZガンダムを飛ばしながら、カイン・シュナイダー大尉が呟いた。 「あん? なんのことだ?」 「敵の規模からして、これは遭遇戦ではありません。あらかじめ待ち伏せをしているような気が」 乱暴な口調の藤原忍に、あくまで丁寧にカインは答えた。階級は彼が上なのだが、忍の態度が変わる事はない。 「へっ、臆病風にふかれたか。待ち伏せだろうがやってやるぜ!」 「おっと、待ってくれよ……って沙羅、どうしたの?」 司馬亮のビッグモスがその速度を増し、式部雅人のランドライガーがそれに続こうとしたが、 やや速度を落として結城沙羅の乗るランドライガーに並走する。 「……嫌な予感がするんだよ。この前のナスカみたいにさ」 「ナスカ……シャピロ?」 雅人の問いに、わからないけど、とかぶりをふる沙羅。だが戦闘前の会話はここまでだった。 「なんでぇこいつは!?」先行し、敵部隊と交戦状態に入った忍が声を張り上げる。戦域についた他のパイロットもその光景に絶句した。 ダンクーガが……解放戦線の守護神とも言うべき超獣機神の姿が彼らの目の前にいた。それも1機ではない。複数だ。 他には3年前の戦いにもいなかった巨大な戦闘兵器の姿も見える。 「ちっ! 亮! 沙羅! 雅人! 合体するぞ!」 ###### 交渉の話自体が、シャピロの罠だった。旧連邦の企業を脅迫して解放戦線をおびき寄せ、 ヘルマットがムゲ本星から連れて来た最新鋭部隊で壊滅に追いやる。旧連邦軍人だったシャピロならではの策だと言えた。 ただ、シャピロにとって誤算だったのは、グラドスタワーへの攻防戦が彼が思った以上に早く始まってしまったことであった。 もうすこし多くの戦力を自分の方に誘導しようと考えていたのである。それでもシャピロが手を緩めることはなかった。 「我が包囲網を抜け出そうとする者には、死、あるのみ」 地球を裏切った男の冷笑、それがこの戦域を完全に支配していた。 「しまった……!?」 エマのガンダムMKIIがその動きを止めた。だがそれと同時にカイン・シュナイダー機の攻撃が、ムゲ帝国のダンクーガを破壊する。 「いかん! ガンダムMKIIのパイロットと可能ならば機体の回収も急げ! 他の機体の回収もな!」 ヘンケンの指示がグレイファントムから飛ぶ。ダンクーガたちがが突出することで、 大破機体やパイロットの回収はかろうじて進んでいるが、いつまでも持つ敵の物量ではなかった。 部隊のメンバーがエースばかりでなかったら、とうに全滅している。 「それでも…負けるわけにはいかない…せめてこの敵の事をブレックス准将たちに伝えなければ……」 比較的破損箇所の少ないリックディアス。そのコックピットのなかで、ローラ・ハミルトンが呟く。 後方で待機していたゲラール曹長のミデアが敵の中枢へ進みはじめたのはそんなときだった。 現場からの叩き上げで階級は曹長ながらも、解放戦線の構成員からは親愛と尊敬を込めて「キャップ」と呼ばれた男が動き出した。 「ふ、その言葉待ってたぜ…」 「ゲラールキャップ!」 亮の叫びに答えるようにして、ミデアから通信が入る。 「…この際だ、言っとくか。歴史に残るヒーローなんてやつはだいたい、目立ちたがりのおっちょこちょいさ。 グラドスタワーへほいほい行くような、な。本当の勇者はそのおっちょこちょいを影からささえてるやつら…… 派手な攻略よりも大切な交渉を選んだお前たちなんだ。輸送部隊なんて日陰の仕事が長いとそういうことがよく見えてくるのさ」 対空砲火を全身に受けながら突き進むミデア同様、ゲラールも一気にまくし立てた。 「俺はお前さんたちを1番買ってるから言うんだ。無茶すんじゃねえぞ。他のヤツらはお前さんたちがいなかったらやっていけんからな」 「キャップ! 無茶してんのはあんたのほうだろ!」 「ゲラールさん、私のリックディアスはまだ戦えます! せめてお供を――」 「ばかもの! ただでさえ金がねえゲリラ軍だ。勲章2つもつくらせるような不経済なことをさせるな! 後は頼むぞ……」 そのままミデアは帝国軍に突進する。武装は機関砲のみ。 だがゲラールはコクピットから飛び出し、手持ちの重火器で攻撃をつづけていく。 急所にあたったのか、巨大戦闘兵器が一体その直撃を受け、動かなくなった。 「さあ、ドンドン集まってくれ オレの一世一代の見せ場だからな。パイロットのぼうや嬢ちゃんたちもしっかり見てな! オレはお前さんがたと違って現場からのたたき上げ。士官学校なんて結構なモンなんてでてねえさ。 おかげでいつも日陰の仕事ばっかりだったぜ。……そうさ、一生に一度くらいこういう晴れがましい舞台があったっていいよなあ!?」 「……ゲラール曹長……彼の行為を無駄にするな。全軍撤退する!」 ヘンケンの悲痛な声が、その無念さを象徴していた。 ゲラールは戻ってこなかった。解放戦線はシャピロの罠にはまり、全滅こそ免れたものの、その傷は深い。 しかし、彼らが生きて持ちかえった、ムゲ帝国軍の最新兵器のデータ。これが後の戦線において重要な資料となったのは、 巨大な反帝国戦争の流れにおいては収穫といってもよかったのかもしれない。 最もこの戦いに参加した者はみな、そんなことを気に留めることすらなかっただろう。 皆、自身の無力さと、ゲラールを失った悲しみに、心を震わせていたのだから。 ▼作戦後通達 1:交渉は、シャピロ・キーツの罠でした。慢性的物資不足は続きます。 2:帰還したローラ・ハミルトン少尉には、ブレックス・フォーラ准将より勲章が授与されます。 |
・ ・ ・ 2つの決戦の勝利が、帝国と解放勢力とのミリタリーバランスを崩そうとしていた。 ル・カインの逃亡による帝国秩序の混乱と崩壊。各地で再び燃え上がる反帝国運動。 この時代に生きる者たちは、今自分たちが存在する世界において、なにかが変わろうとしていることに気づき始めていた。 時代は動き出していた。 |
次回予告 |
かつて地球連邦軍の本部があった南米ジャブロー。宇宙から降下した帝国軍の本拠地となった要塞に、
今まさに挑まんとする解放勢力。 未だに行方の知れぬル・カインと先の戦いからなりを潜めていたミケーネ。そして真意の見えぬ東方不敗。各勢力の思惑が交錯する。 スペシャルズはトレーズ・クシュリナーダの指揮の元、地球圏の命運を根本から変え得るある計画を実行に移そうとしていた。 次回War in the Eaeth、『オペレーション・デイブレイク』……決断の日は近い。 |