歴史は音をたてて動き始めた。それは地球圏と言う名の舞台に、新たなる役者が現れ、古い役者が消えていくことを意味している。 この時代に生きた人々は、舞台の上でどんな生き様を見せるのであろうか。



『オペレーション・デイブレイク』
全勢力・作戦1
 南米ジャブロー。かつて地球連邦軍の本拠地があった天然の要塞。3年前の戦いでその地上における機能を殆ど失ったものの、 未完全とはいえ地下の防衛施設は健在であり、グラドスタワーを失ったムゲ帝国が、地球における新たな司令部とするのも当然といえた。 そして今まさに、ジャブローを目指して帝国軍の宇宙部隊が降下を開始しようとしている。 三将軍の地球降下が完全に終了すれば、帝国を襲った指揮系統の混乱も解消され、レジスタンスは今以上に動きが取れなくなる。
 また、まがりなりにも支配を受け入れると言う形ならば、地球人類の生存を許していたル・カイン達と違い、帝国宇宙軍には容赦と言う言葉が存在しない。 ル・カイン以上に厄介な敵が、その勢力を拡大するのを、レジスタンスが黙ったまま見過ごすことはなかった。
 帝国宇宙軍が降下し、ジャブローの機能が回復する前に、これを襲撃して占拠、或いは破壊する。 レジスタンスは、部隊を3つに分け、北からは解放戦線が、西からはカラバが、そして東海岸からはクワトロ・バジーナ大尉率いる決死隊とそれを援護する部隊が攻撃を開始した。
 一方レジスタンスが選択しなかったジャブロー南部には、スペシャルズの部隊が近付きつつあった。その目的は……帝国への反乱。

  
  ######

ジャブロー南部
「な、何故だ。スペシャルズは帝国の味方ではなかったのか?」
 クの国の国王、ビショット・ハッタは、ゲア・ガリングの艦橋で動揺を隠せずにいた。
 シャピロ・キーツの仲介によってビショットは、帝国軍と同盟関係を締結した。だが同じ帝国陣営だったはずのスペシャルズ部隊に襲われているのである。  宇宙から降下した帝国軍は、確かに味方ではあった。スペシャルズと違って、こちらを攻撃する事はない。だがそれだけであった。 地球の勢力よりも遥かに優秀だと信じきっているムゲ帝国の将軍たちは、地上の味方と力を合わせようとしたり、ジャブローの構内に立て篭もって地の利を活かそうなどという考えは全くなかった。
 CHAOS中隊。ショウ・フラック上級特尉ら数名で編成された中隊は、二手にわかれてかねてよりの作戦を実行に移した。
 アルカード・レイディファルト上級特尉とヒカル・コウガ2級特尉、そしてメイリーン・エヴァンス1級特尉の3人が、派手に暴れて囮役となり、 その隙にショウ、ルクス・フィスト1級特尉、アフィーネ・アーマライト1級特尉の3人が敵防衛網の弱くなった箇所を奇襲する。 言うだけなら簡単だが、それを実行するには優れたパイロットの力量が必要とされた。だが彼らはそれをやってのけたのである。最も上で挙げた帝国軍の指揮系統の混乱が、彼らに幸運を授けたのもまた事実といえた。
 南部戦線はビショット軍の脱落によりスペシャルズ側の勝利が濃厚となってきた。この機を逃さずガディ・ギンゼー特佐はジャブロー占領命令を発し、部隊を進軍させたのだ。

ジャブロー北部
 この地点に降下したデスガイヤー将軍は豪勇無双、力押しを好む指揮官だった。降下したばかりを襲う解放戦線部隊に対しても、彼は真っ向からをれを受けて立ったのである。
「地球人よりムゲ野郎を相手にする方が気は楽……だったんだけど」
 ディオン・ベーレンス准尉は大破したネモから脱出すると、空を見上げながら溜息をついた。戦争の勝敗は指揮官の質で決まる。それは現代戦闘でも当てはまるのかもしれない。少なくともデスガイヤーも、ア国王ドレイク・ルフトも勇将・名将といって差し支えない部類に属してはいた。
「辛い戦いの連続ですが……弱音ははけませんね」
 リックディアスに乗るルーク・ヴィンスヘル少尉はそう呟くと、ビームサーベルを抜いてゼイ・ファーに突進した。弱音を吐くより今はやる事がある。 彼の上空をオーラシップゼラーナが飛んでいった。ダンバインやボチューンに混じってヒロキ・コウサカ准尉のボゾンの姿もある。
 戦況はオーラバトルシップ・ゴラオンを全面に押したてた解放戦線側が有利に進めていた。ゴラオンのオーラノヴァ砲が火を吹き、帝国軍の陣形を崩していく。 ダンクーガはデスガイヤーの操る赤い人型ロボットと対峙していた。
「地球人ごときがこの俺に勝負を挑むとつもりか!」
「くたばりやがれ! この化け物め!」
 ダンクーガが断空剣を構え猛然と切りかかる。それを力強く受けとめる赤いロボット、ザン・ガイオー。
「これだ! これこそが宇宙を駆け巡り捜し求めていた、俺のライバルだ! ついに見つけたぞ!」
 戦いに夢中となったデスガイヤーが、ダンクーガの相手にかかりきりとなるにつれ、帝国軍の統制も少しづつ乱れていく。 敵の指揮官が乗っているものと思われる、色違いのゼイ・ファーがエン・ホオズキ少尉に撃墜されたのが決定打となった。
 帝国軍は旗艦を中心に残存兵力の集結をはじめた。一方、ドレイク軍も、ジェリル・クチビ、フェイ・チェンカという2人の聖戦士をダンバインに落とされ、その戦力は減退している。 ここで指揮官のヘンケン・ベッケナー中佐は、重大な決断を下した。
「ここは獣戦機隊とオーラバトラー隊に任せ、残りはジャブローに突入する!」
 ジェイソン・ランパード少尉のポチューンはそれを聞くと、通信を通して大声を張り上げた。
「後は俺達に任せてジャブローへ行ってくれ! ここはくいとめてみせる!」

ジャブロー西部
 アラン・イゴール率いるカラバ部隊を迎撃したのは、ヘルマット将軍、百鬼帝国、そしてショット・ウェポンのスプリガンだった。 しかしヘルマットもまた、地球の人間を侮っているムゲ=ゾルバドス帝国の将軍である事に変わりはない。部隊が3つだったのも混乱に拍車をかける結果となってしまった。
 加えてカラバは撹乱戦術を採った。エンカイ・ナンジョウジの指示で森林地帯に伏兵があるかのように偽装した。 ショットはそれに警戒し、オーラバトラー隊の進軍も鈍ってしまう。
 その隙にクロス・ステンバーグはミィゼナー隊と協力し、オーラバトラーでの切り込みと撹乱を百鬼帝国に敢行した。 大型機体の多い百鬼軍ではその戦術への対策が立てずらい。小型には小型で対抗といっても、ショット軍が動く気配はない。
 戦局が動いたのは、3度目の切り込みである。その時はミィゼナー隊だけではなく、黒騎士隊や他のスーパーロボットも参加していた。 彼らは百鬼側指揮官であるグラー博士の乗る、合体百鬼ロボまでの突撃に成功したのである。 エミィ・ユイセリアのノーブルグレイスが、ジョクのカットグラが、そしてアランの連携が合体百鬼ロボを火だるまに追いこみ、指揮官を失った百鬼帝国は撤退を開始する。
 百鬼の敗退と、帝国軍の森林地帯侵攻はほぼ同時であった。疑心暗鬼から解き放たれたショット軍もそれに続く。カラバも残存勢力をまとめ、攻撃を再開した。 スプリガンの撃破と帝国軍の撤退により、この戦域における戦闘はカラバの勝利となったが、部隊の消耗は酷く、ジャブローへの侵攻は断念する結果となる。
 健在だった少数の戦力は再編成され、未だドレイク軍と戦闘を続ける解放戦線部隊への援軍とし、バックアップに徹する事となった。

ジャブロー上空
 ジャブローに到達するスペシャルズ部隊。ガディの命令で、MS部隊は降下を開始する。
 デスガイヤー、ギルドローム、ヘルマット、ドレイク、ビショット、ショット、百鬼。戦っていないのはミケーネとシャピロ・キーツの部隊だけである。 だがそのどちらも姿がみえなかった。しかし迎撃は受けたのである。相手は地球解放戦線機構。
 スペシャルズよりも早くジャブローに到達した解放戦線部隊は、ジャブローへの降下よりも、スペシャルズの迎撃を選んだ。 半端に降下してその途中を襲撃されるよりはよほど当然の選択ともいえた。だが。
「ヘンケン艦長、ジャブロー東部から侵攻するMS部隊発見!」
「クワトロ大尉の部隊か?」
「い、いえ、エアリーズにトーラス……スペシャルズです! 多すぎて数え切れません!」
 エアリーズと戦闘機状態のトーラスの大部隊が迫っていた。その先頭には白いMS、トールギスがいる。
「ここまでか……残存勢力を集めて最後の決戦を――」
「レジスタンスの諸君、無益な抵抗はやめたまえ。我々は、1人でも多くの同志を必要としている。おなじ地球人として無駄な争いは避けたいのだ」
 トールギスから、ゼクス・マーキス2級特佐の通信が入った。意外な発言にヘンケンではなく、同じスペシャルズのガディが声をあげる。
「どういうことだ? こちらはバスク特佐から帝国同様ゲリラも殲滅する命令を受けている」
「ガディ特佐、別回線から通信です」
「なんだ、この時に……なに!? ……わかった。ここはゼクス特佐に任せる。我々は撤退するぞ」
「特佐!?」
 リュクエア・ステイフォワード2級特尉のディマージュがアレキサンドリアにとりつく。
 リュクエアは、挙動不審の人物をマークし、帝国に寝返るようなら撃破しようと考えていた。
 ゲリラは帝国ではないが、バスク・オム特佐の指示もありスペシャルズの敵である事に変わりはない。 その敵との戦いを回避しようとするゼクス、そしてそれに反発していたはずなのに、通信の1つで態度が豹変したガディ。彼女の知らない所で起こっている何かはリュクエアを混乱させていた。
 ガディを慌てさせた通信は、バスクのいるカリフォルニア基地がシャピロ・キーツの奇襲によって壊滅し、バスク本人も行方不明になった、というものだった。 後にバスクは新兵らに護衛されて脱出した事が判明している。だがこのタイミングでバスクとの交信が不可能だったのが明暗を分けた。
「我々スペシャルズ……いやOZは本日、ムゲ=ゾルバドス帝国に対する反抗作戦、『オペレーション・デイブレイク』を発動した。ジャブロー占領と同時に、世界中でOZによる、帝国軍基地への攻撃を開始する。我々がジャブローを制圧するのもそのためだ。少なくとも我々と君たちが戦う理由はもうない。共にこの地球圏の新たなる秩序を築いていこう。トレーズ閣下もそれを望んでいる」
「ぬけぬけとよくいう。そんな言葉で我々がはいそうですかと、納得するとでも思っているのか? お前たちと手をとりあうと?」
「いや……ヘンケン中佐。あなたがたの返答は予想していた。我々はジャブローを制圧しなくてはならないが、君たちと戦うつもりもないことも事実だ。ひとまずこの場はカラジャスに引いてもらいたい。長くはないが考える時間も与えたいと思う」
「く……仕方ないか」
 ヘンケンはそう漏らすしかなかった。ゼクスの言う事がもし本当なら、ヘンケン1人で決められるような問題ではない。 それに現状の戦力では、ゼクスの大部隊と戦っても全滅するのは確実だ。
「退く気は…ない…」
 エン・ホオズキ少尉が呟く。その呟きは徐々に強くなっていく。
「退くわけにはいかないんだよ…!」
 思いは他の兵士達も同じだったはずだ。だがその意思は想像以上の速度で進む現実に、脆くも叩き潰された。

▼作戦後通達
1:ジャブローはゼクス・マーキス特佐以下のOZ部隊によって制圧されました。解放戦線・カラバはカラジャス基地に撤退します。
2:OZ総帥トレーズ・クシュリナーダとブレックス・フォーラ准将、破嵐万丈らの会談がカラジャス基地で行われる予定です。
『シャアとトレーズと』
全勢力・作戦2
 ジャブロー東部。海岸線を境にして、スペシャルズとレジスタンスの両軍が激突していた。
 海側から上陸するレジスタンス。それを瀬戸際で阻止しようとするスペシャルズ。空にはスーパーロボットや可変MSが飛び交い。 砂浜では猛烈な砲火が上陸したばかりのモビルスーツに襲いかかっていた。
「アジス特尉! 接近しすぎると、味方の流れ弾にあたります!」
 アッシマーに接近しようとしたラモン・サラバッド上級特士のブレイバー。だがリックディアスからの狙撃に墜落されてしまう。
「1機撃墜!」
 リックディアスのパイロット、アーノルド・ウィノー少尉はそう叫ぶと、更に新たな獲物を探すために狙いをつけ始めた。
「僚機は、何体程なのだろうか……」
 ベル・ゼ2級特尉は呟く。彼女は知っていた。この海岸線の戦いはあくまでも陽動に過ぎないことに。 多くのレジスタンスを海岸に引きつければ引きつけるほど、ジャブローへの突入部隊に有利になるのだ。 一方カラバのアキラ・ランバードもまた、東海岸に多くの敵を引きつけようとして、ガルガンチュワ2世のフォルムを敵に見せつけるように戦っていた。
 ベルとアキラ、偶然にも2人は同じことを考えていた。海岸は陽動、突入部隊は既に進入を開始している。 それは突入部隊同士が遭遇する可能性をはらんでいたのが、この2人が、その可能性に気づくことはなかった。

「外を落とすにはまず内部から…流石ですね、クワトロ大尉」
 感心した様にディスカイ・アズール少尉が呟く。クワトロ・バジーナ大尉をはじめとする部隊は、今まさに水中ドッグから洞窟地帯を抜けて、ジャブローへ進入しようとしていた。
 ミキ・オニガワラのマーマンガンダムが既に先行している。得意の水中活動を活かして突入部隊を先導するためであった。
「……しかし手筈がいいですねぇ」
 陸戦ガンダムに搭乗していたコンコード・セイヴフィッシュ少尉が、クワトロの乗る百式に声をかける。
「このルートを発見したのも、国際警察機構のエージェント達の強力があればこそだ。彼らの働きなしにこの成果を誇ることはできまい」
「ですが大尉は、詳しい道筋はともかく、ルートの存在は知っていた……いや過去を詮索するのはやめておきますよ」
 クワトロは苦笑した。過去を、7年前を思い出したのかもしれない。
「過去か…連邦軍の本拠地だった場所が奪われているなんて予想もしないことでした」
「ああ。まさか、今度はジャブローを攻略する側にまわるとは思っても見なかったぜ」
 フォーリュス・ゼリュウズ中尉、それにボレロ・バッジオの呟きが無線を通して聞える。 
「今の我々に過去を振りかえる余裕はない……我々が戦うのは地球の未来を思えばこそだ。進入を開始する。各員警戒を怠るな」
 突入部隊に志願した者たちが次々と頷く。それを確認すると、クワトロは水中ドッグからの進入命令を発した。ジャブロー攻略作戦がはじまろうとしていた。

  ######

 ウィーグラフ・スフィールド准尉は周囲を慎重に伺いながら、ネモの歩みを進めていた。
 慎重な彼が、敵を最初に発見したのは幸運だったのかもしれない。ノウルーズβ、スペシャルズの機動兵器と彼は遭遇したのである。
 遭遇戦の結果ネモは撃墜される。だが彼の通信が迅速に伝わることによって、突入部隊が奇襲で壊滅するという事態は避けられたのであった。洞窟各地で両軍の戦闘が始まった。
「あの金色のぉぉぉ!!」
「強化人間か!」
 リェン・ユーウェイ2級特尉の乗るトーラスが、ビームサーベルを掲げ百式に突進する。それをなんなくかわす百式。狭い洞窟内でライフルを使うのは自殺行為だった。当然サーベルでの切り合いが主となる。
「あんた邪魔なの! ノイン様のために消えてもらうわ!」
 リェン同様に強化されているエイミ・ヤマト2級特尉。彼女のトーラスもまた超人的な反応速度をもって百式に襲いかかる。だがレコア・ロンド少尉のリックディアスが、 それを妨害し、2機はもつれながら百式から離れていくのだった。
 百式をはじめとするMS部隊はそのまま洞窟内を1歩1歩進んでゆく。この作戦の目的は1機でも多くジャブローに潜入すること。彼らに後を向く時間はなかった。だが彼らの敵が現れる。
「トレーズ・クシュリナーダか……」
「その金色の機体…やはり、君が来たか。クワトロ・バジーナ大尉」
 その言葉のやりとりが終わらぬうち。クワトロとトレーズ、百式とカスタムリーオーそれぞれの周囲にいた、MS部隊が戦闘を開始した。

 トレーズらもまた、水中ドックから洞窟を経由して進行するルートを通っていた。
 ロームフェラ財団と元連邦中将のジャミトフ・ハイマンを通じて、旧ジャブロー基地の図面と7年前のジオン軍の進行ルート記録を手にいれたトレーズは、自ら精鋭部隊を率いて進入したのである。
 アークライト・ブルーのソルフデファーとエルリッヒ・シュターゼン特尉のノウルーズが互いに切り結ぶ。
「地球人のくせに帝国について、その同じ地球人を苦しめてきたのが、お前たちスペシャルズじゃないか。そのせいで……そのせいで、死ななくてもいい人たちが大勢死んだんだぞ!」
「前にも言ったはずだ、少年。我々が動いたからこそこの程度で済んでいるのだ。何故、それが分からない」
 だが決着はつかない。双方は距離を離し互いの隙をうかがう。
「わかるものかよ! 反帝国運動をつぶしてまわったのも、そうだっていうのか!?」
「レジスタンスの活動が活発になれば、なるほど地球にとってはより危険なものとなった。我々にとってもな。それは避けなければならなかったのだ」
「違うな。放置すれば地球圏に未来はないと感じたからこそ、人々は戦ったのだ。それを貴様らに否定されるいわれはない」
 アークの不利を見た、クワトロの百式がノウルーズに迫ろうとする。
「否定などしていないよ、クワトロ・バジーナ大尉」
 だがMSの影が動き、百式に立ち塞がった。トレーズ・クシュリナーダのカスタムリーオーである。
「何故なら、我々スペシャルズ、いや、もはやOZと言った方がいいな。スペシャルズは、帝国の一部として機能した我々の仮の名にすぎん。我々OZもまた、その目的のためにこそ存在しているのだから。そしてもはや我々と諸君らが戦う理由もない」
「なんだと?」
 トレーズの言葉を聞いたヴァイス・スティルザードたちに動揺が走る。だがそれを沈めるように、クワトロの声が場を制した。
「戯言に惑わされるな、ヴァイス!」
「別に惑わしてなどいない。私は真剣なのだ」
「なにをばかなことを。自分たちがこれまでしたことを、よく考えてみるがいい。今までお前たちがしてきたことの免罪符になるとでもいうのか?」
「私はそれがさほど重要なこととは思わない。我々が共に求めるものは帝国の支配からの脱却、そして地球圏の平和だ。至るべき場所は最初から同じだった」
「聞けんな。トレーズ・クシュリナーダ、ならばその地球圏の平和のために貴様には死んでもらう」
「……違うな」
「違うだと?」
「地球圏のことを真に思うのであれば死ぬのは……むしろクワトロ・バジーナの方だろう。大佐」

 クワトロとトレーズが交戦していた頃だった。ジャブローの海岸線に、大量のモビルスーツ部隊が現れたのは。
 エアリーズ、トーラス、数は200を越え空いっぱいに広がっている。その先頭にたつのはトールギス。ゼクス・マーキス2級特佐である。
「ただでさえ同じ地球人が戦っている場合ではないのに……くそ! こんな時に援軍か」
 リョウ・クルート少尉が叫ぶ。だがゼクスの部隊は、戦場を無視するかのように次々と戦域を迂回しはじめた。
「トレーズ閣下の部隊が苦戦しているようだな……だが我々の任務はジャブロー、先に行かせてもらうぞ」

 ゼクスの大部隊が、ジャブローへ向かったと言う連絡は、洞窟内のレジスタンス・OZ問わずに伝わっていた。
 ガディの部隊、レディ・アン特佐率いる海岸線の部隊、トレーズの侵入部隊、そしてゼクスの部隊。OZのジャブロー攻略の準備は万全だった。
 この時点においては、もはや洞窟内のOZ部隊の目的は、ジャブローの進入から、レジスタンスの妨害へと変貌している。少数で乗りこんだレジスタンスに、 OZの妨害を突破する力は残されていない。
 そしてゼクスがジャブローを占領したこと、ジャブロー攻略に向かった他のレジスタンス部隊が撤退をはじめているという連絡が入ると、状況は決定的となった。
「……ここまでか、撤退する」
 クワトロの言葉には無念さが満ちていた。そしてシンディ・ヤマザキ少尉の赤いリックディアスが百式の前に出る。 しんがりを務める為である。フェイヒカイト・クロイツファルト少尉やシッド・リッド少尉の機体も彼女に続いてクワトロを庇おうとする。
「各員退却しろ。あとは私が引きうけた」
 守られることを拒否するクワトロの声。
「いいえ。大尉には生きてもらわなければ困ります。生きて下さい、シ――」
 彼はシンディの声を最後まで聞く事はなかった。ブースターを吹かせ百式は、OZ部隊に切りかかっていく。
「みんな、大尉の意思を無駄にするんじゃない!」
 フェイヒカイトら自分の小隊員を率いていたザッフェ・カイン中尉が声を張り上げ、それが撤退の合図となった。

「クワトロ大尉、ご無事でしたか」
 水中ドッグ入り口で、付近の警戒にあたっていたサラ・ハーミルトン少尉は、クワトロの百式を発見すると安堵の溜息をついた。
「助けられたと言うべきだろうな」
 そう呟いたあとクワトロは沈黙する。トレーズは二言三言呟いたあと、たった1機のMSを前にして撤退命令を出し、彼に忠実な部下たちもそれに従ったのだ。
「クワトロ・バジーナこそ死ぬべき……か」
「なにか仰りましたか?」
「いや、なんでもない。すまんが随分やられた。先導を頼む」
「了解しました」


▼作戦後通達
1:レジスタンスによる、ジャブロー奇襲作戦は失敗しました。
『ただ生き残るために』
全勢力・作戦3
 カラジャス基地を巡る解放戦線・カラバとスペシャルズの攻防。互角の戦況のなか両軍が疲弊するのを待つものがいた。
 ミケーネ帝国が突如襲いかかったのである。レジスタンスはおろか、同じ帝国陣営に所属するスペシャルズをも餌食とするために。
 ヤヌス侯爵以下ミケーネ諜報軍は、スペシャルズの真の正体を把握していた。そして帝国とスペシャルズ、レジスタンスが三つ巴になるこの機会を待っていたのである。 遂にその全貌を表した戦闘獣部隊、そして量産に成功した機械獣軍団。突然の奇襲に疲労していた3勢力はその数を次々と減らしていく。
 この状況の中、リッシュ・グリスウェル特尉とサウス・バニング少佐、そしてマナミ・ハミルの3人の指揮官は、緊急の協力態勢を結ぶ。
 ただ、生き残るための戦い。しかし人類の団結はミケーネを撃退に追いこむのだった。

▼作戦功労者
 [ スペシャルズ ]
シェルツ・シュレヒト:リッシュの提案した3勢力提携に賛同し、彼の助けとなった。
ヒロシ・ササキ:敵陣に突撃を敢行する。その勢いは対解放勢力戦でもミケーネ戦でも衰えることはなかった。
 [ 地球解放戦線 ]
フォックス・アークライン:3勢力の連携に不満のあるセレインを抑え、彼女のサポートに回った。
ヴァレス・ベルメイン:解放戦線とカラバとの交流を促進させ、ミケーネの奇襲時では戦線の維持に努めた。
 [ カラバ ]
ブット・オリバー:味方の援護射撃に努め、ボスの機械獣撃墜をサポートした。
リディア・チャオ:マジンガー軍団の戦闘力を存分に引き出し、弓教授を喜ばせた。

▼作戦後通達
1:ミケーネとの戦闘後、3勢力の代表者の話し合いにより、スペシャルズ部隊は撤退しました。
2:今作戦におけるリッシュ・グリスウェル上級特尉の多大な戦果に着目したOZ技術陣が、シグルーンの生産準備を進めています。
『ポケットの中の戦争』
スペシャルズ・作戦4
「こいつで”人形”を倒せる? あいつらをブッ潰せるかな?」
 アルフレッド・イズルハ”伍長”は、ようやく修理できたザクII改の手のひらで言った。
「あぁ。ザクマシンガンはスペシャルズが持っていっちまったが、隊長たちの持ち込んだヒートホークもあるし、それにザクマシンガンの予備弾丸を爆弾にすることもできる。仕掛けもするし、楽勝、さ」
「やったぁ!」
 バーナード・ワイズマンの言葉に、アルは歓声を上げた。
「ねぇ、作戦名はどうする? おれ、クリスマス作戦、ってのがいいと思うんだけど……」
「クリスマス作戦か。よし、いただきだ! さて、仕掛けをしなきゃならない。今夜は徹夜になるぞ」
「ウン!」
 サイド3を舞台に、たった二人の軍隊が、動こうとしていた。

 そのころ、グリーン・ワイアット準級特佐の率いるスペシャルズ艦隊は、先の謎の陣営を追跡し、サイド3の隣接宙域に進入していた。
「お茶の用意を。私はダージリンがいいな」
 そう言って、グリーン・ワイアット準級特佐は微笑んだ。戦闘配置命令が出ずにイラついていたレオン・ブラッド特士が眉をひそめる。同じように腕を組んでいたヤザン・ゲーブル上級特尉も同じ感想を抱いたらしく、こちらは歯に衣を着せない。
「敵が近いんじゃネェんですかい? こんな所でグズグズと……」
「心配いらんよ。我々には、モビルドールがあるんだからね。そんなことより、特尉もどうかね? 地球産の葉だ」
「……フン。モビルドール、か」
 ヤザンは吐き捨てると、さっさと自分のギャプランに搭乗すべく格納庫に向かう。レオン・ブラッドも同じように彼の後を追った。
「やれやれ」
「艦長、前方に敵機らしきものを確認しました」
 肩をすくめたワイアットに、オペレーターが告げる。
「早いな。レディは贈り物が好きだと相場は決まっている」
 彼は軽口を叩いて微笑むと、全軍に勝手な出撃を禁止するよう厳命し、艦隊を前進させ続けた。

 サイド3隣接宙域。無音の宇宙を、彼らはゆっくりと進軍していた。
 サイド3に建造されたモビルドール製造プラント。その破壊が、彼らの目的である。
カリウス・・私はこれで良かったのか? 多くの魂が漂うここへ戻ってきて……私は、多くの犠牲の上に立っているではないか……
 スペシャルズ基地より奪取したGP02−A……核搭載型ガンダム……を駆るアナベル・ガトー少佐は、併走するカリウス軍曹のゲルググイェーガーに機体を寄せた。
「それは指揮を取る方の宿命でしょう。この海はまだ若いのです。波が穏やかになるには、まだ……」
そうだな……私はただ、駆け抜けるだけのことだ……」

 ガトーは頷くと、母艦に命じて信号弾を撃たせた。まばゆい光が、漆黒の宇宙を照らし出す。敵に発見されるおそれはある。だが、彼はあえてそれを行った。
「……あとは征くのみ……」
 彼は呟くと、GP02−Aの盾からバレルを引き抜く。右肩からせり出したアトミック・バズーカーに長大な砲身を合わせる。ゴクン、という音と共に砲が接続され、接続部が回転して安全装置が外れた。モニタに、新たな赤い照星が現れる。
待ちに待った時が来たのだ! 多くの英霊が無駄死にで無かったことの証の為に!」
 ごぅん、という深い音を響かせてアトミックバズーカに砲弾がセットされ、照星の下の数字が、ぴたりと合わされたサイド3との距離を測ってめまぐるしく動き始める。
「再びジオンの理想を掲げる為に! 星の屑成就のために!」
 電子音が発射準備の完了を知らせる。
「サイド3よ! 私は還って来た!!」
 が、ガトーが引き金に指をかける寸前。ほど近い場所でビーム光が輝いた。
「なんと?!」
 シアルナーラ・ヴァッファ上級特士の機体が、信号弾に反応して攻撃を開始してしまったのだ。懲罰隊としてモビルドールと共に最前線に配置され、ワイアットの命令が行き届かなかったのだ。
 撃たれた方は当然反撃を開始する。突発的な交戦に、すべての指揮官が呪いの声を上げた。
「バカめ! さかりおって! ……やむおえん! モビルドールを攻撃に参加させろ! 待機中のパイロットも出せ!」
 ワイアットの命令で、次々と機体が発進する。
「宇宙でのオーラバトラーの適性……試させてもらう!」
 アレス・ラングレイ1級特尉は、レプラカーンを発進させた。風変わりな機体に、敵機が混乱する。
「おたつくんじゃないさ!」
 シーマ・ガラハウ中佐が歯がみする。
「あたしのバクチをよくも……」
 彼女もまた、部下を率いて攻撃に参加した。
 その中で、スペシャルズとして傘下している黒い三連星は動こうとしなかった。いや、動けなかったと言うべきだろう。
「エドウィン・ファン2級特尉。貴様は攻撃に参加しないのか?」
 ガイアの問いかけにも、エドウィンは首を振るだけで動こうとしなかった。
「……」
 黒い三連星は、離反の機会を逸したまま、交戦状態に入らざるを得なかった。

  ######

「また人形どもか! これは……散っていった者たちへの冒涜だ!」
 モビルドールの群れを見て、ガトーは唸った。だが、モビルドールの性能は破格である。彼もそれを知っていた。
「ぬお!」
 GP02−Aの巨大な盾に、ワイアットの指揮するアレキサンドリアの主砲が命中する。このままでは押し負ける。そう彼は感じた。
おのれ! このアナベル・ガトーは7年待ったのだ! 貴様たちのような分別の無いものどもに、われわれの理想を邪魔されてたまるか!」
 GP02−Aが、マウントしたままのアトミックバズーカをアレキサンドリアに向ける。引き金を引く。着弾。
 まばゆい光が宙域を満たし、アレキサンドリア以下一帯のモビルドールは一瞬で消滅した。
 指揮官を失ったスペシャルズが混乱に陥る。指揮を受けることができなくなったモビルドールが、目に見えてその動きを鈍らせた。
「よりどりみどり」
 そこにシーマ中佐率いる部隊が殺到し、スペシャルズ艦隊をずたずたに引き裂く。スペシャルズ部隊は、もはや散り散りに撤退するしかなかった。
 だが同様に、ガトーたちも撤退せざるを得ない。彼らの本来の目的は、モビルドールプラントの建造されたサイド3の破壊であり、疲弊した戦力ではそれを成すことはできないからだ。
 ガトーは、拳を
モニタに叩きつけた。

 なお、スペシャルズの報道はこの戦いには一切触れることはなかった。
 ただ、サイド3に侵入したゲリラが、ザクを使ってモビルドール製造プラントを襲撃。破壊したことを報じ、警備体制の強化を訴えたのみであった。なお、このザクはスペシャルズ防衛軍のモビルスーツによって破壊されたという……。
 真実を知る少年は、地球に降りるという女性……クリスチーナ・マッケンジーに向かって、笑ってみせようとした。
「バーニィも。バーニィもさ、きっと残念がると思うよ。きっと……」
 うまく笑えただろうか。少年は微笑みながら思った。

▼作戦後通達
1:サイド3のモビルドール製造プラントが破壊されました。モビルドール開発に遅れが出ることは確実です。
2:グリーン・ワイアット準級特佐に星勲章が、アレス・ラングレイ1級特尉には月勲章が授与されます。
3:グリーン・ワイアット準級特佐が戦死しました。
『エイジ対ル・カイン』
地球解放戦線機構・作戦4
「およそ理想を持たぬ愚か者の讒言によって、アステロイドベルトより三将軍どもが地球降下をはじめているそうだ」
 カナダの帝国軍基地。その司令室の暗がりの中にル・カインがいた。
「優れた者によるより良き指導 それに従う無垢なる従順。私の理想とする国家の建設はこのまま夢で終わるかもしれん。違うか? ジュリア」
 彼の傍にはジュリア・アスカがいた。グラドス人と地球人の血を引く解放戦線のエースパイロット、エイジ・アスカの実姉で、クスコの聖女と呼ばれる平和主義者である。 グラドスタワーを解放戦線が占領する前、ジュリアはまだ存命だったグレスコ総督に面会を求め、その場で拘束されていた。グレスコ死後も彼女の拘束は続き、現在もル・カインと行動を共にしていたのだ。
『ジュリアを殺せ!』
 ル・カインの脳裏にはあの日の、グレスコが死んだ日のことが今でも鮮明に焼きついていた。悲しげな瞳のジュリア。カルラ・エジールの射殺体。そしてグレスコもまたその胸に銃弾を受けていた。
『支配とは力だ…他者を抑えつける力だ……力とは即ち悪なのだ!』
「父上……」
 死の直前にグレスコが放った言葉が今でもル・カインに突き刺さる。
「父上! 貴方が悪い! 幼き頃より グラドス人としての誇りを持ち続けるように言い続けてきたのは父上、貴方です! 貴方ではありませんか……」
 虚空に絶叫するル・カイン。しかし父親の最期の言葉は彼を苦しめつづける。
『私の…死の真相は……秘密に……するのだ』
 少しの沈黙…ジュリアに背を向けたまま、ル・カインが口を開く。
「ジュリア、祈ってくれ。父のために祈ってくれ」
「ル・カイン様……」
 振りかえるル・カイン。彼の声から怒気が見え始める。
「祈れ! 祈ってくれ! 祈るのだ! ジュリア……祈れ! 我が父のために祈れ! お前が聖女と呼ばれるなら父のために……そしてこの私のために祈ってくれ!」
 ル・カインはすがりつくように、ジュリアの両肩に手をかけ、ひざまずく。その体は震えていた。
「優れた者に加護があるように……己の父を……手にかけた哀れな男のために……祈ってくれ……う、うう……」
 声は嗚咽となったが、それにジュリアが応えることはなかった。数刻後、ジュリアは帝国基地から離れることになる。ル・カインがそれを引きとめる事はなかった
「司令官閣下、ゲリラの部隊が接近中との連絡が」
 ジュリアが去ってから数刻後、ル・カインをまだ司令官と呼ぶ部下が報告する。ル・カインは彼に背を向けたまま出撃命令を下した。


  
######

「ひぃぃひゃははははっ! お前らまとめてぶち殺してやるぅ!」
 ゴステロはそう叫ぶと、ダルジャンを駆り、ゲリラのSPTを次々となぎ倒していく。 ル・カインを守る者は末端の兵士に至るまで、彼への忠誠心と優れた技量を持ったパイロットばかりだった。
 だが、ゲリラもまた蒼き流星レイズナー、白い悪魔アムロ・レイ、ガンダムプロジェクトの機体など戦力は揃っている。 戦況は、数で優位に立つゲリラが優勢に進めていた。帝国屈指のパイロットたちも、1人、また1人とその数を減らしている。 遂に死鬼隊も全滅した時、帝国側で未だに健在なのはル・カインの乗る金色のSPTだけとなっていた。
「我が理想の前に立ちはだかる者は死を覚悟せよ!」
 だが、ル・カインを阻めるものは誰もいない。離脱を試みたリヴァル・ミラー少尉のメタスを破壊し、デビット・ラザフォードのベイブルを一蹴する。
 アムロの乗るディジェが動きを封じようとするが、難なく回避し逆襲される。 アムロ・レイですらル・カインの前で苦戦を免れない。圧倒的な機体性能の前に、ディジェが大破するのに時間はかからなかった。
 ザカールはそのままアルビオンに一撃を加える。流れ弾が当たってもV−MAXレッドパワーのバリアが軽く弾いた。 もはやV−MAXに対抗するのは、V−MAXのみとなった。ザカールにレイズナーが立ち塞がる。
「エイジ……私を倒せばお前の望みはかなう」
「ル・カイン、ここで本当の決着をつけてやる!」
「エイジ! 勝負!」
「レイ! V−MAX発動!」『レディ』
 赤と蒼、2つの流星が激突する。
「邪魔はさせん! 私の夢! 私の理想! 貴様ごときに! 血の汚れた貴様ごときに!」
「貴様のその思い上がりを……俺は許さない!」
 2つの流星は、激突を繰り返し空へと上って行く。そして……消え去った。

「ジュリア様、ご無事だったのですね」
 1人、帝国基地から去ったジュリア。戦場から遠く離れた地で、彼女を安堵の笑みを浮かべて迎える少女がいた。リリーナ・ドーリアン、ジュリアの協力者の1人である。ジュリアはリリーナに答えた。
「……私はこれから、グラドス人と地球人との和解の道を探ろうと考えています」
「わたくしもジュリア様のお手伝いをしたたったのですが…」
「あなたは、あなたの道を進んでください。リリーナ・ピースクラフト」
「……まずモスクワへ行きます。ロームフェラ財団の真の姿を知るために」
「……また、どこかで会いましょう」

 蒼き流星が解放戦線に帰還したのは、2人が別れてからすぐのことだった。
 大破同然のレイズナーから降り立ったエイジは、ル・カインを撃墜したことをブライト・ノアに報告するとそのまま倒れ伏す。
 戦場の跡には、降服を拒んだ帝国兵士のSPTと、彼らの道連れにあったレジスタンスの機体の残骸が、その無残な姿を残していた。
 あまりの惨状に、数少ない生き残りであるシンシア・アルマーグ少尉は涙する。
「敵機を落とすだけの戦い……それが全てじゃないはず……私達は一体何の為に戦っていたの……?」
 それから暫くして、完全平和主義と呼ばれる言葉が世界中に広まることになるが、今の彼女らがそんな未来を知るはずもなかった。

▼作戦後通達
1:エイジ・アスカの証言からムゲ帝国地球占領軍総司令官、ル・カインの戦死が確認されました。
2:親衛隊、死鬼隊も全滅。でゴステロのダルジャンが戦場から離脱したと言う未確認情報がはいっています。
3:帰還したシンシア・アルマーグ少尉に月勲章が授与されました。
『シャッフルの名のもとに』
カラバ・作戦4
 デビルガンダム破壊のために、新宿に乗りこんだカラバ部隊。だが彼らを取巻く情勢は最悪の一言と言って良かった。 突如、ドモン・カッシュの4人の盟友が、その身をデビルガンダム細胞に汚染され、ドモンたちに襲いかかったのだ。
 ガンダムマックスターに乗るチボデー・クロケット、ドラゴンガンダムのサイ・サイシー、ガンダムローズを駆るジョルジュ・ド・サンド、そしてボルトガンダムを操るアルゴ・ガルスキー。 優れたガンダムファイターが、DG細胞の力を借り、更に強力な敵となってカラバに立ち塞がったのである。またカラバ部隊を率いているはずのマスター・アジアも行方不明となり、彼を偶然追跡していたレイン・ミカムラとレイ・タケダもその消息を断っていた。
 苦戦するカラバ部隊の前に、黒い異形のガンダムが現れる。そのガンダムを模したデスアーミーの集団を従えて。

「ドモン、そのガンダムにはマスターアジアが乗っているのよ!」
 輸送機からネーデルガンダムが飛び出す。その手のひらには、レインの姿があった。
「師匠が!? そうか、心強いな」
「そうじゃねえ、ドモン。あいつは最初から敵だったんだよ! 全部仕組んでやがったんだ!」
「新宿をデビルガンダムで廃虚にしたのも、私たちをここまでおびき出したのも、そして貴方のお友達を操ったのも……全てはあなたの師匠が!」
 ネーデルガンダムのガンダムファイター、レイ・タケダが叫び、レインもそれに続く。
「……タケダ、それにレインまで……俺の師匠がそんなことするわけないじゃないか。師匠、そうですよね? 師匠は俺たちの味方ですよね?」
「このバカ者が! ワシの正体にまぁだ気づかんのか!!」
 黒いガンダム……マスターガンダムから聞こえたのは、確かにドモンの師、東方不敗マスターアジアの声だった。

 マスターアジアは、カラバを裏切った。いや、元々敵だったと言うべきであろう。
 デビルガンダム調査のために極東へ赴いたカラバに接触したのも、彼等をBF団やバイストンウェルの軍勢と争わせたのも、全てはデビルガンダム復活のための時間稼ぎだった。 その間にマスターは新宿を廃虚とし、大勢の人間をゾンビ化させ、更には、ドモンの友人をもその配下に収めていたのだ。
 カラバ部隊を取巻く危機は、より強大な形となって彼らに襲いかかっていた。

 ライムント・バルテンの乗ったブラックイーグルは、デスマスター軍団の弾幕をかいくぐりながら、高高度からの一撃離脱を繰り返していた。しかしそれも限界が来る。
「戦況は最悪……もはや特攻しかありませんね」
「奇遇だな、俺も同じ事を考えていた」
 その通信が入ると同時に、地上のデスマスターが数機、ミサイル群の襲撃を受け爆散した。ガンダムヘビーアームズの姿が、ライムントのいる空からでも確認できる。
「デビルガンダム破壊は俺のもう1つの任務だ。そしてこれが最後の任務となる」

「フフフフフハハハハハハッ! 東方不敗マスターアジア! 貴様の思うようにはさせんぞ!」
 一方マスターガンダムの前に苦戦していたドモンとレイの前に現れたのは、カラバの誰もが見たことのない謎のガンダムであった。
「あんた、あんとき俺とレインさんを助けた……」
 レイの声を聞きながら、ドモンは、まるで自分を庇う様にマスターガンダムに襲いかかり、その上互角に戦ってのける謎のガンダムの姿を呆然とした目で見ていた。
「そう、私はシュバルツ・ブルーダー。だが今は私の正体よりも、デビルガンダムを倒す事が先決だろう。ドモン、それともお前はもう戦えないとでもいうのか?」
「クッ、貴様に言われるまでもない!! 俺はこの手でデビルガンダムを倒し、師匠を取り戻してみせる!」
「フハハハハッ! その意気だドモン! それに援軍も来た、ここで勝負をつけるぞ!」
 シュバルツの言う援軍らしき存在が、黒雲を突き抜け大空から現れる。稲妻をまとったその勇姿はドモン、そしてカラバの誰もが良く見知ったものだった。
「マジンガーZ!?」

  
######

 謎のガンダムことガンダムシュピーゲルをはじめとする助っ人の参戦が、絶望的な戦況をひっくり返したといえた。 ラディカル・グッドスピードがその自慢のスピードで、デスマスター部隊を撹乱させる。 ブラッド・スカイウィンドやライムントらの活躍で、チボデーたちは沈黙し、デビルガンダムはマジンガーZに酷似したロボットから放たれた稲妻により身動きが取れない。もはや己の両足で立っている敵はマスターガンダムのみ。
 だがマスターは強い、実に強い。次々と返り討ちにあうカラバの勇士たち。 戦場は数で決まる。そのはずだった。だがこの戦いに限って言うのならば、数を簡単に上回る圧倒的な質の存在こそが重要だったのである。
 この場にいた誰もが諦めかけたその時だった。忽然と4体の人型機動兵器が現れ、マスターガンダムを取り囲む。大破したシャイニングガンダムからドモンが飛び出した。
「まさか……シャッフル同盟!」
「ドモンよ、マスターアジアはシャッフル同盟の使命を忘れ、デビルガンダムにその身を委ねた反逆者。歴史上のありとあらゆる戦いを監視し続け、人類の破滅を防いできた、我らシャッフルの戦士が今成すべき事は……」
 4体のうち、ドモンに振り向いたひとつから壮年の女の声が聞える。そのジョーカーをモチーフにしたようなロボットはマスターガンダムの方へ向き直った。
「マスターアジア。よくも我が同盟の名を汚してくれた。その罪、貴様の命で償ってもらう」
「フンッ! 今更のようにシャシャリでてきおって、このワシを抹殺するだと? それが貴様らの頭をはった、もとキング・オブ・ハート東方不敗にいうことか!」
 しかし、状況が再度逆転したことに変わりない。そのことはマスターアジア本人が1番理解していたといえた。
「……だが今回だけはお前たちの顔を立てて引いてやろう」
「し、師匠…」
「ドモンよ、…ワシはあきらめんぞ」
 その場から悠々と引き上げるマスターガンダム。マスターがカラバ部隊を1人で引きうけている間にデビルガンダムの姿もまた消えていた。
 瀕死のデビルガンダムを破壊出来なかったのは、それだけカラバの部隊が壊滅状態にあった事に他ならない。
 戦場にはチボデーたちを含めた、モビルファイターやカラバの機体の残骸だけが残された。

「それじゃあ、あいつらは助かるっていうのか?」
 シャッフル同盟の説明にブラッド・スカイウィンドは歓声を上げた。元々マスターアジア以外で指揮官らしき人物のいなかったカラバ部隊。 マスターが敵となった現在、シャッフル同盟らと交渉するのは無事だったブラッドら健在組の役割となっていた。・
「命を極限まで燃やすことでDG細胞を除去する……か。ま、ドモンの口ぶりからいって、信用できそうだ。この4人はアンタたちに預けるぜ」
 だが彼はその言葉の真の意味にまだ気づいていない。もう2度とシャッフル同盟に会うことはないという事実に。
「あのガンダムはどっちもいなくなっちまって残るは……」
 ブラッドはそう言って後を振り向いた。マジンガーそっくりのロボットもまたその場から飛び去ろうとしていた。
「強い……アンタのロボットはなんていうんだ?」
 ブラッド同様無事だったショウヤ・サガミ。マジンガーZそっくりのロボットにショウヤは興奮ぎみに声をかけていた。
「グレートマジンガー。マジンガーZの兄弟さ」
「マジンガーZの、兄弟……?」
「この地球でこれから起こる混乱と戦うために作られた。また会おうぜ、カラバのぼうや」
 そういうとグレートマジンガーは翼を展開し、現れた時と同様に空へ去ってゆく。
 戦場で逃げまわっていただけのショウヤには、グレートの去り行く姿が、偉大な勇者のように見えた。


▼作戦後通達
1:東方不敗マスターアジアはデビルガンダムの使徒でした。デビルガンダムともどもその行方は不明です。
2:チボデー・クロケットら4人は、シャッフル同盟の治療を受けることになりました。
3:シュバルツ・ブルーダー、トロワ・バートン、グレートマジンガーの行方は不明です。
4:ライムント・バルテンに星勲章、ショウヤ・サガミに月勲章が手渡されます。




 OZ……スペシャルズの真の姿。その目的はムゲ帝国の駆逐と人類の解放。

 至るべき場所は同じだった。だが今までの彼らは敵だった。この現実をレジスタンスは、そしてスペシャルズの兵士はどうやって受けとめるのであろうか。
 融和か、対立か、それを決めるのは……

次回予告
 OZ総帥トレーズ・クシュリナーダはレジスタンス代表者らにこう告げた。
「我々は地球の未来のために戦う同志だ。君たちはOZにくればいい」
 地球解放戦線とカラバは、OZに入る、或いはOZと同盟するという新しい道を選ぶか、このまま帝国・OZ双方と戦いつづけるかの選択をしなくてはならない。
 一方旧スペシャルズ構成員もまた、トレーズの突然の言動に対してそれでも彼に従うか、或いは彼との距離をおくかの選択をしなければならない。
 そしてその選択が、アステロイドで、アフリカで、コロニーで生き続ける亡霊たちの運命をも決めることになる。  次回War in the Eaeth、『新しき道』或いは『偽りの平和』

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