プレストーリー
 人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、すでに2世紀近く。
 地球の周りには巨大なスペースコロニーが数百機浮かび、人々はこの人工の大地を第二の故郷とし、子を産み、育て、そして死んでいった。
 総人口の8割が宇宙に暮らすようになった、この時代……。
 しかし、地上に残った政府高官や一部の特権階級の者たちは、そのような時代となってもなお、宇宙を地上から統制できると信じていた。その地上のエリートたちと宇宙居住者の意識格差は両者の対立を深め、コロニーでは反政府運動が活発化していく。これに対して、地球連邦政府はコロニーに対する抑圧を高めていった。

 アフターコロニー188年1月3日。地球からもっとも遠いコロニー群サイド3は、ジオン公国を名乗り、地球連邦政府に対して宣戦を布告。ジオンの奇襲作戦により、開戦よりわずか40時間で3つのサイドが壊滅。28億もの人命が失われることとなった。これが後に一年戦争と呼ばれる戦いの始まりであった。

 一年におよんだこの戦いは、総人口の半数を死に至らしめるという、史上類をみない凄惨なものとなった。戦争は国力に勝る地球連邦が巻き返しをはかり、ジオン最後の宇宙要塞ア=バオア=クーは陥落。ジオンの独裁者ザビ家一党は倒れ、ジオンは戦争を継続する力を失った。
 189年1月1日、月において終戦条約が締結され、一年戦争(ジオン独立戦争)は終結。地球圏はようやく平和を取り戻したかに見えた。
 アフターコロニー192年。
 一年戦争の終結から3年が過ぎ、人類はようやくのことで荒廃した地球圏を再建しつつあった。この時代にあっても地上に暮らす、欧州の貴族らを中心とするロームフェラ財団は地上の復興に尽力し、戦前よりも強い影響力を連邦政府に対し発揮しつつあった。その一方で連邦は宇宙居住者に対しては棄民政策ともとれる無関心さを示し、あからさまな地上優先主義を隠そうともしなかった。
 それでも宇宙に基盤をもつ企業やコロニーの有力者たちの主導によって、ようやくのことでコロニー群の再建もはじまり、連邦および連邦軍内部の腐敗、旧ジオン派のゲリラ活動、アースノイドとスペースノイドの根強い対立など、いくつもの問題をはらみつつも、地球圏は戦後の平和を享受し、復興への活気をみせはじめていた。

 しかし……192年3月5日、火星宙域で正体不明の艦隊の接近が観測されたことから、状況は急展開を迎えることになるのである。
 ムゲ=ゾルバドス帝国。
 アフターコロニー192年。突如として現れたその異星人国家によって、地球圏は歴史的な敗北を喫する。レイズナー、獣戦機、コン・バトラー、そして名も無き兵士たちの駆るモビルスーツ……。地球圏を守るために出撃した彼らに対し、帝国軍は圧倒的だった。
 帝国の誇るオゾン層破壊攻撃衛星により、地上の都市部の70%が一瞬にして消失。
 ここに至って、地球連邦政府はムゲ=ゾルバドス帝国に対し降伏を表明。地球は、占領地となった。
 時にアフターコロニー192年6月7日……火星で最初に帝国艦隊が観測されてから、わずか三ヶ月たらずの出来事であった。
 もはや完全に蹂躙されつくした地球圏は、一方的に帝国の行為を受け入れるしかなかった。すでにその機能を失っている連邦政府と、抵抗を止めた連邦軍は解体。生き残っていた政府高官たちはその多くが処刑され、軍の上層部もノベンタ元帥らごくわずかを除き、処刑された。軍のすべての基地や施設は占拠され、兵士たちも次々と武装解除されていった。少しでも抵抗のそぶりのあった士官や兵士たちは、宇宙では一部のコロニーに、地上では各地に仮設された捕虜収容所(とはいえすでにある施設を利用しただけだったが)へと収監され、やがて強制労働へと駆り出されることになる。わずか七日間の間に、地球圏のすべての軍事拠点が制圧され、それは後にもと連邦軍人たちに「屈辱の七日間」と呼ばれることになる。
 しかしそれでもなお、多くの士官や兵士たちが投降をよしとせず、帝国の手を逃れ、地上で、宇宙で、ゲリラ戦を展開した。だが……圧倒的な戦力差、そして、補給不能という状況の前に、それら敗残兵たちは、敗戦後三ヶ月を待たず、瞬く間に鎮圧されていった。
 コロニーでの戦闘が地上ほどには起こらなかったのは、住民たちがコロニーの外壁に穴が開くだけで死が訪れる世界であることを知っているからであり、そして、帝国がまさにそのままの恫喝を行なったためであった。さらに、コロニー間の連絡はすべて帝国を介さなければ行なえなくすることによって、軍事的・情報的に孤立させた。これにより、コロニーでは叛乱も戦闘も、ほとんど起こることがなかった。

 帝国軍とて占領後の地球圏の秩序の回復には、控えめにいっても多大な苦労を強いられた。そのため、占領政策の常道ではあるが、彼らはまず、生き残りの政府関係者や資産家、大企業などを帝国に従わせ、半ば強制的に協力させることによって、支配体制を確立していった。そして、地球人の側でも、それらの人々の多くは、自らの権益を守るために、すぐに率先して帝国に協力しはじめたのである。
 ムゲ=ゾルバドス帝王より地球圏総督を拝命したグレスコ提督は、北アメリカ大陸の旧ニューヤークに拠点を置き、地上の各地の復興作業などを開始した。しかしそれとともに、抵抗派への弾圧は苛烈を極め、血の粛清が次々と行なわれていく。そしてまた文化矯正や技術抑止などについても、精力的に行動していった。それは、地球人たちの心のよりどころである“地球の文化”を破壊し、帝国の文化を受け入れさせることによって、地球を真に帝国の領土となすためのグレスコの政策の一つであったのである。

 地上に破滅の光が降り注いだあの日から、わずか数ヶ月の間に、地球圏はグラドス人グレスコ総督のもと、次々と実施される占領政策によって、もはや地球人類の生活圏ではなく、帝国領の一部となりつつあった。
 帝国は地球人をいくつかのグループに分けた。すなわち、帝国に協力的で、そして有益でもある者達をA級市民、協力的な市民をB級市民、積極的な協力はしないが反抗もしない者たち、つまり一般市民の半数以上がこれに属するが、それをC級市民として、管理した。そして、帝国に対し反抗的、あるいは直接的に反抗する者たちを、不穏分子、あるいは単にゲリラとして、徹底的な弾圧と、粛清を行なっていったのである。
 帝国とのつながりを持ったロームフェラ財団は、その豊富な資金力と人脈を活用し、もっとも広範囲に、そして積極的に帝国に協力した地球人の集まりである。とらえられた反対派が処刑され、反乱者をかくまったと疑われただけで人々が虐殺されている時、財団の貴族やその子弟たちは帝国高官や高級軍人たちをもてなすパーティーまで催していたのである。

 帝国に対する抵抗運動が最も強かった最初の三か月間が過ぎると、今度はもと連邦軍人以外の、民間人たちの反抗が目立ち始める。難民たちの暴動も激しさを増していった。
 だが……世界各地で頻発する戦闘も、戦後1年がすぎる以前に、ほぼ鎮圧されつくしたといっていい。反帝国ゲリラを駆り出す地球人組織“スペシャルズ”が生まれたのは、この頃である。帝国は地下に潜って抵抗を続ける地球人を駆り出すのに、同じ地球人をもちいることにしたのだ。ゲリラ戦ならば、無人機で対応できる。だが潜伏し、活動を続ける者たちを相手にするには、無人機では無理だったからというのが、そのもっとも大きな理由だったのだが、地球人を抑えるのに地球人を使うというその構図を、帝国の高官たちが気に入ったためでもあっただろう。そしてスペシャルズは地球人としての知識を生かし、反帝国運動家やゲリラを次々と駆り出していったのである。
 しかし……ただ無暗に抵抗するだけ、という愚をおかさなかった者たちは、それら帝国軍やまだ規模の小さなスペシャルズの追求を逃れ、地球各地や暗礁宙域に潜伏し、帝国への抵抗活動を続けていた。
 その代表格が、記録上では最後の戦闘で戦死したとされていたブレックス・フォーラ准将らが組織した“地球解放戦線機構”である。彼らは連邦軍人を中核にした反帝国組織で、戦前から確保していた人員と指揮系統、物資を保持しつつ、組織の拡大に務めていた。最初の頃こそ彼らもゲリラ戦を展開していたものの、それがあまりにも希望がないことから、力をたくわえ、時期を待つことにしたのである。この組織の存在は帝国やスペシャルズ側もすでに気付いていたが、巧妙に追求の手を逃れていて、いまだその実体は明らかになっていなかった。
 もう一つは、黒騎士と名乗っていた男が組織した、民間人を中心にした反帝国組織だった。彼は戦時中に結成された義勇兵部隊“黒騎士隊”を母体とし、戦後抵抗活動を行なっていた者たちを帝国のゲリラ狩りから救い、あるいは帝国の弾圧や粛清から人々を救い、その組織に加えていったたのである。しかしそれらの事件は各地のゲリラが起こしたものとされていて、その構築されつつある広域な情報ネットワークの存在すら帝国は気付いていなかった。
 この組織が“カラバ”を自称するようになるのは、そこにもう1人、指導者と目される男が加わってからだ。破嵐万丈と名乗ったその男は、背景の明らかでない莫大な資金力を使い、独自の抵抗活動をおこなっていた。主に旧日本地区を中心として、帝国に弾圧または利用されかねない研究者たちを逃し、保護していたのだ。
 黒騎士と名乗っていた男アラン・イゴールと、この破嵐万丈との出会いが、それぞれの資金・技術力と人員・ネットワークを組み合わせることになり、“カラバ”という反帝国組織が生まれたのである。

 あれほど世界各地で頻発していた帝国軍とゲリラとの戦闘は次第に散発的になっていき、地球占領後1年半を過ぎる頃には、ごく少数のゲリラ組織のみが抵抗を続けるようになっていた。それらも、地下に潜り、この頃にはゲリラ戦などが発生することもほとんどなくなっていた。そして、地球人類にとって、もう一つの恐怖が出現する。
 かつてその存在が噂されていた、地球の非人類種族が、帝国の支配下の地球でついにその姿を現わしたのである。ミケーネ、あるいは百鬼一族と名乗るそれら非人類たちは、この機会に一気に地球の支配権を獲得するため、ムゲ=ゾルバドス帝国に対し恭順を装った。帝国はそれを受け入れ、寛大さを見せて帝国軍の一部としての活動を認めたのだ。そして人類の新たな悲劇が生まれることになったのである。なぜなら、彼らは帝国と違い、“地球人”の存在を必要とはしていなかったのだから。その活動は容赦無く、人々を追い込んでいった。
 帝国軍は反抗する地球人対策のほとんどに対し、もはやスカルガンナーを地球用対人用に改修した、ターミネーターポリスという無人機を出すことしかしなかった。それらは基本的に、スペシャルズや、非人類種族たちの仕事となっていたのである。
 スペシャルズはその功績によって権限を拡大していき、地球人でありながら独自の兵器開発までも、帝国に認められるようになっていく。そして占領2年後には、スペシャルズはゲリラ鎮圧の功績を認められ、正式に帝国軍の一部に組み入れられることになる。
 地球はムゲ=ゾルバドス帝国の支配下におかれ、そして、3年が過ぎた……。
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