【承前】
 南太平洋に浮かぶ、とある無人島。その地下に存在する大空洞で、今、永き眠りから目覚めんとする存在があった…

「時が来ました。目覚めなさい、我が子よ。我が愛しき大将軍ガルーダよ!」
 明らかにヒューマノイドの女性を象ったと思われる巨大な像が鳴動するや、地下空洞に時ならぬ鳥の羽音が響く。
「大いなる母、オレアナよ! 大将軍ガルーダ、お側におりますぞ!」
 猛禽類の翼を背中に生やした、金髪の美青年が足下に傅くと、巨像はさらなる鳴動を起こす。
「良く来ましたね。愛しき我が子よ。ついに待ちに待った時が来ました。主上がこの地に御親征あそばします。今こそ8000年前の汚名をすすぐ時。主上のご来臨に先駆けて、奴等と、この星の上に蠢く汚らわしき者どもを根絶やしにするのです!」
「ははっ! それでこそ母上。このガルーダ、直ちに出撃し、必ずやご期待に応えるでありましょう。…ギルア! グレイドンの用意をいたせ! ナルア! マグマ獣の積み込みを開始せよ!」
 ガルーダの命令一下、死んだように静まりかえっていた大空洞は喧噪に包まれる。その有様を、天井に張り付いた小さな虫型ロボットが監視していることに、彼らはまだ気づいては居ない…



「…キャンベル星の奴等、動き出しおったな。どうするつもりだ、幻夜よ?」
 中東の某所に設けられたBF団のアジト。十傑集が一人“衝撃のアルベルト”は、視線を地下空洞の映像から、傍らに立つ黒髪の青年に向ける。
「ご安心を。既に報告は策士孔明様を通じ、ボスにお伝えしてございます。ここまで、事は全て孔明様の描いた絵図面の通り進行しております。事を焦る必要はないかと。…それでは私は準備がありますので、これで」
 退出する幻夜を見て、アルベルトは不満げに鼻を鳴らす。
(いけ好かぬ奴。この作戦、本当にボスのご意志なのか?)
 ボスであるビッグ・ファイアの意志を疑う…それはBF団のエージェントにとって、不遜の極みとも言うべき思考である。しかしその時、アルベルトはその考えを捨て去ることが、どうしてもできなかった。
(調べてみる必要があるやも知れぬな…)



『月は地獄だ!』
OZ・作戦3 VS ネオジオン・作戦3
「援軍が、来ぬだと!?」
 月面都市グラナダ近郊に作られた、ムゲ帝国の月面基地。ルーナ参謀の報告に、シャピロは顔をしかめる。
「我が帝国の宿敵が、この太陽系を含む銀河第5宙域に迫っております。地球人どもと戦って疲弊したところを奴等に突かれれば、我が軍とてただではすみません。私と将軍達には帰還の指示が出ております。そして……」
「言いにくければ、俺が代わりに言ってやろう。俺と百鬼、地球からの投降者は、この地で捨て石とする。…良く知らせてくれたな。感謝するぞ」
 ルーナの青ざめた顔が、微かに紅潮する。本来彼に話すことは重大な命令違反なのだ。
「すまんが、デスガイヤー、ギルドローム両将軍を呼んでくれ。臨時の作戦会議を行う」



「前回のヘルマットの失態により、敵兵力の遅滞と漸減は予定のレベルに達していない事は、御両所も認識しておられると思う。事態を打開するすべはただ一つ。本国の大規模増援以外にはない。御両所は、本国へ戻って新たな軍団を整え、再侵攻の準備をお願いしたい。ルーナ、将軍方の補佐をせよ。俺は残存兵力をまとめ、アステロイド要塞に依って奴等の逆侵攻を阻む」
 場に沈黙が降りる。ムゲ帝王の指示は既に2将軍にも届いている。戦略的に正しい指示であることは承知しているが、兵を見捨て、地球人如きを前に尻尾を巻くのは断腸の思いである。
(この男、帝王様のご意志を知っておるのか)
 ルーナの緊張した顔を見れば、そのあたりは想像に難くない。
 デスガイヤーはシャピロの自信ありげな顔を見据える。ここに取り残されれば、地球人との戦闘で死ぬか、奴等との戦闘で死ぬか。
 その死地に、取り乱すでもなく飛び込もうとするシャピロの姿は、武人デスガイヤーにある種の感慨を抱かせるに充分だった。
「良かろう。俺の軍団とザン・ガイオーは置いていく。好きに使うがいい」
 ギルドロームもデスガイヤーに同調する。
 その数日後、ヘルマット艦隊を月面基地に残し、帝国軍は月面をあとにした。



 ドドーン! ズドドドドーン!!!
 無音の月面に、続けざまの振動が走る。月の引力に行かれた流星群の仕業である。
 大気のない月面では、流星群は地球上のように大気との摩擦で燃え尽きることなく、隕石となって地上を直撃するのだ。
 隕石と共に降る宇宙塵やミノフスキー粒子により、レーダーのたぐいは全く役に立たない。その流星雨に紛れ、密かに月面に降下した艦隊があった。ハマーン・カーン中将率いるネオジオン艦隊である。
「ハマーン閣下。申し上げたき事がございます」
 旗艦サダラーンの艦橋、ショウ・フラック大尉は、ハマーン・カーンに意見具申をするべくここを訪れていた。
「バルジ方面から月面へ向かうOZ艦隊がピケットラインにかかっています。目的はおそらく、月に残った帝国軍。これと敵対し、腹背に敵を受けるのは得策ではありません。いずれ戦うべき敵ではありますが、ここは一時共闘すべきかと愚考します」
 ハマーンは、一歳年下の青年の、ストレートな物言いに苦笑する。
「案ずるな。今ここで奴等とやり合う気はない。我等はグラナダ市の正式の要請を受けてここにいるのだ。奴らの手など借りずとも、我々だけでヘルマットなど蹴散らしてみせるよ」
 ハマーンの言葉に安堵し、一礼して去るショウ。その姿を見送りながら、しかしハマーンは別のことを考えていた。
(…妙だな。帝国軍から得体の知れないプレッシャーを感じる。…何なのだ。このざらつきは)



「君がパプテマス・シロッコ特佐か。アルビオンへようこそ。歓迎しよう」
「わざわざのお出迎え、痛み入ります」
 特佐待遇でOZへの参加が決まったシロッコは、発着艦デッキまで出迎えに来たエイパー・シナプス提督に敬礼する。そんな彼の姿を見て、シロッコが連れてきた二人の女性、元解放戦線のレコア・ロンド二級特尉と、サラ・ザビアロフ特士も上官に倣って敬礼する。
 彼女たちの後方では、ハンガーへ運搬される三機の機動兵器が、アルビオンクルーの注目の的になっていた。
 巨大な可変式MA“メッサーラ”。超重武装の攻撃用試作MS“パラス・アテネ”。そして偵察索敵用試作MS“ボリノーク・サマーン”。いずれもジュピトリス内でシロッコが独自に建造した機体であり、従来のOZ制式機動兵器とは一線を画したフォルムを持つ。
「凄い機体ね。どれくらいパワーがあるんだろ」
 3機のジュピトリス製MSを見てため息をつくヴァネッサ・ギャラウェイ上級特尉。その方に、不意に誰かの手が置かれる。
「ギャラウェイ特尉だね。君の噂は聞いている」
 驚いて振り返るヴァネッサの目の前に、謎めいた笑みを浮かべたシロッコの姿があった。連れていた女性二人の姿はない。
「こ、これはシロッコ特佐殿!」
 あわてて敬礼するヴァネッサに答礼し、シロッコは彼女を艦内に設けられたカフェへと誘う。
「私は、新たな時代の導き手になるのは女性だと考えている。君のような、ね」
「私のような、ですか?」
「そうだ。帝国は駆逐され、人類の新たな時代が始まろうとしている。その導き手は、地球の重力に魂を引かれた男達であってはならない。時代を動かしてきたのは、常に一握りの天才達なのだ。世界は天才である女性によって導かれるべきなのだよ。…君にその気があるなら、作戦終了後、私の元へ来たまえ。歓迎するよ」

 その頃、ブリッジに戻ったシナプスは、ユウキ・エイガ二級特尉の意見具申を聞いていた。
「グラナダからの救援要請は、ネオジオンにも出てンでしょ? そうなりゃ当然連中も部隊出してくるんだろ〜し。奴等が出てきた時、帝国が居る前で奴等と戦うのは、得策じゃないと思うんですがねェ?」
「貴様! 提督に向かって何という無礼な口の利き方だ!」
 副長のバサロフ上級特尉が激昂するが、シナプスは片手を上げてバサロフをいさめる。
「俺りゃぁ、このOZって組織からみればカラバからの出向者って云う殆ど蚊帳の外の部外者だからね。前居た所が此処なんて比べ物にならない位に砕けまくった組織だったンで、敬語ってヤツに慣れてないンですよ。そりゃともかく、俺たちの討伐の目的は、あくまで帝国軍でしょ? 此処で無駄に兵力を減らすよりは、一時共闘を申し入れちゃあどうでしょうねェ?」
 ユウキの率直な物言いに、シナプスは苦笑する。
「貴官がカラバからの出向者であれどうであれ、OZに籍を置く以上は部外者ではない。OZを構成する一員として、誇りと自覚を持て。…言い方はともかく、貴官の言いたいことはよくわかった。心配せんでも、ここでネオジオンとやり合うつもりはない。さすがに共闘までは難しいがな。わかったら持ち場へ戻れ。…ああ、貴官には作戦終了後、礼法の特訓を命ずる。OZの一員として恥ずかしくない礼儀作法を身につけろ。以上!」
 ユウキははじかれたように敬礼すると、ブリッジを飛び出した。



 帝国月面基地攻略戦は、あっけなく終結した。前後からOZ艦隊とネオジオン艦隊に挟撃される形となったヘルマット艦隊は壊滅し、両軍の艦隊を攻撃に向かったターミネーターポリス部隊も、直援のMS隊に補足され、ことごとく撃墜された。
「…妙だね〜。あまりにも脆すぎるねえ。そんでもって、や〜なプレッシャー、何事なんだろうねえ?」
 レイ・瀬戸一級特尉は、おちゃらけた口調を裏切る、険しい視線をプレッシャーの発生源であるグラナダ市に向ける。
 数分後、両軍の艦隊はグラナダ市を挟んで対峙していた。本来であれば、正式な救援要請に応えてきた身である。グラナダ市に入港して戦いの首尾を報告するのがスジなのだが、まさか手に手を取ってご一緒に、というわけにはいかない。
「くれぐれも手を出すなよ。バサロフ、各艦にも命令は徹底させろ。帝国艦隊は叩き潰した。こんなところでこれ以上犠牲を払うわけにはいかんのだからな」
 シナプスが部下の手綱を引き締めているころ、ネオジオン艦隊ではハマーンが同様の指示を出していた。両軍の間を忙しく軍使が往来する。交渉が長引く中、両軍の間に、徐々に緊張が高まっていく。その緊張がピークに達した時、それは起こった。

「提督! 軽巡洋艦マイアミとヘレナが敵艦隊に発砲! 敵艦隊反撃を開始!」
 旗艦アルビオンのオペレーター、ジャクリーヌ・シモーヌが絶叫する。それを聞いたシナプスの顔色が変わる。
「なんだと!? 何故だ。何故撃ったっ!?」
 敵艦隊が攻撃を開始した以上、反撃しなければ艦隊将兵の命はない。シナプスは断腸の思いで艦隊に反撃を命ずる。
「全艦戦闘開始! モビルスーツ隊の発進を急がせろ!」



「ほう、始まったか。せいぜい頑張ることだ。生きて帰りたいのならな」
 グラナダ市の市長室。本来であれば市長が座るべき席に陣取ったギルドローム将軍は、モニターの画像を見ながらうそぶいた。
 全てはシャピロの計画だった。グラナダ市の中枢を占拠し、市長の名で両軍に救援を要請する。月面基地とヘルマット艦隊は、彼らを釣るエサでしかない。実際、旗艦であるヘルマット艦以外は、先の戦闘で損傷を受け、戦闘に耐えないとして廃棄されるはずの戦艦を、それらしく見てくれだけ整えた無人の廃艦艦隊なのだ。
 程良く両軍が緊張したところで、ギルドロームが得意の精神操作を使って引き金を引いてやればいい。
「ヘルマットめ。死んでからの方が役に立つわい」
 ヘルマット将軍は、先のカリフォルニアにおける戦線崩壊の責任をとらされ、極秘裏に処刑されていた。この作戦で彼の名を使ったのは、彼の独断専行の走るイメージを利用し、かつギルドロームの名を伏せることで、精神操作に対する警戒をかわす狙いがあった。
『この月は、奴等にとっての地獄となる。この作戦で、奴等の戦力を少しでもそぎ取れ。カリフォルニアで殺ぐはずだった戦力、ここで帳尻を合わせるのだ』
 シャピロの言葉が耳に甦る。ギルドロームはモニターの向こうで行われる死闘を眺め、満足げに笑う。
「サルどもめ。悪夢はまだ終わらぬ。せいぜいバカ騒ぎを楽しむが良い。うはははははははっ!!」
 ギルドロームは、足下に転がる市長の屍を蹴飛ばし、ムゲ宇宙へ帰還するべくギル・バウアーの隠し場所へと向かった。



 双方にとって得る物のない戦いは、数時間にわたって続いた。両軍とも多くの艦船を失い、生きのこった艦も損傷を受けている。
 機動兵器の残骸が無数に転がる戦場跡。傷ついた友軍機に愛機の肩を貸しながら、アフィーネ・アーマライト上級特尉は、ぽつりとつぶやく。
「どうして…どうしてこんな事になっちゃったのかな…」

▼作戦後通達
1:この会戦による、OZ、ネオジオン両軍の被害は甚大です。
2:グラナダ市は、全てはギルドロームの精神操作の結果であるとして、自らも被害者であることを強調した上で両軍に陳謝しました。
『野望の終焉』
全勢力・作戦2
 漆黒の宇宙空間を、未曾有の大艦隊が進軍する。その大半は帝国軍に施されたモスボールを解除されて再就役したサラミス改級だが、新造されたアレキサンドリア級の艦影も多い。
 数ヶ月前のスペシャルズ宇宙進出以来、再建に努めてきたOZ宇宙艦隊の威容である。
 戦艦4・機動巡洋艦25・旧式巡洋艦68・コロンブス改級MS空母36。堂々たる大艦隊だ。
 その艦隊に、新たに6隻の機動巡洋艦が合流する。ラーディッシュ級機動巡洋艦。宇宙軍創設に際し、万丈が急遽アナハイム・エレクトロニクスから購入した新鋭艦である。
「久しぶりだな、ブライト。また一緒に宇宙で戦えるんだな」
「ああ、アムロ。ア・バオア・クーを思い出すな。頼りにさせてもらう」
 OZ艦隊旗艦、アーガマを訪れたアムロ・レイは、艦橋のモニターを埋め尽くす大艦隊を、感慨深げに眺める。その彼の目が、一隻の輸送艦にとまる。
「あれがモビルドールの輸送艦か?」
 コロンブス改級MS空母。輸送船改造の特設艦であるために機動力や火力はないに等しいが、これ一隻で12機のモビルスーツを運用できる。OZはこの艦を、モビルドールの母艦として大量建造していた。
「ああ、そうだ。あれ一隻でMDトーラス12機の運用が可能だ。新型のビルゴが間に合わなかったのは残念だが、あれはなかなかの戦力になる」
 ブライトの言葉に、アムロかは微かに顔をしかめる。
「しかしブライト。僕はどうもモビルドールは好きになれない。機械任せで戦争をするなんて、戦争はそんな簡単にして良い物じゃない」
「アムロの言うことはわかる。だが、モビルドールは所詮兵器だ。兵器自体には善も悪もない。使い手の心次第だろう。俺はこの兵器を気に入っているよ。それだけ若者達を殺さずに済む」
 太古、人形とは人間に代わって様々な災いをその身に受ける呪具だった。人に代わって戦い、宇宙の塵となるMDは人形の原点に回帰した存在なのかも知れない。
 様々な思いを載せ、カラバ宇宙軍と合流したOZ艦隊は、遙かなアステロイド・ベルトへと進撃を再開した。



「シャピロ様。ギルドローム将軍より連絡が入りました。OZ、ネオジオンの艦隊吊り出しに成功。地球人どもは予定通り仲間内で殺し合いを始めたとのことです」
 ルーナの報告に、シャピロは険しい表情を崩さずに頷く。
「ご苦労。ムゲ宇宙への旅の無事を祈ると伝えろ。…ルーナ、お前もそろそろ立つがいい。奴等の艦隊はすぐそこまで迫っている」
 シャピロの言葉に、ルーナは静かに首を横に振る。
「私は帝王様に命じられました。シャピロ・キーツを補佐せよと。私は帝王様の命に従います。それに…あなたは負けるつもりはないのでしょう?」
 ルーナの言葉は、シャピロを信じているとか、そう言うレベルの話ではない。事実として知っているのだ。彼が敗北する戦いなど挑むはずがないことを。
「言うまでもない。現状で揃う限りの手駒は揃えた。奴等の戦力も削った。俺はこの軍団で奴等を倒し、地球圏を制圧する。その上でお前達の宿敵とやらも打ち破って見せよう」
「できると…思っているのね」
「人が神となるためには試練が付き物だ。俺はあの洞窟で、神の声を聞いた男だ。できぬはずがあるまい」
 シャピロは手を伸ばし、ルーナの髪を愛撫する。
「…ただ一つ、間違っていたかも知れぬ事がある」
「何のこと?」
「俺は神になるため、愛を捨て去ったつもりだった。しかし真の神とは、愛を捨てたところではなく、超えたところにあったのかも知れぬ」
 その言葉のあと、二つの影はそっと一つになった…



「ブライト艦長! 所属不明の艦隊発見の報告です! 9時の方向!」
 オペレーターのトーレスの言葉で、ブリッジに緊張が走る。
「艦種知らせと伝えろ!」
「待ってください…来ました! レウルーラ級戦艦1、グワンザン級戦艦5、ドロス級超巨大空母4、ムサカ級機動軽巡18、エンドラ級機動軽巡16、ティベ級重巡18、ムサイ級軽巡48…ネオジオン艦隊です!」
 ネオジオン軍が、アステロイド要塞攻略のために艦隊を動かした事実は、既にOZ情報部も掴んでいた。しかし早期警戒用MS、アイザック部隊による早期警戒網が捕捉した艦艇の数に、OZ艦隊は衝撃を受ける。
「我々とほぼ同規模とは…シャアのヤツ、いつの間にこんな艦隊を!」
 アムロが唇を噛んだ時、アーガマのブリッジに一人の女性パイロットが飛び込んでくる。
「私は元ジオン公国軍中尉、現カラバのガーネット・マリオンであります。地球人共通の怨敵であるムゲ帝国を倒す為、この場は一時の共闘を申し入れるべきと考えます! お願いします! 私を軍使にしてください!」
 ブライトは目を閉じて熟考する。その行為が引き起こすであろうあらゆる事態についてシミュレートし、読みに読んでいるのである。
「…よかろう。行ってくるがいい。…アムロ、それで構わないな?」
「ああ、万丈には僕から話しておくよ。ガーネットさん、気を付けてな」

 数時間後、白旗を持ったガーネットの百式改は、ネオジオン軍のリックディアスの先導を受け、レウルーラに着艦する。
「久しぶりだな、ガーネット嬢。…総帥がお会いになる。こっちだ」
 親衛隊に籍を置くリックディアスのパイロット、シンディ・山崎少尉は、ガーネットを先導しながら彼女の来意を推し量る。
(OZか、考える事は同じだろうが、さて、呉越同舟か、昨日の敵は今日も敵か…厄介な物だな)
 ネオジオンが艦隊を動かしたのは、政治的なものもあるが、OZの尻を叩く意味が大きかった。ネオジオンが、その主力艦隊を地球圏にとどめたままでは、OZもそれに対抗する戦力を地球圏に残さねばならなくなり、結果的に帝国追討が徹底を欠く恐れがあったからである。
 やがてガーネットの必死の訴えを聞いたキャスバル・レム・ダイクン総帥は、一時休戦と対アステロイド要塞の共闘を承諾する。
 打倒帝国。この言葉の元に一つになった史上空前の大艦隊は、シャピロの待つアステロイド要塞へと、ひたひたと押し寄せていった。



「でてきたな…。地球人の不始末は地球人の手でつける。そういうことだ」
 ロジャー・ウィルダネス率いる遊撃部隊は、要塞前面に突出して陽動作戦を展開する。
 シャピロは衛星ミサイルによる第一派攻撃のあと、周囲の小惑星群に設置した無人砲台による濃厚な火網によって連合艦隊を苦しめていた。
 その要塞線と相互支援を行う形で、シャピロ直率の機動兵器部隊が機動防御を行っている。ロジャーの狙いは、その機動兵器部隊の目を引きつけて無人砲塔群との連係を乱すことだ。
「ちぃっ! 小うるさい蝿め!」
 シャピロは本来の愛機をルーナに預け、デスガイヤーに託されたザン・ガイオーに乗っている。敵の狙いがわかるだけにドッグファイトに応じるのは忌々しいが、ここで後を見せるわけにはいかない以上一気に揉み潰すしかない。
 ロジャーのビットガンに電磁ミサイルで応射するが、お互いに高速移動しているためになかなか有効打を与えることができない。
「くっ! やるですね…」
 ロジャーの部下の一人、シホ・キサラギのZ−PLUSが、ルーナの放ったビームキャノンの直撃を受けて後退するが、彼女と入れ替わるようにジャンヌ・ベルヴィル準級特佐率いる一部隊が突っ込んでくる!
「この場所で…。3年前の借りを返させてもらおう…」
 数の上でも優位を保てなくなってきたシャピロ隊は苦戦を強いられる。そして…
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
「ルーナっ! …おのれっ!!」
 ザッフェ・カイン上級特尉のビームライフルがルーナ機を射抜き、爆散させる!
 既にシャピロ隊のほとんどの機体がダメージを負っていた。宇宙空間に投げ出されたルーナの遺体を回収したシャピロは、駆け付けたゲルの部隊と交代し、部隊の再編成を行うべく要塞に帰還する。
「陣形が崩れた! 今だ、全軍突撃! 敵の殲滅を優先してくれ!」
 ロジャーの通信を受け、連合艦隊が前進を開始する。無人砲塔群は次々に沈黙し、要塞の防衛線は崩壊しつつあった…



 アステロイド要塞司令室。ルーナの遺体を部屋の隅に安置したシャピロは、コンソールから各部隊に指示を下し、戦線の崩壊をかろうじて押さえていた。
(奴等がこれほどまでにやるとはな…)
 シャピロが険しい顔でスクリーンを睨んだ時、不意に背後の扉が破壊され、銃を持った女性が現れる。
「言っただろうシャピロ! 必ずアタシが、アンタの命を奪うって!」
「サラ…」
「やっぱり神様ってのはどこかにいたようだよ。アンタじゃなくてね。アタシをここに導いてくれたさ!」
 ダンクーガから分離した結城沙羅一級特尉のランドクーガーは、指揮系統が乱れた間隙を突いて単機要塞内に潜入したのだ。
 サラは銃を構えたまま、腕時計型端末のトレーサーを作動させ、司令室の位置を味方艦隊に知らせる。
「もう話すことは何もなかったね、シャピロ。アンタと付き合って、一つだけ喜びを見つけたよ。アタシが…アタシがアンタを殺すと言うね!」
 その時、要塞の各所にある無人砲塔群が次々に自爆する!
「サラ! お前何をした!」
「さあね。ただちょっと、仲間が迎えに来やすいようにしただけさ」
「馬鹿め! 自爆する気かお前はっ!」
 サラは銃を構えたまま、寂しげな視線をシャピロに向ける。
「ああ、そのつもりさ。シャピロ!」
 サラの脳裏を、かつてシャピロと過ごした日々が走馬燈のように駆けめぐる。
 バシュッ!
 一筋の光条が、サラとシャピロを繋ぐ…ドッと倒れ伏すシャピロ。その躯を、サラは思わず駈け寄って抱きしめる。
「…シャピロ…馬鹿だよ、アンタ…馬鹿だよォ! シャピロォォォォッ!!」

 指揮系統が崩壊し、戦力の過半を喪失した帝国軍は、連合艦隊に投降し、アステロイド要塞は要員の脱出後に自爆する。
 今ここに三年半にわたった帝国軍の地球支配は終わりを告げた…

▼作戦後通達
1:アステロイド要塞、帝国艦隊は壊滅。シャピロ・キーツとルーナは戦死しました。ムゲ・ゾルバドス帝国の、地球圏における組織的抵抗は終焉しました。
2:デスガイヤー、ギルドロームはムゲ帝国本星に帰還しました。
『追儺(ついな)』
カラバ・作戦3
 海面ぎりぎりの超低空を、巨大な飛行物体が征く。多数のクジラ型飛行要塞やガウ攻撃空母を引き連れて空を征く姿は、まさしく天空の覇者だ。
 飛行物体の名はメカ要塞鬼。第一次攻撃隊が奪取した百鬼帝国軍の機動兵器である。武装が施されていないため、カラバはこの機体を巨大な輸送機として使用していた。
「あと20分で機動兵器部隊の攻撃圏に入ります!」
 オペレーターの言葉に、アラン・イゴールは険しい顔で頷き、傍らに立つ隻眼の男に目を向ける。
「いよいよだな。イン、手はず通り頼むぞ」
「おうよ! 給料分の働きはしてみせるぜ」
 隻眼の男、イン・バックスタッバーはいつも通り飄々と請け合ってみせる。しかし一つしかないその目には険しい光が見える。
 任務は百鬼移動要塞への潜入と破壊工作。第一次攻撃隊が行った捕虜救出作戦で、敵も当然警備体制を強化しているだろう。ベテラン工作兵である彼にとっても成功の見込みの少ない、極めてリスキーな任務だ。
「…人数はどれほど要る?」
「あんまり大勢で行っても目立つだろ? 何人か行きたがってるのが居るから、そいつら借りてくぜ。んじゃ〜」
 インはそう言って格納庫へ消える。アランはその後ろ姿に軽く敬礼し、攻撃隊発艦の命を下した。



 百鬼移動要塞島。専用の玉座に座するブライ大帝は、ヒドラー元帥からの報告にいらだちを隠せなかった。
「闇の帝王は、ミケーネ帝国は援軍を出さぬと言うのか!」
 主君の怒号を一身に浴びる羽目になったヒドラーだが、その彼自身もミケーネへの不審と反感は隠せない。
「ミケーネ諜報軍のゴーゴン大公が、BF団と頻繁に接触を持っていることは掴んでおりましたが、まさか我等との長年の友誼を無にしようとは…」
 スペシャルズがムゲ帝国に反旗を翻した時、百鬼帝国はこの機を逃さず、地球上から人類勢力を抹殺しようとした。アステロイドから来た三将軍との交渉も成功裏に終わり、百鬼はル・カインに代わる地球占領軍総司令官の地位を得た。
 しかしミケーネの動きはその当時から極めて消極的だった。先だって旧解放戦線の機密情報を奪取するために諜報軍が動いたのみで、その主力である七つの軍団は全く動いていない。
「闇の帝王は、ただ一言『今はその時ではない』と言ったのみです。見かねた暗黒大将軍が、機械獣用人工知能と、鹵獲した人間どもの機動兵器をいくらか廻してはくれましたが…」
 目下グラー博士率いる技術陣が、主の居なくなった百鬼獣や人類側機動兵器への人工知能の取り付け作業を行っている。破壊し尽くされた要塞の対空防衛網再構築も、日に夜を次いで突貫工事が続いている。グラー博士はここ数日全く睡眠をとっていないはずだ。
「ヒドラーよ。貴様は帝国にしたように、人間どもに屈することができるか?」
「何を滅相な! そのようなこと、戦鬼の誇りが許しませぬ。…いざとなれば、人間どもを一匹でも多く道連れにして果てるのみ!」
「そうだ。我等は誇り高き鬼の一族。我等のとるべき道はただ一つ。帝国の存亡を賭け、最後の一兵まで戦うのみ。 …ウザーラの調整を急げ。儂自ら出陣する!」
 それは亡国の道…照りつける熱帯の太陽の下、悲しき戦いが繰り広げられようとしていた。



「何処なんだ…君は何処にいる?」
 襲いかかるメカ牛剣鬼の攻撃を巧みなステップでかわし、コウジ・ツキガセの駆る鋼鉄の虎は要塞島を疾走する。
「コウジ。飛ばしすぎるな。お前が死んだら元も子もないぞ」
 先の攻撃で、コウジをサポートしてくれたヴァイス・スティルザードが声を掛ける。今回の作戦では潜入工作班と行動を共にするため、コウジのサポート役には回れない。
「周りの事は気にするな…必ず何とかするから…」
 追いついてきたカットグラUのクロス・ステンバーグだ。
「ヴァイス隊長こそお気を付けて。…俺は、俺にできることをやるだけですから。クロスさん、…こちらこそよろしくお願いします」
「コウジは強いな。心配するな。守るべき者を命がけで守り通すのがイージスだ。じゃあ、作戦終了後にな!」
 アフターバーナーの爆音を轟かせて、ヴァイスのブラックイーグルは戦場の空へと去る。コウジのランドタイガーは、襲い掛かってきたメカ一角鬼の破壊光線をかろうじてかわすと、彼を助けてくれた美しい鬼を探すべく疾走を再開した。

「ブリューナク小隊、総員吶喊! ゲンジ、サイシェス、ユキ、ブッフバルト、遅れるんじゃないわよ!」
 イージスがカラバの盾なら、彼らはカラバ最強の槍なのかも知れない。ケルトの太陽神ルーが手にする魔槍を小隊名に掲げる五人は、太陽の光と天空の稲妻を象った五本の穂先の如く百鬼帝国軍に襲い掛かり、当たるを幸いなぎ倒す!
「ジャマなんだよ!もうちょっとぐうたらさせてくれよっ…たくっ…」
 言葉とは裏腹に、巨大な合体百鬼ロボに一騎打ちを挑むサイシェス・ビュー。
 小柄なサンシャインガンダムを踏みつぶそうとしたグラーだったが、連日の疲れからなかなかガンダムを捉えることができない。そして…
「…もらった。あばよ」
 必殺のサンシャインフィンガーが合体百鬼ロボを捉える!
「馬鹿な……うおおぉぉーっ!?」
 次の瞬間合体百鬼ロボの頭部は大爆発を起こし、胴体に誘爆して爆散させる!
「…これが百鬼? 弱すぎるな。ブリューナクの相手しようなんて百年早いぜ」

 ブライ大帝自らが操縦する巨竜ウザーラは、マジンガー隊と死闘を演じていた。
「ちっきしょぉぉぉっ!! 覚えてやがれ!!」
 ボスボロットを破壊され、ボロットの首もろとも密林を転がりながらボスがわめく。
「これでは歯ごたえがなさすぎるわ!」
 獅子吼するブライに、上空からマジンガーZが襲い掛かる。
「それならこいつはどうだ? 光子力ビーム!」
「猪口才な! 我等百鬼帝国の野望、貴様ら如きに阻めるものかよ!」
 破壊光線が交錯し、命中の火花を散らすが、お互い装甲は特別製である。見かけほどのダメージは負っていない。
「野望というのは大それた望みのことよ。自分で大それた事と認めてるどうするの? これだから無学な鬼ってイヤねぇ」
 外見小学生のローレライが操るドナウα1からきついツッコミと共に飛来したミサイルを、ウザーラは無造作に尾ではたき落とす。
「おのれ小娘が! 図に乗りおって!」
 一転してドナウα1に襲い掛かるウザーラを見て、ドナウの胸の顔がウインクする。ローレライが作ってくれた一瞬の隙を、甲児は無駄にしなかった。
「今だ! 鉄也さん、準備はできてるな!」
「俺は戦闘のプロだぜ! 外しはしない!」
「「ダブルバーニングファイヤーッ!!」」
 マジンガーZのブレストファイヤーと、グレートマジンガーのブレストバーンが交錯し、超高温の熱線がブライのウザーラを包み込む!
「ぐわわわわ〜っ!! おのれ…おのれェイッ!!」
 装甲が溶融を始めているにもかかわらず、熱線を浴びていない後部からミサイルで反撃するブライ。既にウザーラのコクピットは灼熱地獄と化し、ブライの軍服もまた炎に包まれているにもかかわらず、この悪鬼は戦いをやめようとはしない。
 そこへ、ヒドラー元帥のメカ要塞鬼二号機を撃破したゲッタードラゴンが飛来する!
「往生際が悪いぞブライ大帝! 貴様のおかげで人でなくなった者の恨み、悲しみ、百倍にして叩き返してやる! 甲児君、鉄也君、アレを使うぞ!」
 竜馬の言葉に、ダブルマジンガーは熱線の放射をやめ、ゲッタードラゴンに合流する。
「ブライ大帝! 貴様が這いだしてきた地獄に、今叩き返してやる! ファイナルダイナミックスペシャル!」
 ダブルマジンガーとゲッターの巨体が白光に包まれ、全てを灼き尽くす光の矢となってウザーラを呑み尽くす!
「…我等百鬼一族が世界を征服する時が来たのだ! 全ての者よ、儂にひれ伏すがいい! ウハハハ…ウハハ…ハハ…ぐわぁ〜っ!!」
 ウザーラの巨体が大爆発を起こすのとほぼ同時に、百鬼軍の全機動兵器に通信が入る。
「あ〜、こんなもんで聞こえてるかな。俺はエスペランザのイン・バックスタッバーだ。この要塞の全機能はたった今停止させた。あんたらの負けだ。武器捨てて降伏しろ」
 要塞中枢部を制圧したキサキ・リンの働きで無人兵器群は活動を停止し、鬼兵士達も抵抗の無駄を悟って武器を捨てる。
「…畜生! ここまでかよ!」
 クロス・ステンバーグのカットグラUにとどめを刺そうとしていた鉄甲鬼は、両手のトマホークを力任せに大地に突き立てた。



「…やっと会えたね。ずっと君を捜していたんだ」
 武装解除された鬼兵士達は、いくつかのグループに分けられて拘束されていた。
 コウジはその中でも士官級の者達が収められた一室を訪ねていた。
「…あの時のボウヤね。憶えているわ。…私たちに何の用? 捕虜になった私を笑いに来たとも思えないけど」
 胡蝶鬼は、そう言って苦笑する。同じ部屋に収容された鉄甲鬼と暴竜鬼もいぶかしげな顔をしている。コウジは勇気を奮い起こすように深呼吸して話し始めた。
「貴女の仲間を殺していながらこんなことを言うのは虫が良いって分かってる…けど、聞いて欲しい!俺達が戦っているのは…敵は、百鬼や帝国じゃない!この…戦う事で…殺し合いでしか道が開けないどうしようもない時代と戦ってるんだ…だから!…だから…貴女も、戦うべき相手を間違えないで欲しい…人間とか、百鬼とか…そんな分け方をされない時代をいつか作り上げるために…」
 重い沈黙が室内を支配する。最初に口を開いたのは鉄甲鬼だった。
「…俺たちにも、戦えと言うのか? 時代とやらと………百鬼帝国は滅びたが、俺たちは鬼だ。貴様は人でありながら、鬼を信じることができるというのか?」
 コウジは鉄甲鬼の目をまっすぐに見つめる。
「俺たちだって、正義の味方じゃありません。OZから、ネオジオンから、帝国から…そして今この時代に脅えて暮らす人々の大多数から見れば、俺達は…悪戯に戦火を拡大させているだけの存在です。それだけの歪みを生みながら、それでも…俺は戦ってます。人の痛みを知れて、その痛みを自分のものと感じることが出来て…誰に祝福されなくとも…人類の可能性を、誰もが幸せになれる世界を信じてる人が集まれば、何かができると信じてるから…」
 コウジはゆっくりと胡蝶鬼に向き直る。
「それと…助けてくれてありがとう…あの時言えなかったから…」
 その言葉を聞いた胡蝶鬼は、不意に笑い始めた。笑いの発作は暴竜鬼と鉄甲鬼にも伝染し、やがて笑い疲れた胡蝶鬼は手を伸ばしてコウジの頬を優しくなでる。
「…今日はもうお戻りなさいな。ここはあなたのような人の来るところじゃないわ」
 拒否されている、と感じたコウジは、うなだれてその部屋を去った。



 その数日後、コウジはアラン・イゴールに呼び出された。
「先日占拠した移動要塞から回収した設計図に基づき、メカ要塞鬼の武装化が完了した。こういった鹵獲品は定数外の装備だ。こいつを手に入れてきたのはお前だから、この機体はお前に任せる。しっかりやれ」
 コウジがとまどっていると、アランは思いだしたように先を続ける。
「ああ、そうだ。実はお前の部隊への参加希望者が居る。丁度良いからお前に世話を頼みたい。…入れ」
 アランの言葉に応えて室内に入ってきたのは、鋭い角を額に生やした美しい女性、胡蝶鬼だった。
「他に鉄甲鬼と暴竜鬼もカラバに志願してきた。鉄甲鬼は竜馬に、暴竜鬼は、隼人とはしばらく距離を置きたいらしいんでレイ・タケダに世話を頼んである。彼らを口説いたのはお前だそうだな。声を掛けたなら最後まで責任を取れ。彼女は我々のやり方に不慣れだから、色々教えてやって欲しい」
「そう言うことだから、しばらく厄介になるわね。新しい時代を作るというあなたの戦い、特等席で見せていただくわ」
 胡蝶鬼はそう言って寂しげな笑みを浮かべた。

▼作戦後通達
1:百鬼帝国軍は壊滅しました。移動要塞島はカラバによって占拠され、拠点として使用するための調査と修復作業が行われています。
2:鉄甲鬼、胡蝶鬼、暴竜鬼の三名をはじめ、多くの鬼兵士が投降しました。その多くは、カラバへ参加する見込みです。
3:コウジ・ツキガセに、修復なったメカ要塞鬼が支給されます。
『ペズンの叛乱』
OZ・作戦1&カラバ・作戦1
「ガンダムMkX、帰還するぞ。減速のタイミングはそちらに任せる」
「了解した。こちらの誘導に従ってくれ」
 ブレイブ・コッド上級特尉は、ペズンの港口で降着姿勢をとったガンダムMkXから降りると、ペズンの基地司令室へ向かう。そこでは彼の盟友であり、この反乱計画を立案したトッシュ・クレイ上級特尉が彼を待っていた。
「よう、ご苦労さん。早速だがこいつを見てくれ」
 モニターの中では、一人のOZ士官が最新の戦技データを必死になってダウンロードしている。
「引っかかったネズミか。哀れなものだな」
「全くだ。モビルドールなんて代物に頼る連中には、俺達の戦技データがどうしても必要らしいな」
「他人事みたいにいうな。この計画はトッシュ、貴様が立てたんじゃないか」
 クレイは笑って話題を変える。
「逮捕した連中の地球への送還準備に手間取っている。今日の16:00に輸送艦を出すつもりだったが、まだ100人少々しか詰め込んでおらん」
「…忙しくなるな。声明の方はどうした?」
「NewDesides(ニューディサイズ)って名前で出しといたよ。徹底抗戦の声明をな」
「新たな決意の意味なら、Decisionじゃないのか?」
「造語さ。Dis−side、反対って意味にも引っかけてあるからな」
「なるほどな。頭を使うのはおまえの仕事だ。好きにしろよ。オレはスペシャルズの大義を貫けるなら、名前にこだわりはない」
 ニューディサイズ首領、ブレイブ・コッドはそういって司令室を後にした。



 オペレーション・ディブレイクと呼ばれるスペシャルズの反乱。これは、スペシャルズ創設当時から秘密結社OZによって綿密に計画されていた作戦計画に基づいた行動だった。
 スペシャルズの将兵は、この日のために同胞の白い目に耐え、侵略者の走狗として同じ地球人を攻撃する屈辱に耐えてきたのだ。しかしOZ総帥であるトレーズのとった行動は、彼らの期待を大きく裏切るものだった。山賊同然のレジスタンス組織を次々に取り込んだばかりか、こともあろうにレジスタンス出身の大塚茂を、OZ長官の地位につけたのだ。
 三年前の戦いの同志たちと和解できたことを喜び、人類が一つになったことに快哉を叫ぶ者も多かったが、それに反発を感じる者はそれ以上に多かった。ニューディサイズ追討を任務とするX分遣艦隊を率いるブライアン・エイノー上級特佐もその一人だった。
 猛将エイノー。彼は将兵たちから、その容貌と行動に親しみを込めて、“ハゲタカ提督”というニックネームを奉られていた。
「ぶしつけですが、閣下はスペシャルズでいらっしゃいますか?」
 X分遣艦隊旗艦、ブル・ランの艦長室を訪ねてきたその男は、開口一番そういった。
「儂は、自分が掛け値なしのスペシャルズだと自負しておる。近頃のOZではそういう挨拶が流行しておるのかね?」
 男はにやりと笑うと、あっさりと自分の正体を明かした。彼の名はマイク・サオトメ。エイノーが艦隊を率いて討伐に向かっているニューディサイズ側の人間だという。
「ならば、コッドやクレイ達におとなしく投降するように伝えてくれんかね。人類が帝国を太陽系からたたき出そうとしている現在、お互いに無用な流血を避けたいとは思わんか? まして、君らのような優秀な兵を失うのは心苦しい」
「自分には投降の勧告はできません。なぜなら、自分は閣下に我々の意志を知っていただきたくて、OZの憲兵による逮捕の危険を冒しながらも、この艦に乗艦したのですから。それに、我々は負ける気はありません。今現在、教導団団員に匹敵する技量を持ったパイロットは、OZには僅かしかいないでしょう。それは長らく士官学校校長を務められた閣下の方がよくご存じのはずですが」
 サオトメは、教導団団員がなぜこのような行動に走ったのかを熱っぽく語った。
「帝国による支配が打倒され、OZの名の下に、人類が再び一つになる。それ自体は誠に結構なことです。トレーズ閣下がお喜びになるお気持ちも、わからぬではありません。しかし、だからといってなぜ、山賊どもに感謝など、まして重用などしなくてはならないのでしょうか。今やOZは世界国家と言っても過言ではない。レジスタンスを名乗る山賊など、さっさと武装解除させて正業に就かせるのが本当ではないでしょうか。帝国への反抗に名を借りて、テロや略奪暴行のし放題。数多くの同志が奴等との戦いで散っていったのですぞ。本来であれば山賊どもは重罪に処せられてしかるべきなのです! それがトレーズ閣下の気まぐれで、奴等は罪に問われるどころか、OZの正規の隊員扱い。大塚などOZ長官にまで取り立てられる始末です! 私たちは山賊の下に置かれたのですぞ! こんなことが許されていいのですか!」 
 エイノーは黙して答えない。サオトメはさらに言葉を続けた。
「山賊どもがいったい何をしたというのでしょうか。奴等はただ単に、形勢の不利を悟って勝者に尻尾を振ったにすぎない。これが手柄だというなら、OZの頂点に立つにふさわしい大手柄だというなら、忠節とは何でしょうか? 戦場での生死をかけた働きより、その場しのぎのおべっかの方をトレーズ閣下はお喜びになるのでしょうか? たかの知れた山賊どもの兵力などに、真の愛国の士の志が、スペシャルズの誇りが劣ってもいいというのですか!? …私たちはトレーズ閣下に対する忠節は誰にも負けません。ご命令があれば死をも厭いません。しかしこの度敢えて、トレーズ閣下の心得違いをお諫めいたす所存で、私たち教導団はトレーズ閣下に弓を引きました。最後にはトレーズ閣下とスペシャルズの誇りのために腹を切る所存です。閣下、なにとぞご理解をいただきたい……」
 サオトメの説明には一種異様な迫力があり、知らず知らずのうちにエイノーは彼らの主張に賛同していった。彼自身、たった一人の息子をビクトリア基地の爆弾テロで失っていた。トレーズへの忠誠のために死ぬ。軍人特有のくだらないヒロイズムに火がついた瞬間だった。
「月。そこに政権を樹立するのか。とんでもないことを考えたものだな。クレイ特尉も」
 教導団からきた男、サオトメはエイノーの瞳の中に言いしれぬ興奮の光を見いだしてほくそ笑んだ。



「OZ宇宙軍教導団が敵で、OZの艦隊が一緒なんだぞ!? 落ち着いて敵と味方を見極めろといっているんだ!」
「うるせえっ! 手前だって元スペシャルズのクソ野郎だろうが! スペシャルズなんぞオレのガンダムで片っ端からぶち殺してやるぜぇっ!」
「言いやがったなこの野郎!」
 ガンルームでつかみ合いの大喧嘩を始めたリョウ・ルーツとアレス・ラングレイを見て、カラバから派遣されたα任務部隊を率いるストール・マニングスはため息をつく。
 解放戦線のように消滅したわけでないとはいえ、カラバとて一枚岩ではない。OZに吸収されることを嫌って解放戦線から移籍した将兵も多いし、少数ではあるがここにいるアレスのようにスペシャルズから移籍した人間もいる。
(ALICEの熟成が目的とはいえ、難儀なことだな)
 ペズンの反乱はOZの内部抗争が発展したものだ。本来であればカラバが首をつっこむべき問題ではない。にもかかわらず破嵐万丈が部隊派遣を決定した真の目的は、この艦隊が運用する一機のMS、Sガンダムに搭載されたALICEシステムにあった。
 ALICEシステムとは、SPTの補助AIを参考に従来の教育型コンピューターを発展させた操縦補佐システムであり、モビルドールシステム同様にパイロットなしで機動兵器を動かすこともできる。
 モビルドールシステムとの最大の違いは、ALICEそのものが擬似的な人格を保つと言うこと。いわば心を持ったコンピューターであることだ。
 ALICEを“人間”の論理に適合したものにするためには、最初に誰かが物事を教えてやらねばならない。一通りの基礎教育を終えたALICEは、人間で言えば思春期と同じ状況にある。今のALICEに必要なのは異性としての男性である。その男性は、単なる通り一遍の男性であってはならない。時に父であり、兄であり、恋人である、一筋縄でいかない不条理な存在、“危険な男”でなくてはならないのである。
(そして選ばれたのがこの男という訳か。……なんとまあ)
 パイロットにはALICEの存在は教えられてはいない。パイロットとALICEは相思相愛になってはならないのだ。相思相愛になる前の男女は、お互いに気に入られようと己を磨く。その切磋琢磨こそが必要なのだ。
「やめんか、クズども!」
 戦場の喧噪を圧して轟き渡るストールの大声は有名である。普段は控えているので、新入りのパイロット達は知らなかったらしく、とっくみあいを続けていたリョウとアレスは驚いて飛び離れる。
「ルーツ、ラングレイ。貴様らは規律を乱した。階級なきカラバではあるが、軍事組織である以上規律を守らねばならん。上級者が死ねと言えば死ぬ。飛べと言われれば飛ぶんだ! よってこの艦隊の指揮官として、貴様らに三日間の重営倉入りを命じる!」
 二人はもがいて逃げようとしたが、すぐに取り押さえられて連行される。もちろんストールに罵声を浴びせることも忘れてはいない。
「やれやれ。前途多難とはこのことだな」
 ストールとしては、戦闘のおおかたはOZのX分遣艦隊に任せ、ALICEの調整に専念するつもりだった。しかし彼はまだ知らない。そのX分遣艦隊で大変な事件が起こっていることに。



「OZ宇宙軍本星艦隊、X分遣艦隊の全艦艇将兵諸君に告ぐ。私はブライアン・エイノーである。これより本艦隊はOZ総司令部からの命令を変更し、現在、ニューディサイズと名乗る教導団将兵たちと合流する。
今回の事件に於いて、小官は"義"はニューディサイズに在りと見た。彼らの主張する通り、OZは飽くまでスペシャルズであり、スペシャルズとしていく他の辛酸をなめた将兵こそがその中心なのである。先の紛争に乗じて台頭してきた山賊にそそのかされ、山賊の言いなりとなった政権の、いや、実体は山賊でしかない大塚長官が下した命令にスペシャルズは従うことは無い、と小官は判断する。またスペシャルズである誇りが有るならば、決して従ってはならない。故にこれはトレーズ閣下、及びOZへの抗命ではない。OZはスペシャルズとしての誇りの為に戦う軍隊なのである。
あのヴィクトリア基地の惨劇を想起せよ。正義はスペシャルズと山賊どものいずれに在ったのか? 小官の決定に不服な者は十二時間以内に艦隊より退去せよ。真にスペシャルズたる誇りを持つ者のみ、小官と共に行動せよ。諸君の英断を期待する。スペシャルズ万歳。以上!」
 エイノーの演説は、ブル・ラン艦橋要員の拍手と歓声で締めくくられた。この放送が流れると同時に、艦隊の将兵の間に動揺が走る。提督は発狂したのではないか? しかしスペシャルズが山賊のいいなりになるのが我慢ならないという話は理解できないではない。旗艦ブル・ランには問い合わせが殺到する。だが、発狂ではないとわかるとブル・ラン以外の艦艇の間で通信量が激増する。
「この時期に地球人同士の戦いを起こす方々におつきあいする必要はありませんね」
 ロバート・ラプター準級特佐はそういって、愛機もろともヘンケン艦長のラーディッシュに移る。
「…エイノー提督と言えば、超がつくタカ派……もしもの事を考えて置いた方が良いとは思っていたけど」
 シンシア・アルマーグ二級特尉は、愛機量産型Zガンダムのコクピットでそうつぶやく。万一の場合は撃沈してでも提督を止めるつもりだった彼女だが、今の状況でそんなことをすれば艦隊全体から集中攻撃を受けかねない。
「処分くらいならともかく、抱き合い心中じゃ割に合わないか」

「提督。ラーディッシュが艦隊からの離脱を伝えてきました」
「うむ。……各艦ごとの離艦希望者は、輸送艦に搭乗させよ」
 エイノー自身の高い人望が災いしていた。ただ一隻離脱を宣言したラーディッシュと分かれたX分遣艦隊は、どこへともなく姿を消す。



 エイノー艦隊脱走の報告を受けた宇宙要塞バルジの幕僚達はパニックに陥りかける。もはやこの艦隊は、追撃できない宙域に進出してしまっていたからだ。
 この強力な艦隊が反旗を翻したことにより、ペズン攻略の戦略が根底から覆されてしまったのだ。
「落ち着け! 至急カラバのα任務部隊に事実関係を伝えよ! X分遣艦隊は、α任務部隊の背後へ向かいつつあった。交戦すればいかにカラバの精鋭とてひとたまりもないぞ! バルジ駐留艦隊に出撃準備をさせろ。直ちにエイノー艦隊を追撃させるのだ!」
 レディ・アン上級特佐が大喝してバルジのパニックはかろうじて収まる。しかし、レディ・アンから緊急連絡を受けたストールは蒼白になった。
 今となっては引き返すこともできない。前門のペズン、後門のエイノー艦隊である。なんとしてもペズンを突破しない限り道はなかった。エイノー艦隊を離脱したラーディッシュと合流すると、彼は艦橋要員に命じてパイロット達をブリーフィングルームに集める。
「……俺達が生き残る道は二つ。ペズンに投降し、捕虜となるか、一か八かペズンを攻略するかだ」
 投降に賛成する者は一人もいなかった。ストールはうなずいてリモコンを操作し、スクリーンにペズンの外観図を投影させる。
「これがペズンだ。元々暗礁宙域の小惑星だから、周囲には多数のスペースデブリが浮遊している。これらの多くは、既に質量爆弾に改造されていると見て間違いないだろう。要塞砲についても、既に旧式巡洋艦から取り外した火砲が小惑星上に設置されている。それに加えて、OZ最強と目される教導団が新型MSに乗って待ちかまえている。今の戦力で、この要塞を力押しで攻めるのは単に無謀だ。攻略の目標はただ一つ。……ここだ」
 ストールはレーザーポインターで、スクリーンの一点を指す。
「SOL7804発電衛星。元々はL4宙域のコロニーに電力を供給するための人工衛星だが、一年戦争後、サイド2が復興した時には新たにより大容量の物が建造されたために放置されていた。連中はこれを引っ張ってきて、要塞の電力源にしているらしい。我々はここを叩く」
 発電衛星を無力化すれば、要塞の防御力は激減する。しかし堅固な防衛網をどうやって突破するのか。ストールはその秘策を語り始めた。

 “悪魔の花園” 主に旧世紀一九四〇年代に戦われた第二次世界大戦中、北アフリカの戦闘においてドイツ軍がトブルク戦線に構築した地雷原と同じ名称を与えられたペズンの防衛機構は、その名前の元になった地雷原と同様、恐るべき代物だった。
 地獄の花たちに囲まれたペズンで、スペシャルズ至上主義者達はついに邂逅を果たす。
「ブル・ランから発光信号!」
「エイノー閣下か!」
 コッド達ニューディサイズ将兵は、ブル・ランが入港する港口に殺到する。
「コッド特尉か。前の戦争以来だな」
 レーザー通信によるエイノー提督の音声が、港の管制室に流れるのと同時に、エイノーは敬礼を送る。コッドは、かつて一年戦争の折、エイノーから部隊感状を貰ったことを思い出す。
「勇敢なるニューディサイズの諸君に、手みやげを少々持参した。山賊どもの兵器を使うのは業腹だが、役に立つことは保証しよう」
 ブル・ランのカーゴベイから、“D”と描かれた巨大なコンテナが次々と搬入される。死闘の火蓋は、今まさに切って落とされようとしていた。




 ブリーフィングの二時間後。ペガサスVのMSデッキに、異様な形のMSが引き出される。その機体の名称は、Sガンダムという。パイロットはリョウ・ルーツだった。様々な機構を盛り込んだ驚異の新鋭機は、今、下半身を無骨なブースターユニットに包まれている。これは、Sガンダムの高速巡航、並びに高加速モードと称されている形態である。
 艦の両舷にあるカタパルトには、さらにZ−PLUSと呼ばれるZガンダムの量産機が2機、セットされている。この2機はウェーブライダー形態をとっているために、今は人型をしていない。
「今だ撃てぇぃっ!!!」
「リョウ・ルーツ、Sガンダムいっくぜェェェェッ!!」
 艦隊の一斉砲撃と同時に、ペガサスVから2機のZ−PLUSに続いてSガンダムが射出される。
「チ・ク・ショ・ウ……なん・て・か、加・速・な・ん・だ・よ……」
 あくまで非常用のこの形態、滅茶苦茶な加速能力と引き替えにとんでもないGが発生するのだが、付属の耐Gスーツやリニアシートではそれを吸収しきれないのだ。ちなみに人間を乗せて安全評価を行ったことは、ただの一度もなかったりする。合掌。
「ダメだ。Sガンダムの加速に追いついていけない……」
 リュウ・イシュマイルは、歯を食いしばりながらもウェーブライダーでSガンダムを追尾する。
「援護する必要があるのかよ!」
 僚機のアレス・ラングレイがうなり声を上げる。
 3機のMSは、あっという間にペズンの浮き砲台が展開した宙域へと到達する。
「クソッ! ついて行く方の身にもなれ」
「喋っていると舌を噛みますよ」
 量産型Zガンダムのコクピットで毒づくエン・ホオズキ1級特尉を、ロバート・ラプター準級特佐がたしなめる。爆発的な加速で突っ込む3機の後方からは、α任務部隊の機動兵器部隊が殺到しつつあった。目指すはSOL7804発電衛星……



 気違いじみた加速で突っ込むガンダムチームは、さしものニューディサイズにも阻止できなかった。
 SOL7804発電衛星はガンダムチームによって穴だらけにされたあげく、エンの放ったハイメガランチャーの直撃を受けて爆散し、エイノーのブル・ランもロバートの攻撃で大破する。
 ニューディサイズ艦隊は、エイノー艦隊と共にペズンを爆破して撤退するが、それを追撃する余力は、既にα任務部隊には残されていなかった……

▼作戦後通達
1:ペズンを爆破したニューディサイズ艦隊は、エイノー艦隊と共に月面のエアーズ市に逃げ込んだ模様です。大塚長官は、アステロイドから帰還した主力艦隊から兵力を抽出し、α任務部隊の生き残りと共に追撃する方針を決定しました。
2:ロバート・ラプターに星勲章が授与されます。
『30バンチの惨劇』
ネオジオン・作戦1
『一人の死は悲劇であっても、数百万の死は統計上の問題にすぎない』 アドルフ・アイヒマン

 ネオジオン・コロニー派遣艦隊の旗艦、グワンガンの艦橋。ネオジオン全権大使であり、艦隊所属MS部隊の「名目上の」指揮官を務めるアルティシア・ソム・ダイクンは、午後のお茶を楽しんでいた。
「凄い規模の艦隊なのですね。帝国との決戦が行われようという今この時期に、これほどの艦艇と機動兵器をこの作戦に割く必要があって?」
 重力下の暮らしが長いアルティシアだが、さすがに宇宙生まれだけあって器用にチューブ入りのお茶を飲んでいる。その仕草に、お相手のランバ・ラル大尉は目を細める。
「姫様のおっしゃるとおり、軍事的には必要ありませんな。各コロニーに駐留しているOZの部隊は、元サイド3に居た連中やグリプス駐留部隊のような例外を除けば、治安維持を主任務とした二線級部隊です。装備する機動兵器や艦艇は旧式ですし、数自体も知れた物です。『牛刀をもって鶏を割く』ようなもので、軍事的観点から見れば、これほど無駄な戦力投入も珍しいと言えましょうな」
 ラルの言葉に、アルティシアは微かに柳眉を逆立てる。
「ならば何故そのような無駄を敢えてする必要があるのですか! アステロイドに向かった主力艦隊がそれだけ危険にさらされるのですよ!」
 彼女の剣幕に、ラルは目を白黒する。彼にとってアルティシアは、代々使えた主筋の姫君であり、畏れ憚るべき存在である。言葉を喉に詰まらせた彼に助け船を出したのは、艦隊司令のユーリ・ハスラー少将だった。
「それはつまり、政治的な必要性があるということなのですよ。コロニーは、OZの軍事力に強い脅威を感じています。言い換えれば、我々が彼らと手を取り合うには、OZの手から彼らを守れる力があることを、アピールする必要があるのですよ」
 初老の紳士であるハスラー提督は、お茶を一口飲んで少しむせる。
「全権大使であり、総帥の妹君でもあらせられる姫様に、形ばかりでもMSに乗っていただくのも同じ理由になります。姫様御自ら、コロニーのために命を賭ける姿は、コロニー住民に強く訴えかける効果がありますからな。…もちろん、実際に危険に身をさらしていただくのは困りますが」
(…要するに宣伝工作と言うことなのね)
 アルティシアは苦いため息をつく。かつては第13独立部隊『ホワイトベース隊』の中核戦力としてジオン軍MS隊と死闘を繰り広げた彼女だが、7年のブランクは大きい。さすがにいきなり戦力になれるとは思っていなかったが、このような扱いに不満がないといえば嘘になる。
 彼女が周囲の反対を押し切ってネオジオン入りをした理由の一つは、公表したとおり父の理想を実現しようとする兄に合力しようとしてのものであったが、それだけが理由ではない。
(…もしキャスバル兄さんが道を誤るようなら…私は…)
「ああ、そうそう。姫様の『親衛隊』をご紹介しましょう。…入れ」
 ラルの言葉で思索を中断されたアルティシアは、艦橋に入ってきた娘達に答礼する。
 二十代初めと思しき一人を除けば、どの娘もハイスクールに通うくらいの年齢だ。
(…写真映りの良さそうな方ばかりね。…あまり実戦を経験した方々には見えないけれど)
「ああ、誤解の無いように言っておきますが、彼女たちは実際に我が軍の実戦部隊に籍を置く機動兵器乗りであります。…経験豊かとは御世辞にも言えませんが、この際少しでも戦場の空気に慣れさせてやりたいと思いましてな。タレントを使わず彼女たちを採用しました」
 美しい妙齢の娘ばかりなのも、宣伝効果を狙ってのことなのだろうが、アルティシアとしても、むくつけき男どもの壁に囲まれるよりも、年下の娘達と一緒にいた方が気楽でいい。とりあえず彼女たちの自己紹介を聞くことにする。
「シャルル・ウィンディー少尉です。ゲルググ・イェーガーに乗ってます」
「エスナ・ラシエル准尉です。愛機はガザDです」
「ドネ・アルフェ少尉であります。ガザCに乗っております」
「シアルナーラ・ヴァファー准尉です。ザクTを愛用しております」
「レナ・ウォーカー少尉、陸戦型ガンダムでお供します!」
 乗機がものの見事にバラバラなのも、何か政治的意図があるのだろうか。アルティシアはそんな雑念を振り払い、5人に向かって微笑みかける。
「私が、アルティシア・ソム・ダイクンです。皆さん、短い間ですがよろしくお願いしますね」



 旧サイド7宙域に浮かぶ軍事コロニー群、グリプス。その一基、グリプス1に建設されたOZ宇宙軍作戦司令部で、バスク・オム上級特佐は、腹心のジャマイカン・ダニンガン二級特佐から艦隊の出撃準備完了の報告を受けていた。
「…うむ、ご苦労だった。これでサイド2は12時間後には地球圏から姿を消すだろう」
 バスクはスクリーンに、サイド2で放映されているニュース映像を映し出す。地球圏に漂う残留ミノフスキー粒子のおかげで受信状態はよろしくないが、史上最大規模の反ロームフェラ集会と、ロームフェラ製品不買運動の盛り上がりを伝えるニュースキャスターの声は何とか聞き取れる。
 30バンチに端を発した反OZ、反ロームフェラの市民運動は、今やサイド2全域に飛び火していた。バスク特佐は忌々しげに口元を歪める。
「宇宙人どもめ。つけ上がりおって! コロニーは地球を支える資源であり、労働力でありさえすればいいのだ。…まあいい。はしゃいでいられるのも今のうちだけだ」
 バスクの艦隊には、巨大なボンベが多数積み込まれている。…G3ガス。一年戦争時にギレン率いるジオン公国が使用し、サイド1、2、4、5の全住民を殺戮した恐るべき猛毒ガスである。
『サイド2壊滅作戦−オペレーション・シャワールーム』
 中世期、ナチス・ドイツがユダヤ人絶滅計画に基づいて建設した強制収容所群。そこでガス室を「シャワー・ルーム」と呼んでいたことから命名された。
 使用するG3ガスは、当時ガス室で使用されたチクロンBとは比べ物にならない毒性を持つ。原液を一滴気化させるだけで、ビル一つ分の人間をことごとく悶死させる事ができるのだ。皮膚からも吸収されるため、ガスマスクを付けていても防ぐことができない。バスクは、このガスをサイド2の全コロニーに注入しようとしていた。
「トレーズやレディ・アンの生ぬるいやり方では、コロニーの支配など到底おぼつかぬ。話し合いなど、奴等をつけ上がらせるだけだ。我等OZは、武威を持ってコロニーを統治する。我等は畏怖される存在でなくてはならんのだ!」
 非道の極みとも言うべき作戦であるが、ジェノサイド(皆殺し作戦)という手法は人類の歴史上何度も使用され、効果のほども実証された常套手段の一つである。ここまでやるという意志を被支配者に伝え、相手を恐怖で縛ることで屈服を強いることができるのだ。もっとも、政治手法としては強力な劇薬に等しく、民度の上がっている現代においては、その使いどころは極めて難しい。
 バスクは政治家としてこの作戦のもたらす得失について検討を重ね、ゴーサインを出した。  OZは帝国の走狗として同胞の弾圧に携わったスペシャルズを前身に持ち、今またかつての連邦政府同様地球上からコロニーを支配しようとする立場にある。いわばスペースノイドに嫌われる要素ばかりを兼ね備えた組織であり、一方でジオン・ダイクンの理想を掲げたネオジオンという対抗馬が存在する現在、スペースノイドから支持を得ることは極めて困難と言わざるを得ない。
 さらに、帝国の衛星兵器使用と三年にわたる戦乱によって地球が疲弊しているのに対し、スペースコロニーはその攻撃に対する脆弱性もあって帝国に対して早期から無抵抗を貫いており、農産物や工業製品の供給地を必要とした帝国による積極的なインフラ整備もあって、ほぼ一年戦争以前の経済水準まで復興を成し遂げている。
 ジオン残党の落ち武者達が、こうも短期間に巨大な戦力を整えることができたのも、コロニーの巨大な経済力がバックに付いていればこそだ。OZが地球圏の覇権を望むのであれば、今は手段を選んでいる場合ではないのかもしれない。
「しかし閣下。ネオジオンはサイド2に対し交渉のための艦隊を派遣するようです。コロニーにガスを注入すると成れば、奴等が一斉に邪魔に入るのは必定。目標をサイド4かサイド5に変更するべきではないでしょうか」
 ジャマイカンの懸念に、バスクはせせら笑いで応える。
「既に作戦は動き出しておる。今更変更などできるものかよ。それにネオジオンがアステロイドと月面に相当規模の艦艇と機動兵器を割いていることは確認済みだ。奴等とて本国を丸裸にするつもりはない以上、大した戦力は出せまい。出てきたなら出てきたで、新編成の強化人間部隊と、新型モビルドール、ビルゴの餌食にしてしまえば良いだけのことだ」
 ブライト特佐からの報告を信じるなら、アステロイドベルトに投入されたネオジオン艦隊の規模は、一年戦争末期のジオン公国が保有していた全戦力をすら上回っていることになる。バスクはシャワールーム作戦に参加するOZの艦艇や機動兵器部隊の規模から考えて、地球圏に残留するネオジオン艦隊は脅威にならないと判断する。
「直ちに艦隊を出撃させよ。コロニーの愚か者どもに、誰が支配者であるか思い知らせてやるのだ!」
 ジャマイカンは、弾かれたように敬礼してバスクの前を辞去する。その姿を見送りながら、バスクは皮肉な笑みを浮かべる。
(……これで歴史が動く。ワシは虐殺者として歴史に名を留めることになろう。……ククッ、OZによる千年王国実現のためなら、汚名など安いものだ)
 バスクは窓の外に広がる宇宙空間に視線を転じる。
(帝国の再来寇……その日までに地球圏を一つにまとめることができねば、後の歴史など意味を持たん。……我らには時間がないのだ)



 情報を制する者は戦場を制することができる。戦いに臨む軍隊は、懸命に集めた状況から様々な状況を想定し、作戦を立てる。しかし実際にはすべての情報が手にはいることなどまずあり得ないし、刻々と変化する状況の中、両軍は盛大にミスを犯すことになる。
 OZとネオジオンは、共に敵軍の予想戦力を読み誤るというミスを犯した。共に索敵に力を入れていた彼らは、ほぼ同時にこのミスに気づくことになる。

「戦艦二隻を伴う大艦隊だと!? 馬鹿な!」
 ジャマイカンはコンソールのポストを足で蹴飛ばし、帽子を床に叩きつける。
「……ボンベはまだ30バンチにしか設置しておらんのだぞ。ええぃ! モビルドールをありったけ出撃させい! 強化人間部隊も出すのだ! 出し惜しみをしている場合ではないわ!」
 モニカ・プティング、レオン・ブラッド、リヴァル・ミラーの三名を対象にした人体実験の結果、ムラサメ研究所は強化人間の大量調整技術の実用化に道を開いていた。モビルドールの実用化により、OZには並の兵士が必要なくなったとする意見は、ツバロフ技師長をはじめとするMD主兵論者の間に以前からあったが、ムラサメ研やオーガスタ研はその意見に対抗して『一般兵士の強化人間化による高付加価値化』を主張していた。
 そもそも、モビルドールシステムに対する風当たりは、ロームフェラ財団の中でもかなり強い。モビルドールには組織に対する忠誠心はあるが、個人に対する忠誠心はない。軍隊を政治力の裏付けにしている中にとっては、おもしろくないことこの上ない。いかなる形でも、彼らには私兵となる人間のパイロットが必要だった。
 彼らのごり押しもあり、OZの将来を担う兵器システムを実践で評価するべく、ジャマイカンの艦隊は、MDの他はすべて強化人間のパイロットばかりで機動兵器部隊を編成している。
 艦隊のMS空母から、ビルゴや量産型サイコガンダムが次々に発進していく。
 対するネオジオン艦隊でも、予想を上回るOZ艦隊の規模に当惑しながらも反撃体制を整えつつあった。

「サイド2空域内にOZの大部隊見ゆ! 既に機動兵器多数が展開しております。コロニー周辺で作業中の模様!」
 戦艦グワンガンの艦橋に緊張が走る。
「何かでっかいタンク据え付けてますね。何に使うのでしょうか?」
 シアルナーラ准尉の一言が、艦橋の人々を石に変える。地上生まれの彼女には意味不明の代物でも、一年戦争を経験したジオン軍人には、二度と思い出したくない記憶をしたたかにえぐる、具現化した悪夢ともいうべき代物だった。
「……ラル大尉。あのボンベは、まさか……」
 温厚なユーリ・ケスラー提督の顔色も紙の色だ。ランバ・ラルは沈痛な表情でうなずく。
「まず間違いありますまい。G3……海兵隊の奴等が運んでいるのを見たことがあります。……奴らはあの一年戦争から何も学ばなかったというのか! 一週間戦争の地獄図絵、この上はどんなバカでもアレを再び使うヤツはおるまいと思っていたが」
 ラルの声に苦渋がにじむ。特殊作戦に数多く参加した彼だからこそ、OZの作戦の非道さが実感として理解できるのだ。
「惚けている時間はありません! 直ちに全艦隊に戦闘配置を命じなさい! あそこにはOZの暴力に抗うすべすら持たない幾億もの人々がいるのです。艦隊がここで全滅しようともかまいません! OZによるホロコーストを、なんとしても阻止するのです!」
 アルティシアの声に、レナ・ウォーカーは横っ面をひっぱたかれたような顔をする。
(……そうね。私たちがやるしかない。たとえここで死ぬことになったとしても)
「……姫様。レナ・ウォーカー、お供します」
 アルティシアはヘルメットを手に立ち上がったレナに微笑み、そのままMSデッキへ駆け出す。親衛隊の娘たちも遅れじと続き、艦橋には老戦士二人が残される。
「姫様、さすがはあのお父上のお嬢様です。私はいい死に場所を得ました」
「なんの。まだまだ楽にはさせませんぞ。ジオン軍人の誇りと意地を、OZの鬼どもの心に刻みつけてやるとしましょう」



「…おい、ナンバー4。気づいていたか。こいつら、俺達のように研究所に記憶を奪われてはいないぞ」
 漆黒の巨人、サイコガンダムが、同型機の肩に手を置いて接触回線で話しかける。ゼロ・ムラサメとフォウ・ムラサメ。最初期の強化人間である彼らには、周囲を固める量産型ではなく、巨大なオリジナルサイコガンダムが支給されていた。
「…気づいているさ! 私たちは今日まで必死に戦ってきた。少なからぬ戦果も上げてきたはずだ。なのになぜ、私たちには記憶が許されず、ぽっと出のこいつらには記憶が許される!?」
 ゼロの懸念は、フォウもかねて感じてきたことだった。記憶のないことの恐怖と不安。それを取り除くため、今日まで心ならずも戦いを繰り返してきたのだ。
(……カミーユ)
 ホンコンで出会った少年の顔が脳裏をよぎる。
「……研究所は俺達に記憶を返すつもりなどないのかもしれん。もしそうなら…オレにも考えがある。ナンバー4。おまえも記憶が取り戻したいなら力を貸せ」
「……いいだろう。だが今は、目の前の戦いに集中しろ。…このざらざらした感じ、おまえも感じるはずだ。ジオンのプレッシャー、並大抵ではないぞ」
 ネオジオンもまた、虎の子のニュータイプ部隊をこの作戦に投入していた。OZがサイド2に何をしようとしているのか、ニュータイプであるが故にアルティシアの悲壮な覚悟を感じ取った彼らは、艦隊もろとも特攻を敢行しようとしていたのだ。

 史上類を見ない、凄惨な死闘が繰り広げられた。OZも、ネオジオンも決して負けるわけにはいかなかった。死をおそれぬモビルドール、洗脳により恐怖を感じない強化人間が、艦隊ぐるみ死兵と化したネオジオン軍と激突したのだ。
 高機動型ジオングと量産サイコガンダムが激突し、ありとあらゆる角度からメガ粒子砲が交錯する!
「貴様らは過去の歴史から何も学んでいないのか? 外道が! 数百万人単位の虐殺をさせるワケにはいかない。G3散布を止められずともせめてコロニー住民脱出の時間を稼がなくては!」
 敵の旗艦を目指して突撃するレナの陸戦ガンダム。しかし彼女の前に巨大なガンダムが立ちはだかる。フォウの駆るサイコガンダムだ。
「人形が… 落ちてしまえっ!!」
 サイコガンダムの拡散ビーム砲が火を吹く。レナは必死に回避するが、シールドごと片腕を持って行かれる。
「戦といえど守るべきルールはある。それを!」
 全速で離脱をはかるレナをフォウが追撃しようとした時、サイコガンダムにメガ粒子砲の集中豪雨が襲いかかる。
「あの娘たちは殺させない!」
「わああああっ!! こ、このパワー…あたしに向かってくる!!」
 アルティシアのサイコ・ドーガがフォウを引きつけている間に、レナはジャマイカンのアレキサンドリアに肉薄する。しかし……
「まだだ! せめて一人でも多く逃がさねば! 保ってくれ! 私のガンダム!」
 モビルドール・ビルゴのメガキャノンは、シールドを失った陸戦ガンダムを直撃し、レナの願いもむなしく爆散させる。
「ああ……コロニーが……」
 偶然にも30バンチ方面にとばされたレナの救命カプセル。スクリーンにしがみつく彼女の眼前で、一体の量産サイコガンダムがゆっくりとボンベのコックを回した……



 小学校に通うユイ・キタムラは、夕べのうちから枕元においていた小さなリュックを背負い、元気よく家を出た。今日は楽しみにしていた遠足なのだ。
「おかあさん、いってきま〜す!」

 カルロ・マローニは、必死の形相で全力疾走していた。彼の通う高校は生活指導が厳しく、遅刻常習犯の彼は学年主任に目をつけられているのだ。
(夏休み全部補修なんてまっぴらだよ!)
 そのとき無情にもチャイムが鳴り始める。これが鳴り終える前に校門をくぐらねば校門は閉まる。残り35メートル!
「神様! 間に合ってくれ!」

 ステファニー・リーは、夫を送り出した後、病院へ行くための身支度を調え始めた。今日は産婦人科の妊婦講習があるのだ。
「男の子かな。それとも女の子? 名前、考えとかなきゃね」
 結婚早々子宝に恵まれた彼女は、幸せいっぱいだった。


 次の瞬間、彼らの人生は唐突に終わりを告げた。一家四人が惨殺されたと聞けば、人々は痛ましさを覚えるだろう。その悲劇は、彼らの想像の範疇にある。しかし数百万人の死ではどうだろうか。失われた数百万もの人生を実感することなど、並の人間にできることではない。
 しかしここには、それを感じることができる人々が集まっていた。……彼らの名を、ニュータイプという。

「うあああああああっ!!」
 その瞬間、両軍の全てのニュータイプ、強化人間が頭を抱えてのたうった。
 数百万の断末魔、失われていく魂の叫びが、サイコミュを通して彼らの精神を直撃したのだ。
「…これは、なんとしたことだ」
 ジャマイカンは、一瞬で戦闘不能になった強化人間たちの有様に言葉を失う。
 他のコロニーにボンベを据え付けつつあった者達も、一人残らず頭を抱えて突っ伏しているようだ。モビルドールは依然として敵のオールドタイプ部隊と交戦を続けているが、純戦闘用の彼らに、ガスの注入のような高度な作業はできない。
「…仕方あるまい。コロニー一つだけでも我らの意志はスペースノイドどもに伝わったはず。作戦は成功した。モビルドールどもにサイコガンダム隊を回収させろ! 回収後、速やかにこの空域を離脱する!」



「……これが、あなた方の答えなのですか。私たちスペースノイドには、人として生きる権利すら認めないというのですか!」
 地獄と化した30バンチコロニーの中、ノーマルスーツに身を包んだアルティシアは、超人的な気力で壇上に立ち、カメラの前で訴えていた。
 断末魔の声によるダメージは未だ残っている。しかしそれにもまして強い憤怒と悲しみが、彼女を突き動かしていた。
「非道なOZよ! 私はあなた方と戦います。人が人として生きるために!」

▼作戦後通達
1:OZによるサイド2壊滅作戦は失敗に終わりましたが、唯一G3注入を防げなかった30バンチコロニーでは、300万人の住人全てが死亡しました。
2:ネオジオンによって公表されたこの事件は、地球圏に大きな衝撃を与えました。
3:シャルル・ウィンディーに、月勲章が授与されます。
『蒼を受け継ぎし者』
OZ・作戦6&カラバ・作戦6VSネオジオン・作戦5
 北米大陸ハミルトン基地。各地から集められたOZ、カラバの実験部隊は、輸送機に詰め込まれてこの地に到着した。
「今日は暑くなりそうね」
 輸送機の、決して座り心地が良いとはいえないシートから解放されたレティシア・エマノンは、片手をかざして日差しを遮り、手近な建物へと歩き出す。愛機ドゥミーロックの梱包が解けるのはかなり後になるだろう。私物の類もまだしばらくは到着しない。さしあたってすることもないので、基地内を見学させて貰うことにしたのだ。
「OZの基地…か」
 旧連邦軍基地だったここは、現在はOZの拠点となっている。そこかしこで目にする旧スペシャルズの黒い制服…OZがカラバの頼もしき同盟者になった今も、彼女には今もって捨てきれないわだかまりの象徴でしかない。
(…ん? あれは?)
 平屋のカマボコ兵舎改造とおぼしき一棟の建物。何気なくその窓をのぞき込んだ彼女の目に、軍事施設にはふさわしくない光景が飛び込んでくる。カーペットを敷かれた広い部屋。その中で幼い少年少女が思い思いにお絵かきをしているのだ。
 興味を引かれたレティシアは、開いていた引き戸から室内に入り、手近な少女の作品をのぞき込む。
(……!)
 それは、異様としか言いようのない絵だった。天を引き裂き、巨大な腕が町に襲いかかっている。
「…その娘は、いつも同じ絵ばかり描くのだよ。……帝国軍の衛星兵器攻撃を目撃したんだ」
 不意に背後から声がかかる。レティシアが振り向くと、そこには白衣を着た初老の男が立っていた。
「ワシの名はクルスト・モーゼス。ここでEXAMの研究を兼ねて化け物屋敷を開いている。ハミルトンへようこそ、お嬢さん」
 化け物屋敷とは何のことだろうか。レティシアが怪訝な顔をすると、クルストは笑って言葉を続ける。
「この施設に集められているのは、いわゆるニュータイプの素質を持つ子供達だ。君はニュータイプを知っているかね?」
「……特殊能力のある人間のことですね」
 ニュータイプ、超能力、聖戦士の素質……それらを持つ物は、実際に身につけた技量以上の力を戦闘中に発揮する。彼女自身はニュータイプではないが、そういったパイロットが存在することは聞き知っていた。
「特殊能力というならその通りかも知れない。ただ、ニュータイプは、超能力などの他の特殊能力とは厳然とした違いがある。超能力者は、あくまで突然変異によって人類から生まれるミュータントだ。いわば進化の袋小路に入り込んだ存在だな。こんな物は恐れるに足りない。だが、ニュータイプは違う。かつてジオン・ダイクンが提唱したとおり、ニュータイプとは、宇宙時代に適応進化した、新しき人類なのだ!」
 レティシアがいぶかしげな顔をしていると、クルストは皮肉っぽく笑う。
「なるほど。少なくとも君はニュータイプではないようだな。ニュータイプなら、こんなにくどくどと説明をしなくてもすむ」
 理解力が劣っていると言われたような気がして、レティシアは少しむっとする。しかしニュータイプでないのはお互い様らしく、クルストは気づかずに話を続ける。
「宇宙空間は、地球の大地以上に広大だ。その環境に適応すると言うことは、認識力が拡大すると言うことなのだ。認識力の増大は、状況の的確な把握にとどまらない。相手の存在そのものを認知することにもつながるのだ。存在とは、相手の総体とも言い換えられる。ニュータイプはこれを、一瞬にして把握する。つまり、瞬時に相互の理解が可能になるのだ」
「相手を理解するわけですか」
「そうだ。だからニュータイプのパイロットは、相手が次にどのような行動をとろうとしているのか、その相互理解によって予知することができる。絶大な戦績は、この能力による物だ」
 相手を理解してなお、引き金を引くことができる……レティシアはふと、嘘寒さを覚える。
 その時、窓の外で異様な駆動音が聞こえ、開いた引き戸から強い風が入ってくるのに気づく。窓に駆け寄ると、滑走路付近に蒼い巨人が舞い降りたところだった。
 身長は並のMSの二倍以上。蒼く塗られたその巨体の名はブルーゲッター。今回の実験で使用するスーパーロボットである。
「……蒼いですね。同じシステムを積んでいることに対する、博士なりのこだわりですか?」
「別にワシはこの色が好きというわけではないさ。かといって意味がないわけではない」
 こだわりは存在するらしい。
「以前ワシがフラナガン機関にいた時のことだ。そこで研究に使っていた少女が、実に変わっていた。宇宙を描かせると、必ず蒼く塗るのだ。本来なら黒く塗りつぶすのが本当なのにな。彼女には、宇宙がそのように見えるのだそうだ。宇宙は真空の虚無ではない。そこには人の意志が満ちている。だから蒼いのだと」
 クルストはそこまで言って表情をゆがめる。
「この蒼は、人類がニュータイプと同じ物を感じるという意味を込めての物だ。そのためにEXAMはある。そしてそれを感じることができなければ、ニュータイプを倒すことはできん!」
 博士の目に激情がこもる。レティシアは、思わず一歩引いていた。
「ニュータイプを……倒す?」
「そうだ。我々が生き延びるためには、ニュータイプを殲滅する必要がある!」
「ニュータイプは進化した人類ではないのですか!?」
「……君はネアンデルタールになりたいのかね? クロマニヨンに追われて消え去った存在に。ニュータイプの突出した戦闘能力は、将来、我々旧人類に向けられるだろう。その時になってから手を打ったのでは遅い。だからワシはEXAMを用意しておくのだ。来るべき戦いに備えてな」
 クルストは足下で無心に絵を描く少女を憎々しげに睨む。
「ニュータイプは我々と同じ姿をしていても、別の生き物だ。宇宙が別の色に見えるのだからな」
 EXAMは、ニュータイプを殲滅するための兵器……レティシアは少女の描く絵を呆然と見つめていた。



「ニムバス大尉! 奴等、動き出しました!」
 ハミルトン基地近郊の演習場に潜入したエリス・シルフィード曹長は、傍らのニムバス・シュターゼン大尉に声を掛ける。ニムバスは嘲るように笑う。
「ふふん。連邦の豚どもめ。始めたようだな」
 高台に位置を占めた彼らの眼下で、ブルーディスティニーとブルーゲッターが戦闘を開始する。
「…何という動きだ。奴等、本当に人間か!?」
 サミュエル・ボング曹長が呻く。今や2機の機動兵器の動きは、超人的としか言いようのない域にまで達していた。
「見物は終わりだ。仕掛けるぞ! 総員搭乗!」
 ニムバスの命令一下、ネオジオン軍は一斉に機動兵器に搭乗し、高台から実験部隊に奇襲を掛けた!



「…むごいものよのう。南無阿弥陀仏」
 数時間後。ゲンノジョウ・カンナギは基地の惨状を前に手を合わせる。
 襲ってきたネオジオン軍は、戦場に長居をしなかった。決死隊が実験部隊を食い止めている間に、EXAMを発動させたニムバスはまっすぐに基地を突いた。
 そしてクルスト博士を殺害し、格納庫にあったブルーディスティニー2号機を強奪したのだ。
「クルスト博士…貴殿は何を考えていたのじゃろうな」
 ゲンノジョウのマーマンガンダムは、ユウ・カジマ1級特尉のブルーディスティニーと共にネオジオン部隊を突破し、格納庫前でニムバス率いる部隊と交戦している。その時、確かに聞いたのだ。クルスト博士とニムバスとの会話を。
『さすがはジオンの騎士、ニムバス・シュターゼンだ。やはり、おまえの方がEXAMをより使いこなしている。その機体、有効に使え。おまえこそ、ニュータイプに裁きを下す者…』
 次の瞬間、博士はニムバスの砲撃で肉片と化す。
『今更私を選ぶなど…恥を知れ!』
「御坊。何をお考えかな」
 追憶にふけっていたゲンノジョウは、ルーシェ・シェルロード特士に肩を叩かれて振り返る。
「ああ、申し訳ない。……クルストどのお最期について考えておりましてな」
 ルーシェは頷いて、ゲンノジョウの隣で基地に向かって黙祷を捧げる。
「……確かに妙だったな。あのタイミングなら、博士は逃げようと思えば逃げられたはずだ。…それをせず、敢えて敵の砲火の前に身をさらした。オレにはそうとしかみえなかった」
「……」
 その点についてはゲンノジョウも全く同意見だった。クルストの胸中は、今となっては知るよすがもない。
「…奪われずに残ったブルーディスティニー、オレが預かることになったよ。御坊にもブルーゲッターが支給されるそうだ。…あの機体に乗れば、クルスト博士が何を考えていたのか、わかるかも知れないな」
 奪われたブルーディスティニー2号機奪還のため、追撃部隊が編成されていることはゲンノジョウも知っていた。しかし、その部隊に彼やルーシェの名前はない。彼らには別の戦場で、EXAMの実戦テストをすることが期待されていた。
「人が人を裁く……思い上がった話じゃな」
 ゲンノジョウは天を仰ぐ。地上で流された多くの血も知らぬげに、空はどこまでも蒼かった。

▼作戦後通達
1:ブルーディスティニー2号機は強奪され、クルスト博士が戦死しました。EXAM研究はアルフ・カムラ技師に引き継がれます。
2:ルーシェ・シェルロードに、ブルーディスティニーが支給されます。
3:ゲンノジョウ・カンナギに、ブルーゲッターが支給されます。
4:エリス・シルフィードに、イフリートTXが支給されます。




 ロームフェラ財団本部。アステロイド要塞攻略成功によって帝国軍を太陽系からたたき出すことに成功したロームフェラは、次なる目標、スペースノイド粛正に向けて動き出そうとしていた。
「宇宙の技術力が、我々ロームフェラ財団の財力によって、花開く時が来た! 遂に全ての帝国軍は地球上から姿を消したのだ!
 支配すべき階級である我々は、OZの大軍団をネオジオンとの紛争地域に配備し、どれほど強大な力を持っているかを、宇宙人どもに教えることで、世界に秩序を与えるのである!
 そして、古き良き伝統と格式の時代を、再び迎え、世界を統治しようではないか諸君! トレーズ。これからも、OZを頼むぞ」

 壇上に立つデルマイユ公の前に進み出たトレーズ。しかし彼の口から出た言葉は、満場のロームフェラ財団幹部を驚愕させるに充分なものだった。

「デルマイユ公、私はロームフェラ財団の進む道に、賛同しかねます」
「なに!?」

 あっけにとられるデルマイユ公を後目に、トレーズは語り始める。

「古き良き伝統とは、人間の奥深い感情が築き上げた、いたわりの歴史。私は、戦うことが時に美しいことと考えると共に、命が尊いことを訴えて、失われる魂に哀悼の意を表したい。
 私は、人間に必要な物は絶対的な勝利ではなく、戦う姿、その姿勢と考えます。しかし、G3ガスの如き非道な大量破壊兵器の使用を行うロームフェラ財団の築く時代は、後の世に恥ずべき文化となりはしないでしょうか。
 また、戦わずには居られない人間性を無視するクスコの聖女を称えるなど、レジスタンスの思想は、その伝統を知らぬ無知が生み出す、哀れな世迷い言として感じておりました。
 しかしその境遇の中から、私の理想を超えた新しい戦士が生まれました。それがOZに参加した旧解放戦線の戦士達であり、共に歩むことを誓ったカラバの戦士達なのです。
 彼らの純粋性に満ちあふれた感情の前に、伝統は霞んで見えることでしょう。
 憎むべき存在だったスペシャルズに吸収され、その前にひざを折ることを強要された戦士は、歴史上敗者なのです。しかし、彼らにその認識はない。それどころか、彼ら自身はまだ戦う意志に満ちあふれているのです。
 美しく思われた人々の感情は常に悲しく、重んじた伝統は弱者達の叫びの中に消え失せる。戦いにおける勝者は、歴史の中で衰退という終止符を打たなければならず、若き息吹は敗者の中より培われていく」

「トレーズ、何が言いたい?」
 デルマイユ公の瞳に剣呑な光がこもる。しかし、その問いに対するトレーズの答はただ一言だった。
「私は、敗者になりたい」
 満場にどよめきが走る。デルマイユ公は、この生意気な若造を怒鳴りつけたい衝動をかろうじて抑え、言葉を紡ぎ出す。
「では、ロームフェラ財団の本部がお前の手から、OZを没収した方がよいということだな? 
 我々に、血なまぐさいことはできん。今までのお前の功績もある。お前を、ロームフェラ財団本部に幽閉する!」
 トレーズは衛兵に先導されて議場をあとにする。
「戦うことを忘れ着飾った銃では、例え敵の胸板を打ち抜いたとしても私に感動を与えない。無垢な者は無軌道なのではない。自由なのだ。心が」



 宇宙要塞バルジ司令室。レディ・アン上級特佐は、ツバロフ技師長率いる戦闘部隊に包囲されていた。
「レディ・アン嬢。トレーズはその地位を追われました。貴女はOZには不要な人間なのです。ここで消えていただきましょう」
 ツバロフの言葉に、レディ・アンはせせら笑う。
「フフッ。トレーズ様が貴様らを嫌う気持ちがわかってきたように思う」
「なんと!?」
「トレーズ様は人を愛された。そして人の死も愛された。死は人の感情に強烈に訴えるものがある。死者が与える感情。戦うことに対する肯定と否定。高ぶる感情は、極論の選択へと導く。死を迎え入れることこそ、戦士の正しき姿なのだ」
「それは、弱者の考えではありませんか? 負けることを考えての戦争参加など有り得ん」
「勝敗などどうでも良いことなのだ。戦い続けることで感情は洗練されてゆく。いつの日か失った魂が報われる日も来よう」
「私には理解のできないことですな」
「だから敵となるのだ。お前と私は! OZでの過ちは、死に値する過去であった。さあ、撃て! ツバロフ! おのれを肯定するために!」
 ツバロフの合図で、兵士達の銃口が一斉にレディ・アンに向けられる。
「レディ・アン嬢。貴女は甘すぎた」
「兵士としてはな。しかし人間として厳しく生きたつもりだ!」
 兵士達の銃口が火を噴こうとした瞬間、凄まじい衝撃波が兵士もろともツバロフを吹き飛ばす!
「甘すぎるのは手前だろうがよ。手駒の中に俺が紛れ込んでることにも気づかねえとはな!」
「お前は一体?」
 目を見張るレディ・アンに向かって、その男、国際警察機構九大天王の一人『神行太保の戴宗』は、男臭い笑みを浮かべる。
「大塚長官の手の者です。大塚長官は、トレーズ閣下を支持するロームフェラ財団の幹部連中を引き連れて、北米の旧グラドスタワーに移られました。北米には、トレーズ閣下を支持するOZの軍団が続々と集まってます。…ようやく帝国を追い出せたってのに馬鹿な話だが、内戦がおっぱじまりますぜ」
 大塚は、帝国を撃退した後は、旧連邦的民主主義政体への移行を訴え、財団内部からも多くの賛同者を得ていたが、この活動は貴族政治の復活を意図するデルマイユ公らには、容認できるものではなかったのだ。
 トレーズを幽閉したデルマイユ公は、時間を無駄にしなかった。彼はトレーズの息のかかった部隊や財団幹部を、一斉に拘束しようとしたが、その動きは、国際警察機構の諜報網を駆使する大塚長官によって事前に察知されていた。
 大塚はカラバの支持を取り付け、北米大陸を本拠としてOZトレーズ派の旗揚げを行い、トレーズ奪還、民主政治実現のための軍を起こした。OZ分裂による内乱の時代の到来である。
 戴宗からおおまかな情勢の説明を聞いたレディ・アンは、配下の兵達を呼んでツバロフ一味を拘束するよう指示すると、眼鏡を外して宇宙空間を見つめる。
(愛くるしさなのですね。全てを狂わせたのは。純粋な心が、答の見えぬ世界で苦しんでいる。その姿を愛しく思った者達は、おのれの無力さに焦り、いらだち、押しつぶされてしまう。でもけなげな者達よ。輝き続けてください。そしてこれからも、愛させてください)

次回予告
 三年間にわたり地球圏を支配したムゲ・ゾルバドス帝国は、その本拠地、ムゲ宇宙に去った。やっと勝ち取った人類の勝利。しかしOZの分裂により、平和の祈りははかなくも踏みにじられてしまう。
 地球圏を覆う戦雲。人類対人類、有史以前から繰り返されてきた血で血を洗う戦い。OZとOZが、OZとカラバが激突し、ネオジオンが大攻勢に出る中、戦禍に踏みにじられる者達の涙が、北欧の地に聖なる王国をよみがえらせる。
 次回War in the Eaeth、『OZ分裂』

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