《小惑星帯・銀河帝国軍アステロイド要塞》 「……以上の結果から、地球人が南米大陸のクスコ周辺で、大規模な軍事行動に出ることは確実と思われます。しかしながら、彼らの切り札とされる『グラドスの刻印』なる物の実体は不明のままです。入手済みのムゲ・ゾルバドス軍のデータにも、該当する物はありません」 銀河帝国軍諜報長官のサグールは、部下の報告を一読して眉をひそめた。 「ふむ。古代遺跡に眠っていたというなら新兵器ではあるまい。そんな物をグラドスの連中が持っていたのなら、とうに我々に対して使っているはずだからな」 サグールは、地球軍の部隊配置を示す兵棋版の数値に目を向ける。 「ともあれ、奴らの戦力が一カ所に集結しているのは好都合だ。これを叩き潰せば、奴らは二度と立てなくなる。裏切り者のマーズを使うまでもない。地球と地球人は、この戦いで宇宙から消え失せるだろう」 サグールは陰惨な笑みを浮かべ、ワール司令官の待つ艦隊司令部に報告書を送った。 ◇ 「皆さんに、まずお話ししなくてはならないことがあります」 クスコの聖女、アルバトロ・ミル・ジュリア・アスカは、集まったグラナダ条約機構首脳部に向かって、グラドスに伝わる古い言い伝えについて語った。 グラドス星人は、太古の昔地球人と源を同じくする種族であった。母なる星から地球へ入植した彼らは、子孫達が外宇宙からの暴威に晒される可能性を憂えた。そこで彼らは、子孫を守るために最強の盾を用意した。 空間を遮断し、ワープによる跳躍すら妨げるバリヤー発生装置。それがグラドスの刻印の正体だった。 「本来であれば、このような物は使うべきではありません。外宇宙に羽ばたくことを恐れ、内に閉じこもるばかりでは人類に未来はないのですから。しかし、今はそれを言うべき時ではありません。私たちの共通の故郷であるこの星を守るためにも、地球人に絶望的な戦いをさせないためにも、刻印の発動は不可欠なのです」 ジュリアの説明が終わったところで、ブライト特佐が挙手した。 「よろしいか? 確かに刻印は強力だ。しかしこれを今使っても、既に手遅れなのではないか? 銀河帝国軍は既に相当規模の戦力を地球圏に送り込んでいる。確かに増援を送り込まれることはなくなるだろうが、今いる艦隊だけでも、我々を全滅させておつりが来る。その点について説明をいただきたい」 ブライトの言葉に、レディ・アン特佐が立ち上がった。 「その点については私から説明しよう。グラドスの刻印は、発動後バリアを展開しながら太陽系を脱し、海王星軌道の外側で星系全体を覆うバリアを展開させる。 刻印は増援を阻むのみならず敵の糧道を断ち、退路を断つ。それによって起こるだろう敵軍の士気崩壊こそが最大の目的だ。既にデューク・フリードから、ベガ星軍との交渉を行いたい旨の申し出が出ている」 オブザーバーとして参加していたデュークが立ち上がって一礼する。 彼はこの作戦中に、被撃墜を装って部隊を離れ、後方で再編成中のベガ星艦隊へ単身潜入することになっている。 恐怖によって人々を縛る銀河帝国は、お世辞にも一枚岩とは言えない。増援が望めない状況でベガ星が背けば、帝国軍の士気は落ちるところまで落ちるだろう。 レディ・アンの説明に、ブライトが納得して席に着く。 最後に、トレーズが口を開いき、会議を締めくくる。 「この戦いに勝たねば、我々に未来はない。今の私達は敗者だ。しかし私達は戦う意志に満ちあふれている。銀河帝国に教えて差し上げよう。戦いにおける勝者は、歴史の中で衰退という終止符を打たなければならず、若き息吹は敗者の中より培われていくということを」 ◇ カラバのレイ・タケダはブレックス准将の机を力任せに叩きながら熱弁を振るっていた。 「ブレックスのおっさん!! 頼みがあんだ!! この刻印をめぐる戦いを、世界中の皆に見せてやりたいんだ! だから、この喧嘩をを放送する許可をくれ!! 世界中の皆に一緒に戦ってもらいてえんだよ!! 知って欲しいんだよ!! 『まだ俺達の戦いは終わってない!』って!」 ブレックスは、顔面に大量に付着したレイのつばを拭き取りながら口を開いた。 「いいだろう。ただし機動兵器に民間人のスタッフを乗せることはできん。各機の撮影した画像を編集し、後日特別番組として放映することにする。それで良いな」 本当は生中継をしたかったレイだったが、流石にできることとできないことがある。不承不承引き下がるしかなかった。 ・ ・ |
『クスコ絶対防衛戦』 |
全作戦 |
《大気圏外・衛星軌道上》 迫る銀河帝国軍を迎撃し、グラドスの刻印発動までの時間を稼ぐことを目的としたグラナダ条約機構軍の作戦は、漸減作戦を基本としていた。 第一陣である宇宙艦隊。彼らの任務はクスコへ降下しようとする銀河帝国艦隊の妨害である。 大気圏への突入は、非常にデリケートな作業である。突入角がわずかにずれても、大気に阻まれたり全然違う場所に落ちたりしかねない。当然、突入可能なポイントは有限であり、そこを効率的に利用可能な時間も限られることになる。そこを妨害すれば、第二陣以下が一度に相手にせねばならない敵の数は減少する。 「総帥閣下。敵艦隊捕捉しました。総数、約三万。我が方の十倍の戦力です」 参謀の報告に、キャスバルは無言で頷いた。 「射程に入り次第、ありったけの核ミサイルを斉射しろ。敵もおそらく似たような兵器を使ってくるだろう。ニュータイプ部隊に準備をさせておけ」 この戦争に南極条約の縛りは存在しない。敵艦隊に向け数千発の火箭が放たれると、その数倍の返礼が艦隊に襲いかかる。 「いっっけぇっっ! ファンネル達!」 クェス・パラヤの思念波に操られ、ファンネルは次々にベガトロン核ミサイルを撃墜する。 ニュータイプには、ミサイルに込められた悪意が明確に認識できる。外すはずがなかった。 ミサイルの応酬の後は一斉砲撃に続いて機動兵器が相打つ乱戦となる。 「ぞろぞろと出てくる。無駄弾は撃てないな……一機でも多く敵を倒す!」 セレインは、初めて見る機動兵器にミサイルを撃ち込む。しかしその機動兵器、ギャンドーラの目前でミサイルは大きく軌道を変え、虚空へと飛び去った。 「……超能力か。厄介な」 ヴァルキュリア・ソードでギャンドーラを両断しながら、セレインはぼそりとつぶやいた。 ◇ その高い機動兵器運用能力を活かし、最前線で傷付いた機動兵器の修理・補給を行っているのだ。 随伴する防空巡型クラップ、『アトランタ』『ダイドー』『クリーブランド』が猛烈な弾幕で敵機動兵器の接近を阻む。 「……ロバート。苦労しているようだな。手を貸そうか?」 通信画面に現れたのは、RED・CROSS艦隊司令、シンディ・ヤマザキだった。彼女の艦隊はグワンザン級戦艦3隻、『ゲーベン』『モルトケ』『マッケンゼン』を随伴しており、打撃力でロバートの艦隊に勝る分対空火力に劣る。 現在彼女の艦隊は、ロバートの艦隊の直ぐ後方まで接近していた。 「助かりますね。貴女の顔が天女に見えますよ」 くつくつと笑うロバートに、シンディは憮然とした顔を見せる。 「こんな時にまで女性に冗談を言うのだな、貴官は。まあいい。我々が連携すれば、局地的優勢が作り出せよう。そっちに着艦しきれない機体は私の艦で引き受けるからな」 ロバートも、伊達や酔狂でこんな任務に就いているのではない。この機に乗じて、他陣営の機体のデータを収集することも目的の一つだ。シンディもまた自分と同じ事を考えていることに気付き、ロバートはまたくつくつと笑う。 「わかりました。頼りにしていますよ。シンディ少佐」 ◇ ヴァイス・スティルザードの号令一下、三機の武機覇拳流機体は三角編隊を組んで、侵攻する敵艦隊の中央に殴り込みをかけた。敵の注意を引きつけ、味方艦隊を守るのが目的だ。戦果は二の次といえる。 「バルジの主砲発射までの時間を稼げれば!」 女性的なラインを持つキンナラの操縦者、キサキが叫べば、ログレスが冷静に分析する。 「……ヴァイス。ゼロが教えてくれた。10時方向の敵艦、奴を下がらせなくては地上でバカにならない被害が出る」 ログレスの指し示した方向には、巨大な揚陸強襲艦の姿があった。おそらく機械化歩兵を満載しているこの艦の突入を許せば、クスコは危機的状況に陥るだろう。 ヴァイス達三機が敵艦隊を攪乱している間に、発射態勢を整えたバルジ砲が揚陸艦を原子の塵に変える。その直後…… 「ヴァイス! ログレス! 8時の方向に揚陸艦!」 悲鳴にも似たキサキの声が通信機から迸る。 彼女の指し示す方向には、数隻の揚陸艦が今にも大気圏に突入しようとしていた。急ぎ阻止せんと艦隊に向かう三機は、しかし直援の円盤獣部隊に阻まれた。 「邪魔だ! どけいっ!」 衆寡敵せず、ログレスとキサキが相次いで戦線離脱を余儀なくされる。 次の瞬間、悠々と大気圏に突入しようとした艦隊を、凶暴なエネルギー流が貫き爆散させる。 「ブリューナク突撃! 敵機動兵器を殲滅してヴァイス達を救出する!」 イオン砲を放ったキング・ビアル2世の艦橋に仁王立ちしたエミィ・ユイセリアの命令一下、サイシェス・ビュー、ゲンジ・カタギリ、ブッフバルト・エンテンバーク、ユキ・タチバナら、ブリューナク隊が円盤獣群に襲いかかる。 エミィが母艦の指揮を執っているため、定位置の先陣はもっとも強力なゲッターロボEを駆るユキ・タチバナが務めている。 激戦の結果、敵の殲滅と友軍機の救出に成功した彼らがヴァイス達三機を母艦に収容している時、エミィは美しい顔をゆがめて眼下に広がる青い円盤を見る。スクリーンには、無数の銀河帝国艦隊が大気圏に突入していく光景が映し出されていた。 ◇ しかし万を超す艦隊が突入したとはいえ軌道上にはそれ以上の無傷の敵艦隊が残存しており、彼らの地獄はまだ終わりそうもなかった。 ◇ 漸減作戦の第二段階である防空作戦は、第一陣と違い純粋に敵兵力の削減を目的としている。 最優先で狙うべき目標は、刻印の眠る遺跡にとって直接の脅威となりうる揚陸艦である。 機動兵器では拠点を破壊することはできても占領することはできない。しかし歩兵の接近を許せば、拠点の命運は風前の灯火となるのだから。 しかし彼らが頭上から迫る艦隊と矛を交える前に、銀河帝国艦隊に小さな追撃者が食らいついた。 「MACSSカット。さあ『影』よ、貴様の真価を見せてみろ!」 「三十路越えた女は、タフなのよッ!」 ビームシールド片手に無理矢理大気圏に突入したレナ・ウォーカーと、ガタの来た機体を酷使してオペレーションメテオの真似事をしたガーネット・マリオンである。 「レナ! 軸線を合わせなさい!」 「やっている! 貴様こそタイミングを合わせろよ!」 二機のガンダムがはぐれもせずにここまで来れたのは、ほとんど奇跡だった。狙うは、目の前ででかい尻を晒しているギシンの揚陸艦! 「灰は灰に、塵は塵に。貴様等の母星へ帰れ侵略者<インベーダー>! V.S.B.R.う・け・て・み・ろー!」 「でぇぇいやぁぁーーッ!! 急制動キャンセルバスターライフルッ!」 機動兵器の兵装としては最強級の光槍に貫かれて爆散する揚陸艦。しかしさしものガンダムも、機体は既に限界だった。 機体の揚力に助けられ、かろうじてガーネット機は要塞島に収容されたが、レナ機は既にそれだけの燃料すらも残ってはいなかった。眼下には南米の大地。 「……綺麗だな。なあ、ガンダム。君はどこに落ちたい?」 数分後、クスコ近郊を流れるアプリマク河に巨大な水柱が上がった。 ◇ やがて伝声管から連絡が入る。 「シルヴィア卿、ロバート卿より入電。一次防衛線を突破した敵軍の第一陣、2分で我が軍の索敵範囲に入ります!」 「承った。…総員騎乗! 敵軍はロバートやシンディ達の作戦で縦列になって大気圏に突入してきているはず。私達AB隊は、手筈通り各隊長の指揮の下、突入してくる縦隊を両翼から取り付く形で消耗させる! 特に母艦レベルを狙い、ABの機動性で撹乱させてやるわ。指揮下のAB各機へ! 奴等は図体はデカいが、一次防衛線の奮戦と大気圏突入で相当のダメージを負っている。窒素75%・酸素23%・その他アルゴン、水蒸気、炭酸ガスで構成された1Gの戦場では一日の長があることを奴等に教えてやれ!」 騎士達は雄叫びを上げ、次々にボテューンやカットグラUに乗り込む。 シルヴィアは愛機の持つ漆黒の槍に目をやった。カ・オス・スピア。かつてバイストンウェルを襲った巨人が手にした漆黒の魔槍。長年シーラ女王の傍らで戦い抜いたシルヴィアに、女王が近衛部隊と共に授けた武器。 カットグラUに乗り込んだシルヴィアは無線機に向かって叫ぶ。 「シーラ陛下にお伝えしてくれ! この戦い、陛下のご恩のためにも生きて勝利を掴みますと! 全機出撃準備! シルヴィア・ランカスター、カットグラU出撃する!」 飛び立つシルヴィアを艦橋から見送ったシーラは、全艦隊に通達を送る。 「悪しきオーラ力が迫っています。この大地から人の営みが消えれば、バイストンウェルとてただでは済みません。戦士達よ。よきオーラ力の導きのままに、悪しき者達を打ち払って下さい!」 女王シーラ・ラパーナの座乗するオーラバトルシップ、グラン・ガランと、随伴する多数のオーラシップから燐光を引いてオーラバトラーが発艦する。 少し離れた空域でも、かつてクラン・ガランと死線を交えたウィル・ウィプスの艦隊が同じようにオーラバトラーを発艦させている。 ウィルの艦橋で指揮を執るリムル女王は、眼下で直援につく想い人の艦、ゼラーナをいとおしげに眺めてから、毅然として騎士達に号令する。 「誇り高きアとクの騎士達よ! 今こそ私達の誇りを天下に示す時です! 機械仕掛けの強獣どもに、騎士の武勇を存分に見せつけるのです!」 バイストンウェル軍でも屈指の巨艦、ウィル・ウィプス。しかしそのウィルをも凌ぐ巨大な影が、ウィルの間近に浮上する。 かつて百鬼帝国が地球侵略の切り札として建造し、それを接収したカラバによって完成した百鬼科学要塞島、通称鬼ヶ島である。 かつて熱帯雨林で覆われていた表面は、黒光りする超合金複合装甲によって覆われ、無数のナバロン砲塔が獲物を求めて天に向け屹立している。 随伴するネェル・アーガマの艦橋で、ヒロヤ・ナナキは鬼ヶ島の勇姿に感嘆の声を上げる。 「何ともでっかいさ。こりゃ頼もしいさ、この要塞を抜くのは、いくら銀河帝国でも簡単じゃないと思うさ!」 艦長席のシートにあぐらをかくロジャー・ウィルダネスは、ヒロヤの感動に同意するでもなく、別の物を見ていた。 白昼であるにもかかわらず遙か頭上で煌めく光芒…第一次防衛線の死闘である。やがて彼のインカムに衛星軌道上からのレーザー通信が入る。 「ロジャー司令。衛星ミサイルは、所定の効果を上げたです。敵揚陸艦2、護衛艦5を撃沈、艦種不明5隻に損傷を与え、大気圏突入を断念させたです」 第一次防衛線のシホ・キサラギからの通信に、ロジャーは眉をしかめる。 (思ったよりも敵に与えた損害が少ないな。なにぶん準備不足、予算不足と言うことか) 「ご苦労だった、シホ。後はこっちに任せて、上の掃除をよろしく頼む」 「了解です。手当たり次第殺しちゃうです♪」 ロジャーは、気を取り直して麾下の艦隊へ向けて通信回線を開く。 「諸君、これは人類の生存競争である。ここで我らが負ければ次は名の知れぬ人々が虐殺される番だ。全員、名の知れぬ人々の幸せのために死ね!」 カラバ艦隊から、続々と巨大なスーパーロボット部隊が出撃を開始する。 それに答えるが如く、上空からは猛速で銀河帝国艦隊が殺到しつつあった。 ◇ サブフライトシステム(以下SFS)上に仁王立ちしたイム・パラムホークからエアロファンネルが放たれ、十字砲火を浴びたミディフォーが火球に変わる。 単独飛行能力を持たない機動兵器には、このSFSが支給されており、アユム・ハマサキやアリエル・マーキュリーが、慣れない空中戦に戸惑いながらも、上空の敵に向けて銃撃を繰り返している。 とにかく敵の数はとんでもなく多いので、いくら下手でも撃てば当たる。しかしその返礼もまた桁外れであり、土砂降りのような十字砲火に撃たれてグラナダ機構軍のの機動兵器が次々に爆散する。 「あ、アリエル! 畜生! でも敵は殺さないようにしなくちゃ…うわっ!」 ナッシュ・ヴォルネットのガザもまた、降下してきた円盤獣ゴルゴルに捕まって八つ裂きにされる。 しかしその円盤獣もまた、急上昇してきた巨大な翼に両断されて爆散する。 「人類の作った、最低最悪の遺産だ……くらいやがれぇぇっ!」 ユウキ・エイガは、まだ味方と交戦していない艦隊めがけて核弾頭付きのマイクロミサイルを斉射、大空に大輪の花を咲かせた。 鉄と炎の凄惨な血宴は、高度を大幅に下げて青空を深紅に染めつつあった。 ◇ カラバのガンダムファイター、シキ・タカスナは、赤茶けた山肌で円盤獣ガメガメと対峙していた。 「これが、あたしとヤマトガンダムの力だ! しゃぁぁくねつ!サンシャインフィンガー!」 右手を輝かせて円盤獣に迫るヤマトガンダム。しかし円盤獣は、ひょいと身をかわし、シキは勢い余ってつんのめり、べしゃっと転んでしまった。顔面直撃。モビルトレースシステムでファイターは機体とリンクしているため、かなり、その、痛い。 「ふええ、痛いよぅ」 「…ねえ、お嬢ちゃん、何やってるの?」 シキの顔の直ぐ側から声がする。驚いたシキが顔を上げると、目の前に身長10センチほどの天女がふよふよと浮いていた。 「何よあんた! どこから入ったのよ!? 何者なの!?」 「わたし? わたしはガンダルヴァ。でもそんなこと気にしてる場合じゃないと思うんだけどなぁ」 のほほんとしたガンダルヴァの態度に、神経を逆なでされたシキがくってかかる。 「何よ! あたしが何気にしようが勝手でしょう!?」 「ほらほら、そんなこと言ってると……」 凄まじい衝撃と共にヤマトガンダムの機体がはねとばされ、木々をなぎ倒しながら山肌へ叩きつけられる。 「……こうなっちゃう訳なのよ。わかったかな?」 「う、うるさいわね。わかったわよ。わかったからどっかに消えて!」 必死に機体を立ち上がらせようとするシキ。しかし深刻なダメージを負ったガンダムは、身じろぎするばかりで一向に立ち上がることができない。そしてそんな彼女にとどめを刺すべく、円盤獣が突進を開始する。 「やれやれ、しょうがないわねぇ。今度だけは手助けしてあげるわ」 天女の姿が忽然と消えた瞬間、円盤獣の体に無数の連撃が叩き込まれ、円盤獣の巨体が宙を舞う。 土煙が晴れると、そこには女性的なラインを持つ優美な機動兵器が、蹴りを繰り出した姿のまま立っていた。 「八の天竜が一角、闥婆王ガンダルヴァ。ここで適格者候補殺されると困っちゃうの。悪いけど消えてね♪」 ガンダルヴァは、ヴァイローズ同様蹴り技を得意とするらしく、戦斧の一撃のような踵落としを受けた円盤獣の頭部が剛体にめり込み、次の瞬間爆散する。 「さてっと」 ガンダルヴァは腰に手を当て、シキの方へ向き直る。 「適格者のお嬢さん。貴女、私の生体中枢として一緒に戦ってくれる気、有る?」 シキはごくりとつばを飲み込む。彼女とて八の天竜の噂は聞いている。舞踏王ナタラージャこと、スーパー・アースゲインに従う神の如きスーパーロボット。 「あ、あたしでよければ……」 「良い答えね。じゃ、早速だけど乗り込んでみてくれる?」 シキは、大破したヤマトガンダムから這いだし、ガンダルヴァの操手槽に潜り込む。 「じゃあシキ、起動するわよ。きつかったら言ってね」 シキが頷いた瞬間、シキの体から膨大なブラーナが吸い取られる。 「……か……は!」 ブラーナとはすなわち生命の力。ガンダルヴァが緊急停止するのがあとわずか遅れれば、彼女の命はなくなっていただろう。 「まいったな。教令輪身にも耐えられないなんて。……シキ、貴女修行が足りないわよ?」 ガンダルヴァが言うには、八の天竜の核となる生体中枢は、本体である機体と共に作り出された兵器であって、地球人とは似て非なる物だそうだ。 地球人は本来の生体中枢と比べてブラーナの量が大幅に少ないため、膨大なブラーナを必要とする八の天竜を完全駆動させるには、相当の修練が必要となる。 「じゃあ、あたしじゃダメなの?」 「そんなことはないわ。機体のパワーを絞れば、貴女でも私を動かすことはできると思う」 八の天竜には、完全戦闘モードである『自性輪身』の他、限定戦闘モードの『教令輪身』、待機・警戒モードの『正法輪身』の、三つの形態がある。 ちなみにガンダルヴァの場合、自性輪身では『闥婆王ガンダルヴァ』、教令輪身では『ガンダルヴァ』、正法輪身では『ガンダルヴァ・法』となる。 「正法輪身でも、それなりに戦うことはできるわ。心配しなくても、貴女が修行を積んで有る程度強くなれば、私の方で教令輪身に転身してあげるから。だからそれまで死なないように頑張ること。良いわね?」 「……ふぇぇぇい」 八の天竜への道は、随分遠そうだった。 ◇ シキ達がいる場所から少し離れた山の中で、ゲンノジョウ・カンナギは、新たな相棒である修羅王アスラにくってかかった。 ゲンノジョウは、生臭坊主でこそあれそれなりの修行を積んでいる。戦場での働きも、操縦技術も、マホーラガの生体中枢であるシンサク・タケミカヅチと比べて遜色ない。 「我は八の天竜が筆頭、修羅王なるぞ? 最強の力があるからこそ筆頭。力が大きければ、必要なブラーナもまた多い。簡単な理屈であろうが?」 「な、納得いかぁぁん!!」 さっさと正法輪身に転身したアスラの操手槽で、ゲンノジョウの絶叫がこだましていた。 ◇ 「嬢ちゃん! 5番のシャッターが開いていない! 攻撃を受けている! 早く解放してくれ!」 「今開ける、わ。10秒、持ちこたえて」 遺跡内部は、完全武装の歩兵部隊による激しい攻撃を受けていた。攻撃を仕掛けてきたのは、銀河帝国の陸戦部隊ではなかった。 彼らと同じ地球人……全てに絶望し、道連れを求めて凶行に走る終末主義者達だった。 「くそっ! ハンス! そいつは死んでる! 置いて行け! ジャン! 11時にグレネード、20で投げろ!」 イン・バックスタッバーは、内蔵のはみ出た戦友を担ごうとする部下に向け怒鳴る。 技術者に化け、潜入しようとするテロリストどもを発見したまではよかったのだが、遺跡の守備に就いていたはずのOZ歩兵部隊までが彼らのシンパだったのはちょっとした誤算だった。 後方のシャッターが開くと、インの部隊は相互支援を行いながら後退する。 「反撃しつつ階段まで後退する! まったく、完全武装の平和団体とは恐れ入るぜ」 リリーナ・ピースクラフトの唱える完全平和主義は、このようなテロを容認する物ではない。しかしその信奉者一人一人が、リリーナと同じ価値観を完全に共有しているわけではない。……どの箱にも腐った林檎はある。つまりはそう言うことだ。 「イン……今のところ揚陸艦の接近は、完封できている、わ。Esperanza陸戦隊の増援も、もうすぐ到着する……あと少し、持ちこたえて」 増援の到着によって挟撃され、進退窮まったテロリスト達が自爆して果てた時、インの部隊で戦闘力を残していたのは、一個分隊にも満たない人数だった。 「レオニダスになりそこなっちまったな」 インは、硝煙とドロで真っ黒になった顔をゆがめた。 ◇ 「見えてきたのう。さて、この戦力でどう凌ぐかな?」 神北平左ヱ門は、水平線上に見えてきた閃光と爆炎を眺めて一人ごちる。 深海に潜み、人類をあざ笑っていたバンドックだったが、予想だにしない伏兵によって海底からたたき出される羽目になった。 ミケーネが誇る七つの軍団の一つ、魔魚将軍アンゴラス率いる魔魚軍団である。 深海の水圧を物ともしない戦闘獣の強襲を受けたバンドックは、海面に浮上後、怪鳥軍団、大昆虫軍団、悪霊軍団の集中攻撃を受けることになった。 マリアナ沖の戦いでバンドックの所在を知った暗黒大将軍は、敵の分力を総力で討つという、合理的な作戦を採用したのだ。 一方のバンドックは、麾下のガイゾック艦隊を地球全土に分散させてしまっていた。彼らが生き延びる道はただ一つ。搭載しているメカブースト部隊が持ち堪えている間に、クスコに迫る銀河帝国軍の本隊と合流するしかない。 こうしてバンドックは、大破寸前に追い込まれながらも、クスコに近いペルー沿岸までたどり着き……グラナダ条約機構軍が配備した防衛部隊と接触することになる。 「人間爆弾ね……今度は逃すわけには行かんな。しかし正面から突っ込んでもな……。そうか、二虎競食の計。うまいこと立ち回って、ミケーネとガイゾックがやりあうように仕向けてみるか」 マサキ・オニガミは、読み終えた命令書を書類入れに放り込み、軽いストレッチを行う。 「ケッ! 良い子ちゃんな連中が考えそうなことだ。お偉方が仲良しだと下っ端はつまらねえんだよ。もっと真面目に殺し合って欲しいぜ」 歴戦の狂戦士、カナメ・ジェダがうそぶくのを、ガル・シュテンドウが窘める。 「殺し合いならこれからできるさ。嫌と言うほどな。『鮮血の月』発動まで時間がないぞ。さっさと配置に付け」 鮮血の月……スィームルグ・ザンボット・キングビアルを主砲を集中して打ち込める位置に隠蔽、一般兵によりバンドックを誘導および指定位置へのひきつけを行う作戦である。 「俺達はみんな、たっぷりと鮮血にまみれることになる。だが、この月夜を越えて朝日を拝むのは俺達だ」 悲壮な面持ちでブリーフィングルームに入ってきたウィルト・ルーンも、ガルの言葉に無言で頷く。 激しい戦闘の結果、大破炎上したバンドックはクスコへの進撃を断念し、無謀な重力下でのワープ航法を行うことで、かろうじて虎口を逃れたのだった。 ◇ 長い車列が行く。 住み慣れた家を追われ、わずかばかりの手回り品のみを持って、トラックの荷台で揺られる人々……戦場となるクスコの街から逃れてきた難民達である。 トラックの周囲には、十数機の機動兵器が警戒に当たっていた。 「避難民を守ること・・・。それが私の務め・・・」 カガリ・ジェファーソンは、ボロットのハンドルを掌が白くなるほど力を込めて握りしめる。 周囲を行く機動兵器も、どこか動きがぎこちない。部隊のほとんどの兵員は、この作戦が初陣である。緊張するなという方が酷だ。 「初めての実戦……でも、同型の陸戦型ガンダム乗りの連中よりはやれるはずだ!」 鼻息の荒いハルト・アマダ。彼の根拠のない自信が機体に影響したのか、彼の愛機のレーダーが、敵の接近を真っ先に捕らえることに成功した。 「て、敵機発見! おそらくは車両……戦車だ!」 ガイゾックの無人兵器であるベルタータンク部隊の接近を知ったハルトが絶叫する。 「相手が戦車なら……」 アルエス・ゼフィールは、接近する戦車の薄い上面装甲にキャノン砲の照準を合わせ、力任せにトリガーを引いた。 正面切っての戦闘で、戦車は人型機動兵器の敵ではない。護衛部隊の猛反撃で数を減らしたベルタータンクは、非常識にも寄り集まって合体し、巨大なメカブースト、トランシッドへと姿を変える。 「な、なんて非常識な奴なんですの!?」 「いいじゃん。特ダネだよ? さ、格好良く片づけるシーンも撮影しちゃおう!」 唖然とするキャロライン・スチュアートと、こんな時でも乗りの軽いフーガ・コダマ。 どう考えてもそりの合いそうにない二人だが、ビットガンを発砲するタイミングはなぜかぴったり息が合っていた。 戦いは、戦力の過半を喪失したガイゾックの撤退により幕を閉じる。機構軍は、戦闘開始と同時にカガリが避難民を的確に誘導したこともあり、ほとんど被害を出すことなくガイゾックを撃退することに成功したのだった。 ◇ ジュリアが最後のパネルに手を触れると、遺跡全体が地震のような揺れに襲われる。 古代グラドス人が、子孫を守るために建造した巨大なバリア発生装置は今、ゆっくりとその巨体を浮上させつつあった。 「姉さんをやらせはしない……レイ、V−MAX発動!」 「レディ!」 刻印に群がる銀河帝国軍を、V−MAXで蹴散らすエイジ。それを見て、D−ドール部隊も一斉にV−MAXを発動させて刻印の周囲を蒼い閃光で覆い尽くした。 「奴らを刻印に近寄らせてはならん。……ドモン、あれをやるぞ!」 「はい! 師匠!」 東方不敗の超級覇王電影弾が、ミディフォーの大編隊をまとめて爆散させ、ゼロシステムに導かれたヒイロのガンダム・エピオンが、赤い死の舞を舞う。 もっとも危険な浮上直後を友軍機の支援でのりきり、大気圏を脱出した刻印は、大加速を開始して全ての敵味方を振り切る。 遺跡に一人残ったジュリアは、満足げに目を閉じた。 「これで良い……人類は救われる。でも、これは銀河帝国の将兵から故郷と未来を奪うこと……ゲイル、ごめんなさい。私は聖女なんかじゃない……せめてこの罪を抱いて宇宙の果てで眠りに就きましょう」 刻印を操作できる人間は限られている。そして刻印のバリアが発動すれば、その操縦者に、脱出の機会はない。この作戦を提案した時から、ジュリアは贖罪のための死を決意していた。 当然、エイジやゲイルは猛反対したのだが、彼女以外に刻印を扱える人材はおらず、翻意させることはできなかった。 「聖女とて全ての人間を救えるわけではない。その手からこぼれた者達に対し、お前のその態度は、あまりに無責任ではないのか?」 誰もいないはずだった室内に、人影が現れる。ジュリアは、その顔を見て息を呑んだ。 「ル・カイン……貴方がどうしてここに!?」 「どうもこうもない。トレーズに無理を言って乗り込んだまでだ。刻印の操作法は、父グレスコから聞いている。……ここから先は俺が引き受ける。お前は地球へ帰れ」 ル・カインの家系もまた、グラドスの秘儀を伝える系譜であった。 「でも、私は……」 「銀河帝国の奴らを気遣うなど、俺から見れば滑稽の極みだが、それならそれでお前にはやるべき事が有ろう。故郷をなくし、地球に取り残された元侵略者を、お前は見捨てるつもりなのか?」 ル・カインの言葉が、ジュリアの心を打ちのめす。 「……私に、何をしろというのですか?」 「知らん。それはお前の決めることだ」 ル・カインは素っ気なく答え、そのまま階下への道を指し示す。 「ここに残るのは俺一人で良い。下のフロアにザカールが置いてある。くれてやるからそれに乗ってさっさと地球に帰るのだな」 「ル・カイン……なぜ地球人の敵だった貴方が、地球人のために命を……」 ル・カインは自虐的な笑みを浮かべる。 「地球人どものことなど知らん。優れた者によるより良き指導 それに従う無垢なる従順。奴らは、教え導こうとした俺の手を振り払った。ならば俺に奴らを助ける義務など無い。だが、俺はグラドスの軍人だ。数百年にわたり戦ってきた銀河帝国に痛打を与えられる機会を逃すつもりはない。それだけのことだ」 「うそです! 貴方は……」 ル・カインは、片手を上げてジュリアの言葉を遮る。 「押し問答をしている時ではない。……地球に帰ったら、気が向いた時にでも祈ってやってくれ。己の父を……手にかけた哀れな男のために」 「……ル・カイン。約束します」 ジュリアはそのまま、ザカールを駆って刻印から飛び立つ。 赤い光が十分に遠ざかったのを確認したル・カインは、制御パネルに最後の命令を打ち込む。 「……ジュリア、ロアン、そしてエイジ。お前達のあがき、天空の果てから見物させてもらうぞ」 漆黒の闇に白光が迸り、世界は閉ざされた…… ▼作戦後通達 1:刻印発動後、銀河帝国軍は体勢を立て直すため、アステロイド要塞へと一時兵を引きました。グラナダ条約機構は、この戦いの勝利を宣言しました。 2:ジュリアは、無事地球にたどり着くことができました。 3:この戦闘の模様を撮影した報道特別番組は放映されましたが、特に反響はありませんでした。 4:以下の者に、剣勲章が授与されます。シンディ・ヤマザキ、ゲンジ・カタギリ、エミィ・ユイセリア、シホ・キサラギ、アキラ・ランバード、ロバート・ラプター、ユキ・タチバナ、アレス・ラングレイ、カイト・キサラギ、ブッフバルト・エンテンバーク、キサキ・リン 5:以下の者に、星勲章が授与されます。シホ・キサラギ、ユキ・タチバナ 6:シキ・タカスナ、ゲンノジョウ・カンナギの両名は、特殊能力『武機覇拳流』の適格者となり、それぞれ『ガンダルヴァ・法』(ランク1)、『アスラ・法』(ランク1)に強制乗り換えとなります。コストは共に受領・小破・中破:2・2・3です。受領コストが残ポイントから差し引かれます。 7:グレンダイザーとデューク・フリードは、未帰還として扱われています。 |
・ ・ ・ 《アステロイドベルト・某所》 「それで……私達にどうせよというのですか?」 ベガ星の女王ルビーナは、そう言って目の前に座すかつての婚約者を見つめた。 「簡単なことだ。僕たちはかつて同盟を結び、銀河帝国の侵略に立ち向かった。僕は再びあるべき関係に立ち返りたいと思っている」 デューク・フリードは、そう言ってグラドスの刻印に関する資料をルビーナに手渡す。 「君たちは、もうベガ星に帰ることはできない。ズールもまたギシン星や、他の植民星から補給を受けることができない。僕たちと組めば、ズールを倒して、第二の故郷で平和に暮らすことができる」 「……ズール陛下の指揮の元、あなた達を撃破して星を奪うこともできるのですよ?」 「ルビーナ、君もわかっているはずだ。ベガ星の部隊は、ベガ星からの増援を受けて十全の状態だ。この状況でズールが、外様であるベガ星に、そんな力を持たせたままにしておくと思うかい?」 ズールのやり方を知るルビーナは、反論に窮する。 彼女にとっても、刻印による兵士達の士気低下は無視できるものではない。それでなくとも、併合の経緯からベガ星の兵は、帝国を良く思わないものが多いのである。 圧倒的な兵力をもってしても、刻印発動を防げなかったことで、帝国の威信は大きく傷つけられてもいる。 「わかりました。それでは、あなた方との交渉開始に同意します」 それは、ルビーナにとっても大きなリスクを伴う決断であった。この交渉が露見すれば、間違いなく彼女と部下達の命はない。 デュークは、無言で彼女と握手を交わす。ここに至り、地球を巡る未曾有の大戦は、一つの転機を迎えようとしていた。 ◇ 船室の窓から、小さくなっていく青い星を眺めているマーグ。副官のロゼは、彼の前に飲み物を置きながら口を開く。 「嬉しそうですね、マーグ。裏切り者のマーズに会えたのがそれほど嬉しいですか?」 マーグは、くすりと笑ってグラスを口へと運ぶ。 「ああ。倒し甲斐があるよ。……あの6体のメカは予想外だったけどね」 最終防衛線を巡る戦いの中、マーグのガニメデスに追いつめられたタケルは、突如現れた六神メカと合体し、ゴッドマーズの力を持ってマーグを見事撃退したのだ。 しかし、マーグの言葉は大嘘も良いところだった。彼は実の弟であるタケルを心から愛していたし、彼がズール皇帝の目を盗み、タケルのために作り出した六神メカのことも熟知していたのである。 「いいかいロゼ? マーズとあのメカは、必ず僕の手で倒さなくてはいけない。それが皇子である僕の義務なんだから」 (六神メカが目覚めたのなら、早くこのペンダントを渡さないとね) 卓越した超能力で本心を覆い隠しながら、マーグは六神メカの制御用ペンダントを、いかにしてタケルに渡すかを考えていた。 ◇ 巨大な秘密工廠のキャットウォークから、幻夜は三体の巨人を眺めていた。 その背後に、不意に人の気配が出現する。 「……幻夜よ。カラミティ、完成したようだな」 幻夜は口元を歪め、気配の主である隻眼の男の方へ向き直る。 「ええ、ミスターアルベルト。第四のサンプルもまた。これで、大作少年からロボを奪い返す必要はなくなったわけです」 そう言って彼の指し示す先には、深紅に染まったジャイアントロボの魁偉な姿があった。 「ふん! では奴らは放置するのか?」 「とんでもない。こうして三体のGRが揃った以上、彼らのサンプルを発動されるのは困ります。間違いなく始末していただきたい」 幻夜の言葉に、BF団十傑集『衝撃のアルベルト』は呵々大笑する。 「そうでなくてはな。……ロボの所在はつかんである。ならば我ら十傑集の実力、存分に見せつけてやらねばな!」 次の瞬間、二人の姿は忽然と工廠内から消え失せる。残された三体の鉄巨人は、その顔にいかなる表情も浮かべることなく立ちつくしていた。 |
次回予告 |
グラドスの刻印で閉ざされた太陽系。恐怖によって保たれてきたズールの覇権にかげりが見える時、更なる流血と慟哭が地球圏を覆う。
次回War in the Eaeth、『決戦宙域』 |